
歴史的には長らく文盲の人の方が多数を占めてきた中で、近代以降、識字率が向上し、一般大衆が文字を読める時代が訪れました。大衆が本を読み、本を求めた時代(19世紀)の状況を本書は紹介しています。(「読書の社会史」というらしい)
本書で「読書室」なるものの存在を初めて知りました。さしずめ、現代なら、ネットカフェってところでしょうか?
個室にこもって他者との交流が無い現代に比して、昔は社交場でもあった訳で最新の情報を得るにしても、そのスタイルには隔世の感があったりします。
でも、文字が中心なのは時代を超えた共通点でしょうか?
そういえば、自習室なんてのも都会では流行りですが、あれは読むのが自分の資料ですからねぇ~。場所だけではなく、読むものも提供するこの読書室とは、ちょっと毛色が異なります。
出版文化の歴史的推移などもそれなりに面白いし、日本の当時の出版事情なども個人的には、そこそこ楽しめたものの、一般の人は、つまんないだろうなあ~。
チャップブックや青本、仮装綴じとか、他の本で知っていることなども多々出てきたけど、それもそのはず、この著者の本、私何冊か読んでたりする。みんな、この系の話だし、そりゃ既視感も湧くかと(苦笑)。
個人的には木版画の挿絵とか好きなんでねぇ~。この手の話には、興味をそそられてしまったりする。日本でも多色刷りの浮世絵的手法の絵の入った新聞錦絵とか好きだしね。
内容も悪くはないんだけど、この分量と内容でこの定価は無理過ぎですね。そもそも売れないであろう本を学校のテキストとしてしか、まずさばけない価格で出すのは、台所事情は察しつつも、この企画持たないだろう・・・予感を漂わせてます。
しかし、この本の前に読んだ「イタリア都市の諸相」なんかは、すっごく勉強になり、目から鱗で定価で買っても決して損ではないかと。個人的にはこの企画が続く事を願いますが、(良さそうな本のラインナップだしね)前途多難だろうなあ~。
本書も200円で先日の古本まつりでなければ、絶対に買わなかったもんね。文庫よりも量もないし、手軽に読めるのはいいのだけれど・・・微妙だね。まあ、そういう本でした。
【目次】本を読むデモクラシー―“読者大衆”の出現 (世界史の鏡 情報)(amazonリンク)
はじめに
第一章 飛躍的に高まる識字率
男女の逆転現象
第二章 「読書室」というインフラ
貸本屋、読書室
パリにおける読書室の分布
学生行きつけの「ブロスの文芸室」
光熱費を浮かせること
読書室の品揃え
☆ケーススタディ ―「ガリニャーニ書店」の場合
ガリニャーニ、英語新聞を創刊する
海賊版・パリガイド、そしてリヴォリ通りへの引っ越し
第三章 日本の貸本屋
「継ぎ本」と「ご用聞き」
写本も刊本も、貸本屋も版元も
「かりて損のゆかさるもの」―馬琴と貸本について
「お仲人」としての貸本屋から文明開化の時代へ
第四章 新旧交代―「新聞連載小説」「青本」「カナール」
連載小説不適格者―バルザックの場合
連載小説の王者デュマ、あるいはリサイクルについて
消えていく「青本」
消えていく「瓦版(カナール)」
第五章 文学市場という「デモクラシー」
市場の芸術家
印税システムという、文学の「デモクラシー」
第六章 読書する女性という表象をめぐって
読書室、管理人室
読書における性差について
読書という悪徳、「時間のない女性像」
おわりに代えて―「徴候」、そして「聞き書き」という可能性
「神々は細部に宿るのか」
「聞き書き」の可能性
あとがき
ブログ内関連記事
「チャップ・ブックの世界」小林 章夫 講談社
「ガルガンチュア―ガルガンチュアとパンタグリュエル」フランソワ ラブレー 筑摩書房
著者の翻訳