2006年05月13日

「カテドラルを建てた人びと」ジャン・ジェンペル 鹿島出版会

カテドラル=聖堂(大聖堂は司教座教会を指す)、あれだけ巨大なまさに天を衝くような高みにまで人を押し上げようとする底知れぬ信仰心の賜物。それを生み出したのは、現代の高層建築では絶対に得られないあの崇高な気高さをも生み出した、縁の下の力持ちである人々であった。

社会階層上は平等とは決して言えなかった当時において、神の前でのカテドラルの建設だけは、その情熱において全ての人が平等であったのは、驚くべき事だと思った。確かにその都市の全人口1万人を収容できる広さを持った大聖堂では、庶民の隣に貴族が、僧侶が、国王までもが一緒にいられる特別な空間だった。

聖職者は確かにその建築に関わりはしたが、実際に資金を集め、設計者を見つけて発注し、石工を雇って最終的な完成までの責任を持っていたのは参事会員であったことを知ったのも本書のおかげでした。

石工の給料から、その人員調達。同じ石工と言われても、単なる切り分けるだけの単純労働者から各種の石切場や石材の特性を知りぬいたうえで彫刻を施すものではその質が全く異なる。後者はやがて彫刻家として、隔絶した立場を築き上げ、自らの特権的な立場を守ろうとして、閉鎖的な各種の符丁や知識の独占を行っていく。そういった過程から、いわゆるフリーメイソンが生まれていくことなどの説明も実に(!)興味深いです。

また、建築家に至っては更に破格の扱いであり、卑しい身分でありながら、桁違いの報酬と大聖堂に自らの名や彫像を残す名誉。更に、大聖堂内に埋葬される栄誉にまであずかることになる。かくまでも手厚いもてなしを受けながら、彼らはこの奇跡のような建築物の設計を生み出していったのである。

彼らが、その奇跡の設計を可能にした技術として、イスラム経由で伝えられた幾何の知識も紹介されている。というか、思わず数学の教科書と思うような幾何の話題についてもかなりの頁が割かれている。

とにかく、出来上がった大聖堂を見る視点ではなく、それを同時並行して作り上げていく人々の視点を持っている本だと思います。実に興味深いし、類書はほとんどないのではないでしょうか。

ゴシック建築のよくある美術上の説明なんかとは一味も二味も違いますのでゴシック好きなら是非、読んで欲しいところです。これはきっと楽しめる本だと思います。西欧中世というと、すぐ思い浮かべてしまう阿部先生の視点にも通じる職人や庶民の視点が実に新鮮で生き生きとしていてイイ♪

阿部氏の本が好きな人なら、これもきっと楽しめると思いますよ~。お薦めです(満面の笑み)。もっとも私の場合は、「ヨーロッパのキリスト教美術―12世紀から18世紀まで」の上下巻の合間に読んでいたので、時々話が複雑にオーバーラップして、どっちの本を読んでいるのか分からなくなることも(苦笑)。

しかし、両方の本とも同じ物をどういった角度から見るかといった違いでしかない場合も多く、別な意味で面白かった。知識が深まれば深まるほど、理解が深まり、もっと&もっと知りたくなりますね。いやあ~、ヨーロッパの大聖堂巡りを近いうちにやらねばなるまい!! 古代ローマ遺跡巡りは、カルタゴ行ったから、しばらく休んでそちらを優先だな。ふむふむ。

更にいうと、だてに鹿島から出ていません。他にもアルハンブラ宮殿のものとか持ってますが、鹿島の出している建築関係のこのSDシリーズは良書が非常に多いんだよね。他にも買う予定はあるんだけど、いつ買えることやら・・・。

カテドラルを建てた人びと(amazonリンク)

関連ブログ
「ヨーロッパのキリスト教美術―12世紀から18世紀まで(上)」エミール・マール 岩波書店
「大伽藍」ユイスマン 桃源社
「中世の美術」アニー シェイヴァー・クランデル 岩波書店
「中世の窓から」阿部 謹也  朝日新聞社
「図説 西洋建築の歴史」佐藤 達生 河出書房新社
「ステンドグラスによる聖書物語」志田 政人 朝日新聞社
「シャルトル大聖堂」馬杉 宗夫 八坂書房
「ステンドグラスの絵解き」志田政人 日貿出版社
「図説 ロマネスクの教会堂」河出書房新社
「大聖堂のコスモロジー」馬杉宗夫 講談社
「フランス ゴシックを仰ぐ旅」都築響一、木俣元一著 新潮社
「ゴシックとは何か」酒井健 著 講談社現代新書
posted by alice-room at 00:49| 埼玉 🌁| Comment(2) | TrackBack(0) | 【書評 建築】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
また面白そうな本を発見されましたね!

中世好きな人は買うべし!なのでしょうが今月は既に本に大枚はたいてしまいましたので、覚えておいていつか購入したいと思います。
Posted by Megurigami at 2006年05月13日 07:37
Megurigamiさん、これは結構面白いですよ~。ちょっと類書がないタイプの本ですのでちょっと気を付けて探してみて下さい♪
私は古書で買ったのですが、今日大きめの本屋に新品で並んでいましたので、是非機会があればどうぞ!!
しかし、私も昨日「ケルズの書」を買ってしまい、結構やばいことになってます。本は面白いけど、置き場所と購入資金が悩みの種ですねぇ~。本当に部屋の床が抜けそうでマジやばいです(涙)。
Posted by alice-room at 2006年05月13日 22:50
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