あんなに薄い本なのに、あれだけ多くの情報・資料が簡潔にまとめられ、しかも理路整然と説明されているのはとっても素晴らしいです。高校生時代、ユイスマンスの「大伽藍」を読み、漠然としたイメージしかなかったものが、ヨーロッパへ行き、英・仏・伊・チェコと教会建築やカタコンベ、修道院&付属図書館、礼拝堂等々を巡り歩いて実際にこの目で確かめ、そこで実感することで更に強烈な感動・感銘を受けましたが、そこで感じた諸々の印象がこの本を読むことで実にスムーズに納得がいき、素直になるほど~って思いました。
ちょっと毛並みは違うんですがホラー映画「デモンズ3 (1989)」 でテーマになるまさに、大聖堂ゆえの恐怖感が聖なる存在であると共にオーバーラップしてきますね。この本を読んでまず最初にあの映像が生々しく甦ってきました。
より詳しく内容に触れると、また高校生時代の世界史の知識が役立ってくるのですが、中世的停滞が終わり、11世紀の大開墾時代の到来辺りから始まります。農業生産高が著しく向上する当時、農村人口が増え、それは新たな農地拡大を求めて、更なる森林伐採・開墾を促す循環をなしていた。もともと、農村はキリスト教以外の土着宗教が繁栄し、まさに異教の温床であった。ダ・ヴィンチ・コードの解説を待つまでもなく、ラテン語の村人を意味する pagaanus がフランス語の異教徒 paien を指すのもそれを如実に現している。特に土地(農村)に根差した地母神信仰が切っても切れない存在であった。
そのような状況下、農村で食えなくなった農民は都市に向かい(いわゆる商業革命がこの頃)、いわゆる都市住民が現われてくる。こうした都市部への人口移動と開墾による自然消滅という2点を中心にして、農村が有していた地縁・血縁的結びつきから離れた都市住民は大いなる不安心理にかられていた。
都市住民は、それぞれが異なる背景を持つ故にその不安は既存の地母神ではカバーできず、その結果、有力になってくるのが普遍性を有する聖母マリア信仰であった。これは普遍的な心の拠り所としての地母神崇拝に他ならなかった。かくして、大聖堂はマリアに捧げられるようになっていく。大聖堂内における薄暗さや樹葉の彫刻は、失われた森林への愛着を満足させる代替物でさえあった。
このようなことが前半に書かれている。まさにユイスマンスの「大伽藍」以外の何物でもない。
その後も、いかにしてゴシック建築が高く、高くひたすら高く、神へより近づく為か高さを指向することになったかや、至る所で沸きあがった建築熱(熱狂)の理由にも言及されている。
さらに、そのゴシック建築が歴史という避けようのない時間の侵略をいかにしてくぐり抜けて今日まで残ったのか、その辺りも非常に興味深い。是非、その辺りの事がお好きな方には読んでもらいたい一冊ですね。旅行先で教会を回るのが楽しくなりますよ~。
そうそう、ネットで見ていたら私もすっごくはまったプラハの聖ヴィート教会のことが書かれていたブログを発見!素敵な写真もありました。個人的には、私のブログでも左に写真貼ってあるプラハのストラホフ修道院図書館が一番のお薦め。本好きには、もう感動で涙ものの素晴らしさ。ラテン語読めたらなあ~。アテネ フランスでラテン語講座あるのでマジ行きたかったりする。
ゴシックとは何か 講談社現代新書(amazonリンク)
プラハ城 聖ヴィート大聖堂
2005年03月12日
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『ゴシックとは何か』(再読)
Excerpt: ゴシックとは何か―大聖堂の精神史 やっぱ面白い本だゎ~。 前読んだときは 発生期の「元祖」ゴシックばかり 印象に残っていたけれど、 今回は18~19世紀の 「ゴシック・リヴァイヴァル」..
Weblog: 紫式子日記
Tracked: 2007-04-19 15:49