
私がこれまで読んださまざまな本にも本書の書名が挙がり、ヘルメス学やオカルト系の基本文献として押えておかねばならないものの筆頭に挙がるものですが、値段が高くて今まで尻ごみしていました。
まあ、ちょっとしたタイミングで結局買ってしまったのですが、これは難しい本です。文章自体は非常に平易でその点では、むしろ読み易いのですが、その文章で表現される内容となると・・・普通の人100人いれば99人は、理解できないと思います。私には、残念ながら理解できませんでした。
では、読むべき価値がない本かというと、決してそうではなかったりするのが更に困るのです。これまでも何冊か読んできた錬金術関係の本やグノーシス関係の本で出てくるものを十二分に理解し、そういった方面に造詣が深い方であるならば、本書に書かれている深い&深い意味を自分のものとすることができそうな・・・非常に漠然とした予感がしてしまうのですよ・・・。
パリのノートルダム大聖堂を初めとする、種々の大聖堂の彫刻やステンドグラスに描かれた図像の数々。今まではキリスト教的図像学の視点からしか解釈されていなかったゴシック大聖堂の図像が、本書では、それらを音声学的カバラという視点で読み解き、ヘルメス学の叡智を世界に伝えるものと捉えてその解釈の仕方を伝えることを目的にして書かれています。
本書の中でもはっきりと述べられていますが、ヘルメス学を学ばんとして長い期間に渡る修練と忍耐を経た一部の者のみにしか理解できないし、しかもの能力も才能もある正しき者しか、それは不可能だと言っています。
本書は選ばれし者にとっては、最良の贈り物であっても凡百の大衆には理解できるはずがないものです。私も当然理解できないですし、そこまではまりたいとも思いませんが、少なくとも本書を読んで価値がある、と思うには最低限、キリスト教的な図像学関係の知識を持っていないと辛いように思います。そして錬金術関係の知識も必須です。勿論、表面的なものでいいと思いますが、何も知らないで読むのは無謀です。個人的には、エミール・マールの「ヨーロッパのキリスト教美術」とか、セルジュ・ユタンの「錬金術」ぐらいは読んでからチャレンジすることをお薦めします。
本訳者の平岡忠氏が奇しくもエミール・マールの「中世末期の図像学」の本訳者であり、後書きでセルジュ・ユタンの「錬金術」等を参考にしたというのは、なるほど!と頷けました。
そうそう、個人的には馬杉氏の「パリのノートルダム」も事前に目を通しておくべきかと? それぐらいの気合が必要な本です。でもね、この本で得た知識は後できっと役に立ちそうな気がします。知識が深まれば、深まるほど本書の理解が深まり、そのうちに「ああっ~あのことか!」ときっと言いそうななんだよね。今の私には宝の持ち腐れですが、将来への期待を込めて買っておいて正解のような気がしています(あくまでも私個人の場合)。
私が分かる範囲でいうと、非常に鋭い洞察力に裏打ちされており、そこいらにあるいい加減なオカルト本とは違うように感じます。特にルネサンスに対する辛辣な評価。ラファエロとかは私結構好きなんですが、そうであってもやはりそれ以前の伝統を壊したことの歴史的評価や近代につながる、ある種の浅ましさを伴う個人主義の問題点などへの洞察には、改めて考えさせたり、気付かされたりすることも多かったです。
本書の一部分でもいいから、もっと理解できたら素晴らしいだろうなあ~。それと共に思ったのは、よくこの本を日本語で出版できたなあ~ってこと。正直言って、日本で売れるとは思えません。出版自体が快挙でしょう。フランスでさえも当初は全然売れなかったのも然り。国書も頑張っちゃいましたね!それはやっぱり拍手もんでしょう。おそらく本書では利益が出ないでしょうからね。
【目次】大聖堂の秘密(amazonリンク)
大聖堂の秘密
パリ
アミアン
ブールジュ
アンダイの周期十字架
結び
関連ブログ
「錬金術」沢井繁男 講談社
「錬金術」セルジュ・ユタン 白水社
「錬金術」吉田光邦 中央公論社
「荒俣宏の20世紀ミステリー遺産」集英社
「パリのノートル・ダム」馬杉 宗夫 八坂書房
「SD4」1965年4月 特集フランスのゴシック芸術 鹿島研究所出版会
「ヨーロッパのキリスト教美術―12世紀から18世紀まで(上)」エミール・マール 岩波書店
「大伽藍」ユイスマン 桃源社