いやあ~、ずいぶんと久しぶりに読みました野阿氏の本。懐かしいけど、相変わらず素敵な、一種、独特の世界観を構築された作品を書かれています。作品中の時間経過では前作「バベルの薫り」に先立つ話となる「ソドムの林檎」ですが、予備知識も不要ですし、幾つかの完全に独立した作品を集めた短編作品集ですので、この本だけ読んでも十分にこの面白さは伝わるでしょう。
もっともこの本はSFと言えば、ジャンル的にはSFなのでしょうが、本質的にここで描かれるのは、リアルな政治なんですよね。大国間や各種利権団体との権力奪取や国家対市民(=民衆)といったドロドロな政治的闘争やら葛藤を背景に描かれる、テロリスト側からの視点での描写。舞台が生々しすぎるのに反比例して、主人公は冷静沈着且つ非情の職業的テロリスト或いは特殊機関の捜査官。小説として、まさに観念的理想の結晶としての存在であるテロリストが出てきます。まるで、一切の無駄がないゴルゴ13みたい(でも、オヤジより若い女性の方がいいよね、やはり)。
何よりも、この著者の書かれる作品は、文章スタイルが洗練されていて流麗且つ簡潔で美しいんですよ。耽美的ですらあり、一番最初にこの著者の書かれた作品読んだときには絶対に、妄想癖のある少女趣味(=ゴスロリ系)の人か、演劇関係者かなあ~とか思いましたもん。まさかマッチョな男性(別な本のあとがきによる)と思えません。話はそれますが、夢枕獏氏とは方向性も文体も違うのですが、文章スタイルで感動を与える作家さんとしては、私の中では必ず挙がってくる方です。結構、ファンだったりする・・・・。
しかし、いつも思うんですが、この著者は好きだよねぇ~。政治結社や秘密結社、非合法組織、自治組織、軍部に宗教組織etc. ありとあらゆる合法・非合法を問わない組織が覇権や主張を争う姿を、現実にある組織を巧みに取り入れて近未来という場で構築する構想力には脱帽です。また、この方の作品の背景に描かれる建築物や文化、芸術に関する雑多な博学的知識も架空である作品世界を妙に現実感を伴って認識させ、下手したら、作品内のテロ事件がAP通信あたりのニュース記事よりリアルに感じることさえありますもん。
濃密な人間心理の描写も秀逸だし、こういうの好き。でももっと好きなのは、倒錯した愛情表現だったりして…。但し、低俗な快楽手段としてでは無く、宗教的にしばしば見られるような、人が人を超越する為の神話的(秘教的)秘儀としての手段としてなんですが…。
「ダ・ヴィンチ・コード」とかでも触れられていたけど、古代の宗教儀式にはつきものだし、そもそも巫女とかは神との間の一夜妻として神に奉仕する存在だったし、古代ローマ帝国ではウェヌスの処女、古代エジプトでは神聖娼婦とかの伝統はごく当たり前のことだったんですけどね。そういえば、マグダラのマリアが娼婦と呼ばれるようになったのは、「マグダラ」の地名が原因という説もあったなあ~。マグダラでは高級娼婦がいることで有名(当時は恥ずべきことではなく、むしろ神の恩恵を現世で顕現する祝聖された存在でもあった)で、その地に住む女性であったに過ぎないそうです。余談ですが。
感想からそれてきましたが、この小説内にも上記のことに関連した内容が出てきます。日本人には、すぐピン(!)と来る「喪がり」のこととかね。日本でも新しい天皇が即位する時には、大嘗祭で「喪がり」の期間がありますが、あれは天皇が代々引き付いてできた神性を受け継ぐ為の準備期間であり、人としての存在は亡くなっても神的霊力は、次の人に受け継がれることをシステムとして保障する仕組みなんですよね。人であって人でない、宗教的権力者には、イエスに負けない血脈としての神性だけでは足りず、そうした儀式が必要だったりします。これを挙行しないと、後に「半帝」などと呼ばれ、正式の天皇として資格が疑われたりするそうな。
恐るべし天皇制。そういえば、天皇制関係では女帝についての議論が騒がしいが、議論の本質がおかしいよう気がするんだよね。だって、そもそも人間はすべて平等と言っておきながら、皇室という特別な存在を規定しているわけで、その時点で通常の男女同権とかそういった論理とは別次元で捉えられるべきテーマだと思うんだが?まして、天皇制を考えるのに際して、他国の王室ではこうだとか比較するのって、論外!!
言葉は悪いけど、英国王室の歴史の浅さを考えてみると…。おまけに過去に断絶してるしさあ~。他の王室もそうでしょ。それぞれの国の事は、それぞれの国民が考えればいいことで何故、すぐ自分で考えずに周りばかり(=他人に目ばかり)気にするのかねぇ?マスコミが世論をリードするのもおかしな話。今のご時世、自分で情報は集められるし、判断できると思うのですが…。ほぼ一番歴史の古い日本の天皇制(インドのマハラジャにも日本の天皇制に負けないくらい古い血筋があるそうです)がむしろ、独自に新しいスタンスを生み出せばいいだけで、他の国の手本になればいいのにね。何故、マネばかりするんでしょうか?
読書レビューがニュース評論になってる(苦笑)? いつもながら、迷文だなあ。さて、「イエスのミステリー」を読むか?日曜までに読みきれるかな???
ソドムの林檎(amazonリンク)
2005年03月12日
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