
十代でなければ実感できず、それ以降の世代にはたぶんこんな感じだったとしか思い出すことでしか成立し得ない世界観は、この人にしか描けないと思うし、読むたびに胸が苦しくなるような感覚に囚われるが、本作品に対してだけは、かなり失望した。
白倉氏が漫画家を辞め、小説その他で活動されているのは知っている。もっとも私にとっての白倉氏は、漫画家を辞められて以降は関心の対象外であり、勝手ながらそれ以降はもう過去の人と位置づけている。
それが故に、白倉氏『最後』の漫画がこれというのは非常に悲しい。
幼少期の心の傷をいつまでも引きずり続ける精神的弱者というよりも半端者になってしまっているような感じがする。作者自身が既に、自らの作品世界の感性に追いつかなくなってしまい、我執で描いてしまっている感じさえする。明らかに以前の作品世界を引きずりながらも、悪い意味で歪ませてしまった感がある。現実とは、違った『歪み』はあってもこれまでのはあくまでも純粋さの延長線上にあったのだが、今回の作品には、純粋さよりもじか中毒症状を呈する精神病患者の色彩が濃厚のような気がしてならない。
大好きな作家さんであっただけに、何故か悲しい限りの本だった。
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