ダ・ヴィンチ・コードを読んで、いきなりこの本を読んでもおそらく意味は分かりません。そういうたぐいの本ではないと思います。出版社サイドでは、ダ・ヴィンチ・コードの読者に売るつもりでしょうけど、その狙いは外れるでしょうね、きっと(失礼)。
著者独自の主張は、おそらくあまりありません。ある意味、どこかの本でみんな読んだことのある話や主張ばかりです。でもね、引用ばかりであっても、それを曲解して絶対に間違いない真実と主張する某(?)リン・ピクネット女史の本よりも何十倍も信頼を置ける本です。勿論、かなり胡散臭い話もあちこちから採用していて、私レベルでさえ元ネタが分かるものが多数あるのですが、それでも引用の仕方がまだ良心的であり、その引用が明確に分かるだけでもこの本の意味はあると思います。
それこそ、通説的な解釈の他、ごく一部の人が主張している説まで著者の視点ではありますが、広く文献を見たうえで取捨選択し、紹介しているのは興味深いです。どれもこれもほとんど知っていましたが、こういった感じでまとめてくれているのは、便利です。知らない説などもたまにはあり、後で参考文献として読んでみたいものもたくさんありました。
それと挙がられている説ですが、結構、ポイント良くまとめられています。いろんな説を挙げる時に変な省略や要約で、その説自体が違ったものになってしまうような場合さえあるのですが、少なくても著者の説明の仕方は、的確な要約だったと思います。勿論、その説自体が正しいかどうかは別にして、ではありますが・・・。ある意味、相当な数の本やら資料やら読み込んだうえで、更にもっといろいろ知りたいと思う人には、お薦めしてもいいかと思います。
初期キリスト教会がヨハネやイエスの親族によるグループとパウロによるグループの深刻な派閥争いがあった点などの指摘も、いささか痛烈且つ断罪的な評価ではあるものの、知っている人はふむふむと頷ける要領の良いまとめ方してるし、シャルトル大聖堂を初めとした大聖堂建築における歴史的な聖地の意味付けやそこに現われるさまざま中世的な結社の存在の解釈など、いちいちもっともだと思うことも多かったです。(うちのブログでシャルトルを異様に採り上げている意味と重なる問題意識の表れですね)
テンプル騎士団などの取り上げ方も悪くないんですが、紙面の誓約上、知っている人が知識整理として読むなら理解できても、本書の文章だけでは、そこに凝縮されている深い意味までは読みとれないのは、仕方ないことでしょう。バフォメット崇拝とかマンディリヨンとかね。
結論的にいうと、関連書をある程度(20~30冊)読んでから読むと、大変興味深く、楽しめる本だと思います。次に読む本を選ぶ参考になるし、知識の整理にもなります。反面、ここに書かれている説明だけでは、その背景的な知識無しには、なにがなんだか分からないのではないでしょうか?
トンデモ本じゃないの?という疑念を抱きながら、読んでいた私ですが著者が最後の方の章で、最後の晩餐でイエスの隣にいる人物を、マグダラのマリアとは思えないと言い切っている点で、読んでもいい本だと思います。
もっとも著者の支持している説には、トンデモ系の説も多々あるものの、ある程度分かっていて読む分には、問題ないと思います。そういうマイナス点を除いて読む分には、ポイントを押えていろんな本から引用してますので勉強になると思います。あくまでも、他の本を読んだうえでの話ですが。
私的には、今度買って蔵書に入れようとは思いますが、ダ・ヴィンチ・コードの小説的な面白さや謎解きの面白さはありませんので、気をつけて買って下さいね。まあ、マニア向けの一冊だと思います。
ランスの大聖堂やシャルトルの大聖堂、ロスリン礼拝堂など行って直接見ないと頷けないような説明がたくさんありますので、くれぐれもご注意を!
シンボル・コードの秘密―西洋文明に隠された異端メッセージ(amazonリンク)
【目次】
第1部 シンボルの始まり(宗教的シンボリズムの誕生と発展、古代エジプトの霊知(グノーシス)の遺産)
第2部 聖書、エジプトに由来するユダヤ教、ふたつの対立するイエス観(聖書と古代イスラエル人、イエスの生涯と伝道についてのふたつの説)
第3部 初期キリスト教とキリスト教シンボリズムの発達(聖パウロ、初期教会の歴史と、キリスト教シンボリズムの礎、キリスト教によるヨーロッパの統合と教会シンボリズムの礎、ゴシックの栄光)
第4部 秘密の系譜が表に出る(神聖幾何学と「ラ・ラング・ヴェルト」、教会内の秘密の系譜 ほか)
エピローグ(アミアンでの発見、ひとめぐりしてふりだしへ)
借りて読むにはよさそうですね。
個人的には、シャルトル大聖堂とかの取り上げ方が結構好きでした♪