2011年06月27日

「蟻族」廉思 勉誠出版

副題に「高学歴ワーキングプアたちの群れ」とあるが、先日の「ホームレス博士」よろしく、博士号をとってもアルバイトぐらいしか職がない、といった日本国内の問題とも共通する点があるように思った。

共に国家の政策に騙され、あるいは進んでそれに便乗することで自らを客観視できないまま、流され続けて、人生を棒に振りつつある人達。そんな捉え方も出来ると思う。

大学の学部卒や院卒がエリートであった時代は、中国においてでさえ、もう過去の夢でしかない。まして、都市戸籍と農村戸籍で、純然たる差別が存在する現代中国で、昼間の本科生でさえなく、農村から夢だけを抱えて出てきた彼らに、明るい明日は難しいのかもしれない?

そういった中国特有の事情はあるものの、時代故か妙に日本の今に重なる姿が痛々しい。

自ら努力することで、自分の将来は開けると漠然と夢を見ながら、現実の中で翻弄され、それでも自らの能力を客観視できない悲劇。中途半端な知識で、矮小な自らを尊大に過大評価し、あるいは、今風の若者気質か、他人との関わりを避け、他人とのコミュニケーションを満足に取れないまま、社会不適合者になっていく姿など、まさに日本の今時の人に思えてしまう。

(そういったことをリアルに経験して、未だにそのメンタリティから卒業したとは言い切れないような私自身がいうのも相当の抵抗があるのも事実なのだが・・・)

権利意識や自らへの自尊心は高くても、実際に行動に移せず、またそうした団体行動自体を避ける性質を持つ故か、ネット上での活発な意見表明や伝達等は、ある一つの勢力になりつつあるそうです。

「人肉検索」なんて言葉も始めて知りましたよ。

ネットで標的になった人間を、リアル社会で周囲の人間が情報を集め、ネット上で晒し、徹底的に攻撃したりすることらしいですが、その姿は、東電役員等の晒しなども含めて、日本にも共通するものを感じます。

気持ちは、激しく同意なんですが、それやっちまったら、最後だろって気もしちゃいます。

時代に翻弄されて、本人が知らず知らず時代の犠牲になっている気の毒な面もある一方。

親が田舎の実家に戻ってこいと行っても、都会での自由で刺激のある生活を失う事を恐れ、同時にもしかしたら、一発当てて自分の知識や能力が正当に(?)評価され、成功する可能性もある、そんな夢を捨てきれずにズルズル都会の片隅に残り続けている人達が多数存在しているらしい。

中国の人は、日本人の考える以上にはるかにプライド高いからね。
出来ないことを出来ないって、まず正直に言える人いないし、自らの能力を自覚できていない人が多いから、余計に他人と競い、自らを追い込んで破滅していく人が多いのも事実。

もっとも、それが彼らの強力な競争心をかきたて、常に追い込まれた状況で努力に努力を重ねて、成功する人物もいるのも事実。日本も昔は、ハングリー精神ありましたしね。エコノミック・アニマルなんて、今のゆとりで既に絶滅危惧種らしいけど・・・。

以下、本書より抜粋。
私は今年23歳、社会生活に足を踏み入れたばかりと言うべきだが、人生のあらゆる奥深さや魅力は私にはもはや存在せず、まるで人生の行き止まりまで来てしまったかのようだ。
・・・・
・・・・
時代は前進していると言われるが、その推進力となる腕に私は触れることができない。世の中にはスケールが大きく偉大な事業があると言われるが、私はそれがどこにあるのか分からない。人生の道はどうして行けば行くほど狭くなるのか?
蟻族:「大卒低所得群居集団」
蟻は知能指数が高い。蟻の知能指数の高さで「蟻族」の「高度な知能」や「高等教育を受けている」などの特徴を表すことができる。
蟻は群棲動物に属し、一つの蟻の巣には何千何万という蟻がおり、これは「蟻族」が物理的な状況から群居生活をしているという特徴と合致している。
蟻の長所が「蟻族」集団と極めて類似している。
例えば、不撓不屈の精神がそうだ。たとえ行く手を遮ろうとしても、蟻はすぐに別の道を探し、障害物を乗り越えたり、迂回したりする。
さらには、希望を持ち続けるところも似ている。
冬の間ちゅう、蟻は夏を夢見ている。厳冬期、蟻達は厳しい寒さはすぐに去り、暖かく過ごしやすい日々が間もなくやって来るのだと、いつも自分に言い聞かせている。珍しく小春日和にでもなれば、みな巣から出てお日様のもとで体を動かし、ひとたび寒波が押し寄せれば、たちまち暖かな巣穴に隠れてまた太陽が出るのを待つ。
まあ、本人自身の責めに帰すべき事由で自業自得の例もあるが、努力しても&努力しても厚い社会の不公正な壁に阻まれ、人生を浪費してしまう姿は、胸を熱くするものがある。

日本の場合と違い、中国はやっぱり日本以上に、社会的不公正がはびこっているのは事実でしょうし、辛いです。もっとも、中国が特別な訳ではなく、世界中のあちこちでそれ以上のことは、当たり前に存在するんですけどね。

正義が勝つ、なんて、まさに夢のお話で勝たなければ、何も始まりませんけどね。
悪い事してでも勝つ、っていうのも一面では真実でしょうが、無理して得たものは、所詮無理なバランスの上に存在する以上、バランスはいずれ崩れるのも真実。

王道や正統が、長い目では一番コストパフォーマンス良さそうですが、短期では自ずとそれも変わってくるので難しいところですね。

余談で話飛びまくってますが、考えさせられる話です。世界の工場、中国ですが、足元のこれらの問題を内部に抱えて進んでいく以上、そりゃ、自ずと対応も違ってくるってものでしょう。

良い勉強になりました。

そうそう、この蟻族の仕事見てたら、比較的割が良く、彼らがつける可能性のある職として、プログラマー(PG)が幾つかあがってました。

う~ん、やっぱり日本ではPG喰っていける訳ないですね。2ちゃんねる見るまでも火を見るより明らかですか・・・。

人ごとじゃないね。気をつけましょう。

昨日、応用情報技術者試験を1日5時間受けてきましたが、あとデータベースとかITアーキテクチャーの高度試験を少し取ったら、もう情報処理は要らないなあ~。

8月は証券1種で、あとは内部管理者試験取れば、お仕事関係資格はほぼ終り。

最低限、どこでも食っていけるぐらいには評価されたいもんです。資格は経験があって、初めて評価される程度だしねぇ~。

そういやあ~中国でソフトウェア開発を委託してたところも、それなりに作れてたもんねぇ~。あの低価格でさ。私のテスターとしてのお給料より、請負価格安いんだから、ビックリ!

ただ、バージョン管理さえも満足に出来ていなかったけど・・・。あっ、日本で上場している独立系ソフトウェア会社でもそうだったっけ? たいして変わらんか? 日本もお寒い限り・・・・。

まあ、今のご時世、各自で頑張るしかないんだろうなあ~。

本書はいろいろと考えさせられる内容でした。日経ビジネスの中国レポートとかにも、本書と符号するような記事多いよなあ~。ふむふむ。
【目次】
1 「蟻族」誕生記
接触
第一次研究調査
研究チーム
第二次研究調査
八〇後

2 「蟻族」のすべて
基本概念
発生原因
心理状態
性・恋愛・結婚
所得状況
職業
教育状況
インターネット
集団的行動の傾向

3 「アリ」伝奇―「群居村」取材レポート
都市のスキマ階層に触れる
北京での奮闘
非主流の道を突き進んで
すべてはうまくいく
村から村へ
上京記
保険会社のガゼル
孤独な旅人
唐家嶺を離れる
下を向いた青春―「高学歴」貧民村調査
「大学村」での奮闘
唐家嶺のショバ代
蟻族―高学歴ワーキングプアたちの群れ(amazonリンク)

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posted by alice-room at 22:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 未分類B】 | 更新情報をチェックする
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