2006年06月18日

「キリスト教図像学」マルセル・パコ 白水社

ラングドン教授が書いていそうな本だな、とかしょうもないことを思いつつ期待のクセジュを読んでみました。

う~ん、これは使えない。内容は別に特別な専門家向けでもなく、クセジュ文庫らしく一般人に対して書かれたものなんですが、図像学の本なのに致命的な欠陥がある。図版が全くと言っていいほどないから、説明が文字だけでイメージできない。いくら名称をたくさん挙げて比較してもほとんど意味をなさないものになってしまっている。

本書で挙げられているのは圧倒的にフランスの作品が多いが、たとえフランスに住んでいる人であってもここに挙げられている絵画や彫刻をすぐに頭に思い浮かべられる人がそれほどたくさんいるとはどうしても思えない。

最低でも全頁数の四分の一以上は、図版がないと恐らく著者の言いたいことを読者は理解できないではないだろうか? また、根本的な意味で本書は欠陥のある本だと思う。

仮に名称だけで自らの記憶や写真集でイメージできる人がいるとしても、その人達が本書に書かれている説明で満足できるとは到底思えない。辛辣な言い方をすると、表面的な説明であまり価値があるような考察でもないし、そんなレベルなら、名称だけで「ああっ、あれね!」と分かる人が知らないわけないでしょう。

初心者には図版がなくて理解できず、知っている人には平易過ぎて内容がない読み物になってしまっている。また、むやみと対象範囲を広げ過ぎてそれが更にダラダラと列挙しているだけの印象を残し、本書をつまらないものにしている。我慢して読破したけど、この本は絶対にお薦めできない本です。

もし、タイトル通りのものをキリスト教図像関係を知りたいなら、私も先日読んだエミール・マール著の「ヨーロッパのキリスト教美術」(上下巻)。これを読むべきです。大家エミール・マールの作品から抜粋&要約したものですが、まずはこれを読むだけでもかなり勉強になると思います。本当にいい作品ですから! できれば私もハードカバーの方も読みたいんだけど、なかなかそこまで及びません(涙)。

まあ、とにかくこのクセジュを買う方はよく見てからでないと後悔されそうですよ。ご注意を!

キリスト教図像学(amazonリンク)

関連ブログ
「ヨーロッパのキリスト教美術―12世紀から18世紀まで(上)」エミール・マール 岩波書店
「ステンドグラスの絵解き」志田政人 日貿出版社
「中世の美術」アニー シェイヴァー・クランデル 岩波書店
「中世の美術」黒江 光彦 保育社
「秘境のキリスト教美術」柳 宗玄 岩波書店
「黒い聖母と悪魔の謎」 馬杉宗夫 講談社
「新装版 西洋美術解読事典」J・ホール 河出書房新社
posted by alice-room at 20:48| 埼玉 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 宗教A】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック