2006年07月27日

ペルー事件と「オプス・デイ」 「陰謀結社」実態と落差

ペルー事件と「オプス・デイ」 「陰謀結社」実態と落差
【MSNニュースより転載】
小説「ダ・ヴィンチ・コード」で、オプス・デイという実在のカトリック結社が出てくる。本の中では社会を敵視する超保守の、陰謀を巡らす組織として描かれているが、96年に起きたペルーの日本大使公邸占拠事件の時、私はこの結社を取材したことがある。

 日本大使公邸に左翼ゲリラが外交官ら多数を人質にとって立てこもった同事件で、交渉のパイプ役になったのがホアン・ルイス・シプリアニ司教。キャリーバッグを引っ張って、毎日、公邸に入っていく神父を覚えている読者もおられるだろう。同司教がオプス・デイのメンバーだった。

 当時、ローマ特派員としてバチカンもカバーしていた私は、ペルーに出張すると、政府に影響力をもつカトリック教会にアプローチした。そこで知ったのがオプス・デイだった。ただ教会の主流派からは疎んじられていて、活動内容を聞いても「よくわからない」と異口同音に返ってきた。

 シプリアニ司教の考えや交渉手法を知りたくて、直接、オプス・デイのペルー支部に取材を申し込むと、スポークスマンで弁護士のアンドレス・エチェバリア氏が2時間にわたって丁寧に説明してくれた。

 オプス・デイは「神の御業(みわざ)」の意で、世俗と断絶した修道会とは違い、在俗信者の結社であり運動体。1928年、スペインのホセマリア・エスクリバー司祭(75年没)が創設した。

 「社会の中で、仕事を通じてキリストの教えを広め、自ら聖人になるべく努力する」との指針に基づき、メンバーには徹底した献身と実践を求める。優秀な子どもを寄宿舎生活で鍛え、教育し、メンバーには政治家や経営者など社会的エリートが多い。

 シプリアニ司教はこの結社が掲げる信者像の一典型だった。極左テロ組織「センデロ・ルミノソ(輝く道)」の拠点のアンデス山中で貧困救済に奔走する一方、ミサではテロを厳しく非難。報復を懸念する信者が「言葉を和らげたら」と言っても譲らなかった。一方でテロリストが負傷した時は病院に見舞い、またその免罪に努力している。

 キリスト教精神の徹底した実践と献身を求めるオプス・デイは、カトリック原理主義組織である。教会主流派から煙たがられるのもそのためで、結社の秘密性もあって陰謀めいた話を生む素地を与えている。

 ローマに戻って数日後、電話があった。「わたしたちに関心をお持ちと聞きました。詳しく説明しますのでいらして下さい」。バチカンのオプス・デイ本部からで、改めて結社のネットワークに驚いたものだ。オプス・デイが今日のカトリック運動の中でどのような役割を果たしているかは次回書く。

グローバル・アイ:カトリック原理主義組織 国際政治にも影響力
【MSNニュースより転載】
前回書いたカトリック原理主義組織オプス・デイの続きである。

 日本ではイスラム原理主義ほどにはカトリックの原理主義は話題にならないが、信仰領域の拡大、信仰の純粋性の維持という点において無視できない影響力を持っている。

 バチカンが「在俗カトリック運動」として認定している諸組織のなかで、原理主義組織はオプス・デイを含め六つほどあるが、二つのタイプに分かれる。一つは積極的に庶民の中に浸透を図っていく草の根のタイプ、もう一方は排他的なエリートの組織である。

 前者の代表が「新求道運動(カミーノ・カテクメナーレ)」。創設者であるスペイン人のキコ・アルグエーロ氏は、画家で音楽家で建築家という多才な人物で、マドリードで貧民救済活動をしていた1964年、信仰の質の向上を目指して結成した。

 この組織の特徴は、教義や信仰にとどまらず、私生活までも含む厳しい相互批判である。対等のせめぎ合いの中からしか真の信仰は生まれないとの理念からで、メンバーは避妊・離婚の禁止、富の喜捨などのおきてを厳格に守る。

 一方、後者の代表がオプス・デイだ。前回も触れたが、メンバーには社会的エリートや裕福な人が多く、「各自が職場でキリストの教えを広め、自ら聖人となるべく努める」ことを課す。組織の憲章は秘密で、外部にオプス・デイへの所属を明らかにすることも禁じられている。原理主義組織の中でもウルトラ右翼といわれ、高い信仰をもつ自分らが、迷える信者を教え導くとの考えが中核にある。

 カトリック原理主義の運動理論はそれぞれに異なるが、共通するのは形がい化し、空洞化した現在の信仰に対する強い危機感である(これはイスラム原理主義とも通底する)。

 これらの組織はバチカンや教会の位階的な官僚主義に拒否感をもち、ローマ法王との直接的つながりを大事にする。カトリック再生のカギを、信仰が生々しく息づき、信者同士が濃密な人間関係を保持していた初期キリスト教に求め、行動を重視する点も共通だ。

 カトリック主流派にとって、自らも批判の対象となりかねない原理主義組織は煙たい存在だ。ただヨハネ・パウロ2世やベネディクト16世の前・現法王は、原理主義の行動力を高く評価し、支持してきた。

 宗教戦争の側面も持った旧ユーゴスラビア紛争では、カトリック原理主義メンバーがはせ参じたし、現在もロシアや旧東欧で精力的に布教活動をし、ロシア正教との摩擦が続く。

 カトリック原理主義の動向は国際政治へのインパクトからも見落とすことは出来ない。
珍しく大手の新聞社でオプス・デイを真面目に採り上げていると思って記事を読んだが、非常に表面的な説明で本当に取材をしたのだろうかとさえ疑いたくなる内容の薄っぺらさだといえよう。

オプス・デイの日本語版ホームページでも見れば、もっと興味深いものを知ることが出来るくらいだ。

オプス・デイが占めるカトリック教会の中での特別な位置や新興勢力として世界中に広がっていく影響力について、なんの考察も取材による裏付けもない。この程度のもので一次取材としての意義は感じられない。

外国の記事を読んだり、平凡社の百科事典に出ているオプス・デイの項目を読むことをこの執筆者の記者にはお勧めしたい。オプス・デイの創始者がカトリック教会内でどのようなに遇されているか、それだけでも特別なものを感じられると思うのだが・・・やっぱりNHKスペシャルじゃないと駄目かなあ~。

関連ブログ
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posted by alice-room at 18:20| 埼玉 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | 【ダ・ヴィンチ・コードC】 | 更新情報をチェックする
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