2011年11月16日

「中世が見た夢」小佐井伸二 筑摩書房

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中世のロマネスク建築に魅せられ、自らの心の中にある何物かに揺り動かされるように、フランス各地のロマネスク教会を訪ねた著者の旅行記、否、心象記録とでもいうべき文章です。

本書を読んでいて、専門家ではないものの、フランスの教会のステンドグラスにとり憑かれた方が撮ったステンドグラスの本をふと思い出した。

著者は専門家と言えば、専門家ではあるものの、あくまでもフランス文学であって、建築学、ましてロマネスク建築とは直接の関わりはなさそうですが、本書を読む限りでは、どっぷりと浸かっている姿が目に浮かびます。

また、本書のあちこちに散りばめられた建築に関する説明、というか著者自身の内面的理解の確認、はどれだけの関心を持って、関連する本を読んできたかを否が応にも指し示している。

本書を読んでゴシック好きの私ではありますが、ロマネスクに対しても深い共感を覚えました。ただ、実際に行くのって、ロマネスクは辺鄙な場所が多く、大都市で交通の要衝にあるゴシックとは比べ物にならないくらい大変なんですよね。

実際にロマネスク建築をあまり見ていない私が簡単に『共感』というのはなにぶんにもおこがましいのですが、著者のかなり入っちゃてる感じは、相当伝わってきます。

但し、残念なことも。
少なからず写真はあるのですが、建物に関する説明はどうしても文章のみのところが多く、しかも著者の心象的風景としても重ねて表現されていることもあり、なかなか本書を読んだだけでは、イメージし切れません。

また、ロマネスクやゴシック建築の基本的な部分を常識として知らずしては、本書をエッセイとしても楽しむ事は甚だ困難かと思われます。

アンリ・フォション、エミール・マール、偽ディオニシウス・アレオパギタ、この辺は普通にそこかしこに引用されていますが、基本ではあるものの、一般向けとしては相当ハードルが高いかもしれません。

しかも、それだけ知っていても本書はエッセイでしかなく、新しい知見を得るような本でもありません。最初から最後まで、著者の独り言の共感者でいなければならず、値段以上に読者を絞り込んでいる気がしてなりません。

たぶん、売れてないし、買って最後まで読んだ人も少なそう。
ただ、個人的には嫌いじゃないです。

後半に出てくるクリュニー修道院なんかも好き。パリの中世美術館とかを思い出しました。

以下、抜き書きメモ。
偽ディオニイシウスの「神名論」のうちの『神の顕現』について。

その第一章第一節にいう。

「事実、存在を超えて秘められた神性については、聖書がわれわれに神にふさわしく開示したこと以外に、あえて語ることも、考える事もしてはならない。理性や思考や存在を超えているあの超越的なものを認識しないこと、それが超存在的なものの認識の目的である。

それゆえ、神性原理の聖なる言葉の光そのものがわれわれに明示されるその範囲においてしか上方へわれわれは目を上げるべきではない・・・事実、もしきわめて賢明かつ完全に真実な神の学を信じるべきであるならば、それぞれの知性にふさわしい範囲において、神のさまざまな秘密は明かされ、示される。」


第二節の冒頭に、聖書を通してしか神は、その超越性ゆえに、自己をわれわれに啓示しない、と繰り返した後、

「しかしながら、それ自身における善はいかなる存在者ともまったく交わらないままにとどまってはいない。

なぜなら、善は自らすすんでその善意にふさわしく、自らの内にとどまる超本質的な光をたえまなく示現して、各被造物にその受ける力に応じて照明するのだから。

そして、善は清らかな魂を自らの方へ引き寄せ、魂が善を観照し、善と交わり、かつ、善に似るようにするのである。」
パリのサン・ヴィクトール修道院のユーグ。

「魂は自分らを越えて見えないものにまで上昇する。純粋な魂はかの純粋な観想に自らを委ねる。そうして、純化され、照明されて、魂は自らをすっかり神の方へ運ぶのだ。」
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【目次】
1 オルシヴァルの永遠
2 ソリニャックの光とル・ドラの影
3 トゥールニュと西欧の曙
4 フルーリ―天上のエルサレム
5 コンク―聖女フォアの奇蹟
6 悪魔について
7 モアサック―神の顕現
8 ブルゴーニュ―「天の重み」
9 ヴェズレーの春とオータンの夏
10 ポアチエと抒情詩の誕生
11 プロヴァンスの3姉妹
12 トゥールーズ―白鳥の歌
中世が見た夢―ロマネスク芸術頌(amazonリンク)

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「フランス・ロマネスクへの旅」池田 健二 中央公論新
「ロマネスク彫刻の形態学」柳宗玄 八坂書房
「ロマネスクの美術」馬杉 宗夫 八坂書房
「図説 ロマネスクの教会堂」河出書房新社
「ロマネスクのステンドグラス」ルイ グロデッキ、黒江 光彦 岩波書店
「ステンドグラスの絵解き」志田政人 日貿出版社
「とんぼの本フランス ロマネスクを巡る旅」中村好文、木俣元一 新潮社
「世界の文化史蹟 第12巻 ロマネスク・ゴシックの聖堂」柳宗玄 講談社
「ロマネスクの図像学」(上)エミール マール 国書刊行会
祈りの中世‐ロマネスク美術写真展~国立西洋美術館
「サンチャゴ巡礼の道」イーヴ ボティノー 河出書房新社著者の共訳本
「ゴシック(上)」アンリ・フォシヨン 鹿島出版会
中世思想原典集成 (3)~メモ「天上位階論」「神秘神学」
中世美術館1回目~フランス、パリ(20100623)
posted by alice-room at 08:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 建築】 | 更新情報をチェックする
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