2006年04月13日

「中世の説話」松原 秀一 東京書籍

西欧中世の説話物語を読みたいなあ~と思って買った本だが、具体的な説話自体はほとんどなくて、その点では想像外れでした。しかし、その代わりに想像もしていなかった面白い事がたくさんありました。

この本を読むまで、基本的に西洋は西洋、東洋は東洋で別々な文化圏として成立し、説話文学(教訓物等)も当然、その文化的な枠組みの中で固有の意義を持って発達したものだと思っていました。

絹がローマ帝国に運ばれ、珍重されたり、ネストリウス派キリスト教が唐王朝で流行していてもあくまでも異国の要素があるという程度の認識でしかありませんでした。

まして仏陀伝(お釈迦様の出家する話)がカトリックの聖者伝となり、カトリックの祝日歴に堂々と載っていたなんて、凄過ぎません? ヒンドウー教の神の一人として仏陀がいるとかいう次元とは、訳が違いますよ~。

私が大好きで、今も読んでいる「黄金伝説(キリスト教の聖人伝)」にもこの仏陀伝由来のものが載ってるそうで、「聖バルラームと聖ジョザファ伝」というそうです。後で、黄金伝説読む時に注意して読まねば!

またインドの英雄叙事詩「マハーバーラタ」にある一角獣の話は、ヘブライ語やスペイン語経由という複雑な道を経てラテン語に訳され、いっきにヨーロッパ中に広まっていったそうです。まさにへえ~の世界。誰か、トリビアに教えてあげて下さい(笑)。

あとね、何が面白いかって、フランシスコ・ザビエルが日本に伝道に来てさいほどの「聖バルラームと聖ジョザファ伝」もカトリックの聖人伝として日本に持ち込んだそうです。とっくの昔に日本は漢訳仏典として、仏陀伝は伝わっていたのに・・・。なんか笑えません?

他にもいろいろな例があって、今まで別個のものと思っていたのが、思いもしない形で結びつき、大変興味深いです。今昔物語や千夜一夜物語、黄金伝説等々が縦横無尽に関連していくそのさまは、まさに壮大絶後。

決してトンデモ本ではありませんので、物事を知れば知るほど、好奇心が増してきます。そういえば、芥川龍之介氏の「奉教人の死」とか、『れげんだ・おうれあ』なんか、まさにこのことですよね。

う~ん知れば知るほど、奥が深いです。楽しいネ♪ 他にもシンドバッドの冒険のやつとか、いろいろと書かれています。確か、元ネタの翻訳本買った覚えがあるなあ~。部屋のどっかに隠れているだろうから、後で探してみないと。とても楽しいですが、キリがないことになります(苦笑)。ただ、読んどいて損はないかと。
【目次】
説話の故郷
  説話の故郷
  インドと西欧
説話の東西
  一角獣の話
  小鳥の歌
  ささやき竹
  すり替えられた手紙―沼神の手紙
  5度殺される話―智慧有殿
  宝蔵破りの話―ランプシニトス王の宝

中世ヨーロッパの説話―東と西の出会い(amazonリンク)
出版社自体がつぶれたのかな? amazonでは探しても出てきません。中公文庫に同じ物があったので版権売ったのかな? いい本なのに。

関連ブログ
「フランス中世史夜話」渡邊 昌美 白水社
「中世の奇蹟と幻想」渡辺 昌美 岩波書店
黄金伝説 Golden Legend コロンビア百科事典による
「カンタベリー物語」チョーサー 角川書店
「キリシタン伝説百話」谷真介 新潮社(途中)
「錦絵 京都むかし話」浅井収 蝸牛社
posted by alice-room at 22:40| 埼玉 ☁| Comment(2) | TrackBack(1) | 【書評 宗教A】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
alice-roomさん、こんばんは
「聖バルラームと聖ジョザファ伝」つながりで、TBさせていただきますので、よろしくお願いいたします。
この本は、面白いですよね。僕は中公文庫で持っています。一角獣の話等も元ネタは結構有名な仏教説話だったので、ゾクゾクしながら読んだことを覚えています。
山桜の記事いまだにTB出来なくて申し訳ありません。
こちらの記事にはTB出来たのですが、山桜の記事は何故かダメです。山桜の記事にスパムTBとみなされるような禁断のキーワードでも入っていたのでしょうか?

風邪気味とのこと、どうかお大事にしてください。
Posted by lapis at 2006年04月14日 00:33
どっかで聞いたことあるような気がしてたのですが、そうですよねlapisさんのサイトで拝見してたんですね。うわあ~あまりに記憶力のない自分が恥ずかしいです(赤面)。
でも本当に面白いですよね、この本。私も楽しみました(笑顔)。

そうそう、山桜のTBの件。何度もお手数をかけて申し訳ありませんでした。改めて禁止ワードをチェックしたら「主婦」というのがひっかかったみたいです。一時、スパムTBが多かった時に設定したのですが、それが原因みたいです。どうも失礼しました。設定から外しましたが、これからも凝りずに宜しくお願いします(御辞儀)。
Posted by alice-room at 2006年04月14日 01:09
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聖人にされたブッダ
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Tracked: 2006-04-14 00:19