2010年10月04日

「名人地獄」国枝史郎

青空文庫にあるものをiPhoneで読みました。

国枝史郎の小説は、どれもほとんどハズレがなく、面白いものが多いのですが、この作品もエンターテイメントとして非常に素晴らしい出来だと思います。

久しぶりに読み物で十分に楽しませてもらった感じがします(笑顔)。

本作品は、おどろおどろしい怪奇風味はなく、むしろ徹底してエンターテイメントに徹しているのですが、プロットが実にしっかりしていて骨太であり、同時に何事につけても『名人』(『職人』とかに通じる道を究めたその筋の専門家って感じでしょうか?)の持つ滲み出てくるような渋さ、かっこ良さが巧みな筆さばきで描かれていて、それがまた格別の味わいになっています。

どんなものであれ、いっぱしの専門家なら、かくあるべし、と思わずにはいられないような実に&実に魅力的な人物達が描かれています。

それだけではなく、この著者がしばしば好む異郷への憧れ、といったものが混沌、且つ豪華絢爛に描かれ、現実逃避しちゃいたい私には、大変そそられます。

体裁としては、江戸時代の時代劇のような小説ですが、どうしてどうして、今、書店の店頭に平積みされている新しい小説で、本作を上回るものがあるか? 私には甚だ疑問に思えてなりません。

つ~か、この作品よりも面白い小説を最近、見つけられないような気がしてなりません。

無料ですし、まずは食わず嫌いではなく、ちょっと読んでみることを強くお薦めします。やっぱり楽しめる小説ってのは、いいもんですね♪

そうそう、一応ちょっとだけ筋を。

江戸の凄腕与力として名をとどろかせた、かつての名与力が現在は楽隠居となりながら、ひょうなことから、謎の事件に巻き込まれます。信州でその追分絶賛された馬子や、何をやっても完璧に出来てしまい、人生に退屈した梨園の御曹司。剣技を究めた道場主に、賭場の喧嘩で身につけた超一流博徒。

一癖も二癖もある連中が、複雑に絡み合いつつ、時間を、場所を超えて関係して物語を作っていきます。

基本たる捕物のストーリーも面白いのですが、それを支える個々人のエピソードがまた、人を強烈に惹きつけます。

是非、一読あれ!

娘煙術師・名人地獄 (1970年) (日本伝奇大ロマン・シリーズ)(amazonリンク)
posted by alice-room at 21:55| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 小説B】 | 更新情報をチェックする
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