シャルトル大聖堂の黒い聖母なども例として挙げられ、説明されていますが、非常にオーソドックスにケルト以来の大地母神崇拝の流れと、聖母マリアに捧げられた燈明の煤により黒ずんだ説などを解説されています。
上記の話は本書の中のごく一部分であり、中心は既に述べたように東洋・西洋を問わず、美術における色彩の象徴主義について解説されています。東洋においては、『色』を示す漢字の原義として、漢字の成り立ちにまで遡って個々の『色』が現してきた象徴的な意味を説き、その色を以ってして美術的表現において何を現す事を意図してその色が使われているかまでを解説されています。
西洋の場合だったら、当然ラテン語やガリアの言葉が示す意味からスタートしています。
著者が本書の中で主張されていますが、従来の美術解釈というと図像的なものは比較的早くから行われていたが、色彩自体が有する伝統や社会的概念から自ずと暗示される象徴的意義が看過されてきたということがあるそうです。
写本や壁画などで何を描くかという指定は、当然依頼者からあったとしても個々の色彩については、それを描く人に委ねられた場合がほとんどあった。しかしながら、描く主題に合わせてもっとも適切な色彩を当時の社会において認識されていた色彩概念に照らして選んでいったその背景も考慮しなければ、本当にそこに描かれたものを理解するには、不十分だというのである。
う~ん、当然過ぎるくらい当然なんですが、ちょっと目からウロコですね!絵画を見る時に、色彩から受ける印象を現代に生きる自分の生(ナマ)の感性として捉えることも勿論、十分に意義あることだとは思うんですが、それだけでは、足りないんですね。歴史や図像的な表現形式や意図など、約束事を知っていないとそこに描かれた当時の人々の意図を十二分に理解することは難しいですが、それには色彩という要素も不可欠だったんですね!!
「綺麗なら素敵♪」というわけではないんだ。希少で高価なラピスラズリなど鉱物絵具などで聖なる聖母の衣が『青』で描かれたりというのは知っていましたが、それだけでは足りないんですね。
美術作品を観る時に色彩を意識する大切さを学べたような気がします。そういう意味で良い本なのかも? ただね、普通に読んでると結構、辛いです。正直眠くなるなあ~。
普通に絵が好き、という人だったら、あまりお薦めしません。逆に美術に限らず、色彩感覚というものに関心がある方にはいいのではないでしょうか?まあ、私はどちらかといえば、即座にクリュニー派なのはご存知の通り、間違ってもシトー派では我慢できません。
豪奢な大聖堂に、これでもかと奇怪な彫刻を彫りまくり、美食を楽しんで煌びやかな典礼行事に勤しむタイプです。現世の崇高なる華麗な世界を通じて、神の栄光を間接的に感じる、という俗物ですね(爆笑)。
そうそう、「ベアトゥス黙示録」めちゃくちゃ高いが買うかな?
【目次】
黒い聖母
ゴシックの版画―その木の香
拓―紙と墨の芸術
色彩象徴の系譜―とくに赤について
象徴色としての青
地の色―黄について
白の思想
『ベアトゥス黙示録』における色彩
敦煌莫高窟―とくにその色彩について
「樸」について
黒い聖母(amazonリンク)
関連ブログ
「黒マリアの謎」田中 仁彦 岩波書店
「シャルトル大聖堂」馬杉 宗夫 八坂書房
「黒い聖母崇拝の博物誌」イアン ベッグ 三交社社