
【書きかけ】
この人の書いた本なら、まず外れは無い。
過去に著作を読んだ経験から、そう思える著者が何人かいますが、私的には本書の著者もそういう人の一人です。
そして、間違いなく本書は読む価値のある本です。
実際に自ら現地へ訪れた経験と丹念に関連書を読んで勉強された人が真摯に文章を書くと、こういう本になるのだろうなあ~と行間の端々から、伝わってくる文章です。
あとね、実は著者について、今まで読んでいて気付かなかったことを1つ発見しました。著者、国書から出てる「ルルドの群集」の訳者です。そう、あのユイスマスンスの!
海外なんて一度も行ったことがなく、キリスト教のなんたるかを全く知らなかった高校生ぐらい頃の私が読んでたことを思い出しましたよ!!
同じくユイスマンスの「大伽藍」、「腐乱の華」、澁澤龍彦の本を貪るように読んでいた頃からだったんですね。著者を知っていたのは。今回、本書の著者略歴見るまで全く気付きませんでしたよ。うかつでした・・・・。
前置きが長いので、いよいよ中身について。
スペインのサンチャゴ=デ=コンポステーラが巡礼の最終目的地ではあるわけですが、そこに至る4大ルートがあり、その途上には、数々の聖遺物を有する有名な巡礼地(=聖地)が存在します。
その主だったものについて、巡礼路に沿いつつ、紹介していきます。それらのほとんどは世界遺産だったりするわけですが、割合最近のルルドなどもしっかり紹介対象に入っています。
また紹介と言っても、観光ガイドに毛の生えた程度の薄っぺらな内容の本が多い中、本書はそれらとは一線を画し、非常に内容豊かです。
歴史的な成り立ちから、さまざまな文献に出てくるその土地、その聖人にまつわる各種伝説やエピソードに始まり、現在のありように至るまで。実に多種多彩な資料や自らの脚で周った体験を踏まえて書かれているので文章に深みと味わいがあり、本書を読むだけで往時の姿やその聖地の有様が目に浮かび、我知らず、行ってみたい!と思わずにいられない魅力があります。
著者は類書をいくつか書かれていて、それらの本とも内容が錯綜する部分は、重複しないように書き分けられてはいるものの、思わず、類書も読まねば思ってしまうぐらい良いです(笑顔)。
シャルトルの章なんて、実際に私も2度行き、クリプトへも行ったくらい好きで何冊も関連本を読んである程度は知っているつもりでしたが、それでもさりげなく知らないことが書かれていて大変勉強になりました。
本書は薄いのですが、相当濃い内容が凝縮して書かれています。
ニコラ・フラメルの話なんかも良い例で目から鱗と申しましょうか? 読んでいて、そんなこともあったのかと、無知蒙昧の私をまさに啓蒙されたような気分でしたよ(苦笑)。
本当に勉強になる1冊です。
文章は非常に読み易く、前提となる知識はあまり無くても困らないのですが、本書に盛り込まれた情報、知識は得がたいものがあります。そして、著者カトリックなのかな? 実に真摯な姿勢で「巡礼」という行為や「巡礼者」を捉え、実に暖かい目で評価しているのが心地良いです。
特に信仰する宗教を持たない俗物の私ですら、本書を読むと「巡礼」に行ってみたい!(私の場合は、観光にしかならいけど)と強く思ってしまうくらいでした。本書は絶対にお薦めの1冊です。
抜き書きメモ:
サン=ジャック=ラ=ブーシュリー教会。うっ、ここのタンパンはニコラ・フラメル夫妻の寄進によるものだとは全く知りませんでした! そしてあの錬金術士として名高い人物が巡礼路の基点となるこの教会と関係があるとは・・・うかつな私。
・・・その正面タンパンは珍しいことに、古く「音楽の術」と呼ばれていた「錬金術」の象徴表現にあてられ、中央には聖母子像、タンパンの縁は、楽器を持った天使八体によってぐるりと取り巻かれていた。聖母は右手に幼子イエスを抱きかかえ、左手には一束のぶどうの房をつまみあげている。そして、聖母子の両脇に、一組の夫妻がひざまずいて手を合わす姿が見られた。夫妻のかたわらには、それぞれNとPとの頭文字が描きこまれていた。すなわち、ニコラ・フラメルとその年上の妻ペルネルとの。在りし日の姿である。
ニコラの横には、巡礼杖を持った聖ヤコブ、ペルネルの横には、洗礼者の聖ヨハネが膝をついた者の肩に手をおいて寄り添っている。聖母の両側には、コキーユ・サン=ジャンク(帆立貝)までが一つずつ、刻み込まれている。
ペルネルと結婚して間もなくのころ、平穏な市民生活を送っていたフラメルに、一夜、夢の中に天使が現れ、古い一冊の書物を示して、そこにはだれもついに知る事のできぬものが秘められていて「いつの日かおまえがそれを悟るときがくる」と告げる。そのすぐ後、ニコラは未知のある人から、神秘の絵入りの古い手写本を二フロリンで購入する。そこに解読不能な不可思議な文字、蛇、鞭、水の噴き出す泉、流れる血、剣を持った王などの奇怪な絵がちりばめられていた。フラメルは、その意味を解こうとして苦心するがかなわず、高名な医学者アンソーム師も適切な助言を与えることはできなかった。この書は『ユダヤ教徒アブラハム』の題がつき、ユダヤ教のカバラ神秘学では著名な古典籍だった。ニコラは、「ガリシアの聖ヤコブさま」の御力を仰ごうと思いつく。サンティヤゴ巡礼とはすでにこの時期、人知では到達不可能な、奥深い、隠れた秘儀にたどりつこうと願う霊的探究の確かな道程として受けとめられていたことをさし示す徴表の一つがここにある。
妻のゆるしを得て、ニコラは長い苦しい巡礼の旅に出る。ナバラ、リオハ、ブルゴス・・・そして目的のサンティヤゴ・デ・コンポステーラ大聖堂。祈りをささげたあと、帰途、かねて評判に聞くレオン在のユダヤ教学者、今は回心してキリスト教徒となったカンチェス師をたずね、たずさえて来たかの古書を見せる。失われてたと思われていたカバラの秘宝の書を目にして、師は驚喜する。
ニコラは、師から神秘学の手ほどきを受け、師を伴って、帰国の途につく。途中、オルレアンでの師の発病と死。しかし、パリに戻ったフラメルは、3年間の研究ののち、秘宝の鍵を読み解き、ついに1382年4月25日、午後5時頃、水銀の溶媒に溶かした鉛が輝く金に変わって現れるのを見た・・・・
【目次】フランス 巡礼の旅 (朝日選書)(amazonリンク)
1 出発―サン=ジャック塔の下から
2 海の星よ、今ここは、麦の海原―シャルトルのノートル=ダム
3 大天使の舞う海のほとり―モン=サン=ミシェル
4 森かげに、水ぎわに隠れた御堂を―ブルターニュのトロ・ブレイス
5 岩窟のくぼみの黒い聖母―ロカマドゥール
6 岩山の頂の赤い聖母―ル・ピュイ=アン=ヴレイ
7 ウーシュの谷のロマネスク聖堂―サント=フォワ・ド・コンク
終章 ピレネーの山のふもとで―奇跡の地ルルド
用語解説
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「サンチャゴ巡礼の道」イーヴ ボティノー 河出書房新社
「サンティヤーゴの巡礼路」柳宗玄 八坂書房
「巡礼の道」渡邊昌美 中央公論新社
「中世の巡礼者たち」レーモン ウルセル みすず書房
「スペイン巡礼の道」小谷 明, 粟津 則雄 新潮社
「中世の奇蹟と幻想」渡辺 昌美 岩波書店
「図説 ロマネスクの教会堂」河出書房新社
「フランス ゴシックを仰ぐ旅」都築響一、木俣元一著 新潮社
「星の巡礼」パウロ・コエーリョ 角川書店
「フランスにやって来たキリストの弟子たち」田辺 保 教文館
「フランス歴史の旅」田辺保 朝日新聞社
「巡礼と民衆信仰」歴史学研究会 青木書店
「巡礼の文化史」ノルベルト オーラー法政大学出版局
「芸術新潮1996年10月号」生きている中世~スペイン巡礼の旅
「スペイン巡礼史」関 哲行 講談社
「ある巡礼者の物語」イグナチオ デ・ロヨラ 岩波書店
「スペインの光と影」馬杉 宗夫 日本経済新聞社