そもそもボスの作品の内面的な解説なんて、当人以外の何物にもできないはずだし、自分が思っていることをダラダラと述べている態度が(一見、真摯な姿勢に見えて)不誠実なものをかえって感じてしまう。しかも、一般的な絵画の説明はあえて避けているというが、そこが根本的に間違っている。ボスの作品の持つ一般的な時代背景や当時、一般的に理解されていた象徴等をまず、説明したうえでご自分の見解なり私見なりを述べるのはいいが、一方的に自分の意見を無意味に書き連ねたうえでこういう作品なんですよ、といって偏見を植え付けられた人がボスの作品を見た時に、果たして素直に受け入れられるだろうか?はなはだ疑問である。
私的にはこういう本は大嫌い!! ボスの絵はまず、余計なものを入れないうちに実際に見るのが一番。それからなら、まだ弊害も少ないでしょうが、あまりに自分勝手な視点で書いているのに、最低限の基本的な説明はおざなりでヒドイ。しかも澁澤龍彦氏のような、作品に偏見を与えず(=害さないで)画家への興味をかきたてる絶妙のエッセイには、才能が必要なのに・・・・この本の作者にはそれが感じられない。失礼だが戯言にしか思えない。
私が怖いのは、個人的感想なら勿論自由だし、人がどうこういう筋合いでもないのですが、本として他の人が手に取った時に及ぼす悪影響が心配なのです。あの素晴らしいボスがこんな本の為に歪んだ理解へと導かれてしまうのが・・・悲しい。素晴らしい作品は、へんな予備知識なんていれず、まず自分の目で見るのが一番だと思うに・・・。別に有名な作品でなくてもいいし、自分が気に入ればそれが最高に素晴らしいものだと思う。街中に貼られているポスターであっても、素晴らしいセンスだなあ~と感心するものは無数にあるのにね。
なんかこの本だけは、イヤ! 基本的には、寛容の精神を持っているつもりの私ですが、苦痛を感じた一冊でした。
「悦楽の園」を追われて(amazonリンク)
ボス「快楽の園」画像@プラド美術館