2011年06月01日

「ソフトウェア最前線」前川徹 アスペクト

結構前の本だが、この手のものは、出版当時、本当に最前線を捉えているものならば、かえって少し経った方が、本当にその指摘が正しいか分かるので、その意図の下で読んでみた。

う~ん、本書で書かれている指摘は確かに今でも当てはまるし、その意味では間違ってはいないと思うものの、まあ、お役所仕事の○○白書みたいだなあ~と思っていたら、本当に著者はお役所の方でした。元通産省。

別にお役所の人でもいいんだけど、物の見事に上っ面の正論を述べているんだけど、実効性のある提言は皆無です。

ご本人も文中で書かれているけど、プロジェクトの企画や管理経験はあるんでしょうが、実際に作っている側の事情は、聞きかじりのみ。

経歴は立派ですけど、これでは実効性ある経済政策は無理だろうなあ~と誰でも少しでも業界を知っていれば、思わざるを得ない。いやあ~教科書水準のレベル以外は本当に何も書かれておりません。

問題点はご指摘の通りですが、その背景への洞察・考察が極めて薄っぺら。
解決策まで教科書通り。アメリカの本や論文の受け売りで、それをいかに日本のいわゆる下流構造まで含めて改革していくのか、いっこうに独自の提案らしいものもない。

申し訳ないが、2ちゃんのマ板でも読んでた方がよっぽど役立つし、業界の実情が分かる!

現在の状況で利益を得ている人がいて、その人達が実際に力を持っているからこそ、業界の構造は何十年経っても変わらないのであって、それを変えるには、変える事で既存の構造を支持する人々に新たな便益を得るだけの仕組みを作らなければ、変わる訳がない。

だとしたら、その仕組みを変えるだけの新しいシステム(仕組み・業界構造)を提案して初めて、価値があるんだけど・・・。

既存の恩恵にどっぷり浸かっていた人が、書いてるだけに素直に首肯できない本です。決してお薦めしません。
【目次】
真実1 世界はソフトウェアに依存している
真実2 このままでは日本のソフトウェアはダメになる
真実3 ソフトウェア工学で問題がすべて解決するわけではない
真実4 ウォーターフォール・モデルはソフトウェア開発に適していない
真実5 優秀な人が優秀なソフトウェアをつくる
真実6 ソフトウェアの天才は身近なところにいる
真実7 ソフトウェア産業を育てるのはユーザーである
ソフトウェア最前線―日本の情報サービス産業界に革新をもたらす7つの真実(amazonリンク)

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posted by alice-room at 22:13| Comment(1) | TrackBack(0) | 【書評 実用・ビジネスB】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
 拙著を読んでいただきありがとうございます。「実効性のある提言は皆無」というご指摘は少し厳しすぎると思いますが、確かに十分に実効性のある方策を書けなかったのは事実でもあります。
 「その仕組みを変えるだけの新しいシステム(仕組み・業界構造)を提案して初めて、価値がある」というご意見にも、「変えるには、変える事で既存の構造を支持する人々に新たな便益を得るだけの仕組みを作らなければ、変わる訳がない」というご指摘も、まったくその通りなのですが、誰も実現性のある新しい仕組みを提言できていないというのが現状ではないでしょうか。
 多層下請構造からフラットな業界構造へという提言は、ずいぶん前に経産省が発表し、JISA(情報サービス産業協会)などの業界団体も業界の将来像として認識しているのですが、ほとんど進展はありません。
 もし、何か実現性のあるアイデアをお持ちであれば、ご教示いただければ幸甚です。
Posted by 前川 徹 at 2011年11月20日 07:12
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