
まずは、この本の表紙で手が止まっちゃいました。どっかで見たなあ~と思っていたら、澁澤龍彦氏の本で何度か見かけていたあの「スキタイの子羊」だったんですねぇ~。本のタイトルでは、思い浮かばなかったけど、思春期に読んだ本の影響は、ちょっとやそっとじゃ消えません。
記憶力がないことで定評のある私ですが、さすがにこれだけインパクトのあるものは、記憶のどこかに引っ掛かっていたようです。(でも、名称覚えていなかったけど・・・)
植物になる動物《子羊》だっていうんだから、そんなのあるんかい?って思うでしょう。勿論、そんなのありません!でもね、中世の人々は真面目に信じていたんだよね。迷信や噂に踊らされている民衆ではなく、高度な教育を受け、知的水準も十分に高い人達がそれを心底信じていて、たくさんの本にも書かれていたんだから、楽しくなってしまいます(笑顔)。
実際、どんなふうに信じられていたかと言うと・・・
「スキタイの子羊」とは本当の動物であると同時に生きた植物でもあると説明され、何人かの著述家によれば、この「植物=動物」の合成物はメロンかヒョウタンに似た種子から生えた木になる果実である。
この木がつける果実はあるいは莢(さや)は完熟するとはじけ、その中の小さな子羊の姿があらわになる。その子羊は自然に生まれた通常の子羊となんら変わらぬ完全な姿をしている。
この驚くべき木は以前「スキタイ」と呼ばれていた「東タタール」の領土に分布すると考えられており、その土地の住民達が衣服や「かぶりもの」の材料となる織物を作るのは、この「木の子羊」たちの並外れて真っ白な羊毛からだと言われていた。
時が経つと、子羊が木の実としてではなく、地中に根差した短い茎にヘソの部分でくついている、生きた子羊として描写される別のバージョンが流布した。子羊を先端に付けて宙吊りにしている茎もしくは幹は、十分に柔軟なので、子羊は下の方に向かってその茎をしならせては、届く場所にある牧草を食べることができるのである。届く範囲にある草を食べ尽くしてしまうと、茎はしおれ、子羊は死んでしまうのである。
この植物=子羊には骨も血も柔らかい肉もあって狼たちの好物であるが、その他のどの肉食動物からも攻撃されることはないと伝えている。
アレキサンダー大王が遠征途中で出会い、泣く泣く諦めた『ワクワク』を思い出しません? この手のお話が好きな人ならピンと来るでしょうが、美しい女性が果実としてなる『ワクワク』という木があり、かのアレキサンダー大王もその美しさには目を奪われてなんとしても自らの遠征に連れて行こうとしたが、美女はその木を離れると生きていられず、涙を飲んで彼女達を残し、大王は遠征を続けた。というあの有名なお話です。
是非ともアメリカのバイオベンチャーで作り出して欲しいところですが・・・そういう夢はおいといて、このスキタイの子羊も実にユニークで魅力的ですよね。この手の話って、大好きなんですよ~私。
ボリュームは少ない割に値段がそこそこ高いのがいささかネックですが、装丁もちょっと凝っていていい本です。中身が面白いのもまたイイ! このシリーズ全てを集めるのは、場所を取るのでちょっと二の足踏みますが、何冊か面白いのを見繕って買っておいて良さそうです。私は今、二、三冊しか以ってないからあと四、五冊くらいは買っておこうかな?
荒俣さんとかお好きそうな本達です。このシリーズ。知っていてもなんの役にも立たないけど、読んでいて空想の世界に遊べます。ある時代、ある地域ではこの空想が、事実とされて百科事典に載っていたんですから、凄いことです!!
今の人って、私もそうだけどTVの映像で知識として知っていても感覚として知っていないから、薄っぺらなんだよね。TVでやらせをやっていたり、平気で嘘つかれても気付かないんだから、中世の人々の空想を笑うなんてむしろ滑稽なんだけど・・・。
逆に進んでそういったもの世界で遊ぶゆとりのある方向き。こういうのって、本当に楽しかったりする。
さて、本書ですが結論書いちゃうかな? ここで言っている「スキタイの子羊」って何だと思います? (制限時間3分経過・・・)
実は綿だったりします。白くて弾け出るさまは、まさに綿と言われると納得もんですが・・・って、皆さん生えている綿ご存知ですよね。(知らないっていう貴方は情報過多の都会の中で実は無知になっていますよ~。速攻で旅に出ましょう♪)
本書では綿が何故、スキタイの子羊になったのか、その伝説の生まれて育っていった過程も説明してくれます。いろんな文献に基づきながら、これも実に面白いです。すぐ読み終えてしまうのが残念ですが、こういう本もいいねぇ~。ちょっと叡智の図書館っぽいかな(フフフッ)。
そうそう、何故かアマゾンでは出てこない。取り扱っていないようなのですが、もしかして既に出版社つぶれてるかな? 古書店で半額ぐらいで大量に出回っているから、その可能性もあるなあ~(一人ごとでした)。
ふと、思い出した。mandrakeの本、7、8割翻訳したままで忘れていた。50年なんて著作権はとっくに切れた古い本だから、問題無いし。夏休みに残りを訳してしまおうっと。8月中に出来上がったら、ブログでも紹介しますね(気が向いたら・・・)。
関連ブログ
国立国会図書館「描かれた動物・植物」展
「怪物誌」荒俣宏 リブロポート(図版13枚有り)
「バロック科学の驚異」 荒俣宏 リブロボート(図版3枚有り)
自分でも何かつくって広めたい誘惑に駆られますね。
seedsbookさん、やりますか?(ニヤリ) そんなのあるのっていうものでも、人が信じてしまえばそれは既に存在したも同じですもん!
やったもの勝ち、っていうか人を信じさせたもの勝ちです。
人に迷惑をかけないもので、誰もが喜びそうなものがいいですね。ネッシーとか雪男とか、土のこなんてのは、今でも賞金がかけられてますし・・・。
未確認生物とかって、なんか好きだったりする。
>古書店で半額ぐらいで大量に出回っている~
この本は、欲しいので探してみます。情報ありがとうございました。
結構、面白いですよ~、この本。インサイダー情報をメールで送っておきましたので良かったら参考にして下さいませ(ニヤリ)。
ところで、ゆうべNHKでフランス・ヴェズレーから生中継をしていて、サント・マドレーヌ大寺院の「マグダラのマリアの聖遺物」を映していたのですが、残念なことにそれがいったい何なのか全く説明がなくて欲求不満がたまってしまいました。映像から見た限りでは、なにか細長いもの。わたしには角あるいは管のように見えました。なにかの道具のようにも。
もしご存知なら教えてください。
NHKのヴェズレーのやつ、私は途中から見たんで聖遺物のところ観ていないんですよ~。確か、あそこにあるのは遺骨だったはずなんで頭蓋骨とか大腿骨とかじゃないかと思うんですが・・・すみません、想像の域を出ません。お役に立たなくて申し訳ありません。
ただ、ヴェズレーにあるマグダラのマリアの聖遺物は、後の別のところから本物が出て、贋物ということになってしまっているみたいです。詳しくは以下の記事に書いたものがありますので宜しかったらどうぞ。
http://library666.seesaa.net/article/15170863.html
http://library666.seesaa.net/article/3224011.html
聖遺物は遺骨なのですね。わたしにはそんな風に見えなかったもので、もしかしたらあの「細長いもの」は遺骨を入れた容器だったのかしら。。。見間違いかもしれません。ああもう一度あの場面が見たい!
「いわしの頭も信心から」というとちょっと失礼かな・・・もはや聖遺物の真贋なんてどうでもよいことなのでしょう。あの荘厳な雰囲気はとても良かったです。
>もはや聖遺物の真贋なんてどうでもよいことな
>のでしょう。あの荘厳な雰囲気はとても良かっ
>たです。
きっと、そうなんでしょうね。一度は是非行って自分の目でも確かめてみたいですね♪