2006年09月20日

「五重塔」幸田 露伴 岩波書店

gojyuunotou.jpgこれも読んだような気がするんだけど・・・、記憶が怪しい? でも、改めて読んで正解でした。

腕はあるのに、おべんちゃらが言えない為に自らの大工としての技量にふさわしい仕事に恵まれてこなかった男。鈍い奴と世間からの侮りをよそに、その男が谷中の寺に作る五重塔を作りたいという、ただその一念から恩ある師匠への義理も捨て、傑物と思われる寺の上人様から見事、五重塔製作の依頼を勝ち取る。

人としての義理も人情も、恥も外聞もなく、ただひたすら素晴らしい五重塔を我が身で作りたい。それだけを唯一の心の支えとして、職人として誠心誠意を尽くして仕事に打ち込む。その結果は、各地の建築物に多大なる被害を与えた暴風雨が来てもその五重塔は壊れるどころか、釘一本、板一枚抜けることなく完璧なままであった。

実に小気味良く、引き締まった感じの文体から、日本人が近代への過程の中で価値観を喪失しつつあった『職人としての誇り』を強く感じた。コスト削減や効率化の美名の下で、全てのものから完成度を執拗に求めるという姿勢を否定してきた昨今には、決して昔の話では無い。まさに今現在のお話でもある。

NHKのプロジェクトXを見るまでもない。研究者であろうと職人であろうと自らの仕事に限界を設けて、そこそこの事で事足れりと妥協する俗物に真の満足は得られないであろう。

解説で触れられるエゴイズムという単語自体が不適切であろう、そういう次元ではないのである。個人の思惑ではなく、ひたすらに技の完成度を求めれば、他の一切は捨てねばならぬ。それが明々白々の真実なのだろう。それが分からぬ輩に、説明するだけ野暮ともなろう。

職人の仕事への情熱、そのひたむきさに心を打たれると共に、改めてそういう飛び抜けた才能と情熱は、世渡りには不向きであることも改めて身に沁みる話でした。自らに思うところのある人には、良い刺激になるかもしれません。それが不幸か幸運かは定かではありませんが・・・。

五重塔(amazonリンク)

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posted by alice-room at 02:13| 埼玉 ☔| Comment(4) | TrackBack(3) | 【書評 小説A】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
alice-roomさん、こんばんは
露伴は、良いですよね。僕は岩波書店の全集を持っています。でも、本箱の奥にあるので、取り出せません。(苦笑)
どちらかというと、「五重塔」のような小説より、分類不能な「連環記」のような作品が好きです。
ほとんど、関係ない記事ですが、少しだけ露伴がでてきますので、TBさせていただきます。
それでは、よろしくお願いします。
Posted by lapis at 2006年09月21日 00:37
lapisさん、こんばんは。露伴の全集をお持ちなんですか、へえ~それは楽しそうですね♪
露伴の本は、実はあまり読んだことなかったのでいまさらですが、これからもっと読んでみたいと思いました。「連環記」ですか、図書館で探してみよっと!!
うっ、また読みたい本が増えてしまいました(笑顔)。TBありがとうございます。
Posted by alice-room at 2006年09月22日 21:51
alice-roomさん、こんばんは
上のコメントで触れた露伴の「連環記」を引用した記事を書きました。
大半は、関係ないですが、露伴繋がりということでTBさせていただきますので、よろしくお願いします。
Posted by lapis at 2006年12月13日 22:46
lapisさん、TB有り難うございます。こちらからもTBさせて頂きますね。澁澤さんのそういう本があったんですか~。う~ん、読んでみたいですね。でも、他にも読みたい本が山積みでどうしたものか???(苦笑)
Posted by alice-room at 2006年12月15日 18:21
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