2006年06月22日

「中世社会の構造」クリストファー ブルック 法政大学出版局

本書は「中世の開花」という大部の分厚い本を、分冊化し、翻訳したものである。想像していた以上に読み易い。だからと言って、いい本というわけでもない。だけど、本書によって初めて知り得た知識もあるのでなんとも評価に困るというのが本音だろうか?

メモ代わりに私が興味深いと思ったことをメモ的に書き出しておこう。売り飛ばそうかと思ったが、とりあえずキープしておこうか。

中世において、まさにこの世の物とも思えないほど美しく飾りたてた教会に住み、宝石や金銀で覆われた聖遺物箱を備え、王侯貴族のよう生活をしていた修道院長。まさにあの成り上がり者(確か・・・普通の農民か何かの子供で教会に幼くして入って、本人の努力と才覚のみで出世したんですよ~)と同時に、有能で天才的手腕を有する政治家でもあるシュジェール大修道院長は、明らかに自らが強欲であることを自覚した俗物と思い込んでいたのですが・・・。

本書を読む限りでは、当時の価値観から言うと、それは個人的な欲望によるものとは一概に言えないようです。きらびやかに飾ることは本当に神の世界をイメージさせる聖なる仕事と心底信じていた人々が本当にいたそうです。まあ、確かにシュジェール大修道院長が語った言葉は有名ですし、私もあちこちで目にした覚えもあるのですが、あくまでもあれは世間向けのポーズだと思っていたのですが・・・。


清貧こそ神への道と信じる人々(シトー会等)と現世において美しいものばかりを集めて少しでも栄光の神の世界への憧れを強めることで神へ近づこうという、一見すると相反する価値観が並存していた。それが西欧中世だったというのは、新しい発見でしたね、私的には。

文盲の世襲諸侯などではなく、まさに当代きってのインテリが有していた価値観というのがさらにインパクト強かったりする(本当なら・・・?)。

そうそうコンクラーベについても興味深い記述がある。国王側が自分の意のままになる人物を教皇に選ばさせる為に、鍵をかけて閉じ込めたというのは知っていたが、その間に枢機卿が死んだりまでしていたそうで食事を減らすとか以上に陰惨な圧力がかかったことが描かれている。これもどこまでが事実なのか、よく分からないがとても面白い内容である。

他にも面白い記述が散見されるものの、そこで展開される考察や説明が物足りない。一応論旨は通っているのだが、どうして何故といった私の疑問には答えてくれない。

もっと&もっと知りたいという好奇心は湧くものの、う~ん本書だけ読むのでは意味が分からないだろうし、ある程度中世史に興味持っている人じゃないと、全く意味不明で終わるかもしれない。まあ、サブテキストとして持っていてもいいかもしれない、それぐらいの内容です。

そうそう、社会構造というものの特に目新しい切り口とかではないので期待しないように。普通によくある中世社会史みたいなもんです。
【目次】
教皇と乞食
国王と王権
教皇と司教
教皇と国王の選出
農民、都市民、領主
乞食と教皇
中世社会の構造(amazonリンク)

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posted by alice-room at 23:34| 埼玉 ☔| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 歴史A】 | 更新情報をチェックする
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