2006年09月24日

「甦える中世ヨーロッパ」阿部 謹也 日本エディタースクール出版部

阿部 謹也のサイン先日、お亡くなりになった阿部氏の本。NHK市民大学の講座なんてやっていたんですね、知らなかった~。是非見たかったなあ。本書は、その時の講座で用いられたテキストに200以上もの膨大な図版を入れて、内容を充実させた保存版です。

たまたま古書店で著者が謹呈してサインが入ったいてのを見つけたので購入しました。ちょうど、阿部氏が亡くなられたニュースを知って数日後のことでしたし、何かの縁かと思いまして。

実際、購入して正解でした。モノクロの図版も多いですが、カラーもそこそこ入っているし、とにかくビジュアルがあると説明が理解しやすくていいですね。元々阿部氏の著作には好きなものが多いのですが、本書は阿部氏がこれまで書かれてきた本からの出来のいい要約にもなっているかと思います。他の本でも見かけた図版も本書の中には、たびたび見かけます。

阿部氏の中世に関する見解などが、エッセンス的に凝縮している感じが多分にあります。また、NHKの番組とはいえ、講座形式をとっていて回を追って(本書の中では各章が1回分に相当する)、解説をしていくので知識を効率良く得る、という目的には最適かと思います。

勿論、難をいえば要領よくまとめられているが故に、省略されているその背景的な膨大な知識・説明がないのは残念ですが、それは本書を読んで関心を持った段階で、著者の他の著作にあたるという事で解消できるかと思いました。

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内容については、目次だけでは分からないと思うのでざっと書いてみます。まずヨーロッパの時間感覚について。従来は四季が巡り一年が繰り返される円環的なサイクルとみなされていたものが、キリスト教の最後の審判が最後にあり、現世はそれへと向かう過程であるとする直線的なものとして捉えらるようになったと述べています。

そしてこのキリスト教的なものの見方が持ち込まれた影響は、他にも多数あり、かつての宇宙観や古の宗教や風習で崇敬された神々等がキリスト教的価値観の下で、怪物などに転化し、大聖堂の入り口や柱頭を飾る異形のデザインへとつながっていくことが話されます。

また、本来は聖なる職業・聖なる存在であった死刑執行人や収税吏や粉挽きなどが、いつのまにか蔑視させる存在に貶められ、差別という概念が生じてくることなども説明されます。

それ以外にも中世という世界を表面的な事柄ではなく心的構造から見ることで潜在的な存在で普段目にできないことが表面に出てきます。それが実に興味深いです。

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私は以前から中世の巡礼などにも興味があり、いくつかの本では巡礼を可能にした社会的背景などを知りましたが、そこで各種の教会・修道院が巡礼者の為の宿や病院を設置し、それを経済的に支えられた理由を本書を読んでより深く納得できました。

巡礼者の保護の為に、喜捨をすることは富のある人(そのままではらくだが針の穴を通るより難しい、というアレです)が天国に行く為の必須事項であり、また、盛大な喜捨をすることで初めてあの人は富と力を持ち、それにふさわしい人物として社会的に認められる仕組みを理解しました。

他の本でも同様の説明はあるのですが、本書の方がより掘り下げて説明されていて逆に施しをしなければ、彼は社会的に疎まれてしまい、社会的にも経済的にもマイナスになってしまうことを大変良く理解できました。

これは、非常に面白い点ですね。本書ではそこまで遡って触れていませんが、ローマ帝国時代のクリエンテスを引きずっているのかもしれません。あの英雄カエサルが借金につぐ借金をして、自分の慕う人々に資金をばらまき、支持者を増やす一方で着実に権力を握っていったのは表裏一体の関係でもあります。

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翻って、日本の選挙で代議士先生の後援者が、選挙事務所にたむろして、ただ酒・ただ飯にありつき、子供の進学・就職をなにくれとなく面倒みるのもこの流れなんですね。う~ん、個人的にはそういうのは大っ嫌いでし、違法でしょうが、社会的な現実としても、また個々人レベルの合理的判断に基づく行動でも、そちらの方が理にかなっているんだからなあ~。困ったもんです。ああ、嫌だ。

なんだかんだいっても島国日本。自分より出来る人を見ると、本当に足を引っ張りますからね! 優秀な人ほど、目立たないようにこっそり悪さをたくらむざるを得なくなるように環境が追い込んでいることさえ自覚していない人がなんと、多いことか・・・。

格差を容認しないというのは、現実を直視しない甘えであって、問題は努力していても成果があがらなかった時に、それをどう社会的にバックアップするかセーフティ・ネットをいかにうまく運営していくかだと思うんだけど?
努力しない人が悲惨な目にあってもそれは救済に値しないと思うんだけどなあ~。

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本書の中では、ここで私が言ったようなセーフティ・ネットの制度が中世に初めて生まれたことも述べられています。都市において、さまざまな格差が生まれ、それに対応する形で既にこの時代からそれらの制度が生まれていたのはちょっと驚きですね。

それ以外にも大学の誕生とその背景や特権など、ポイント良くまとめられています。先日読んだ大学の本のおいしいところはみんな書かれてるし・・・。

とにかく、内容が充実しているので中世好きの人なら、読んでおくべき基本書かと。「ハーメルンの笛吹き男」の次に阿部氏の本としては、お奨めします(笑顔)。

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【目次】
1 謎にみちた中世
2 二つの宇宙
3 中世建築の怪物たち
4 中世都市の時間と空間
5 死生観の転換
6 富める者と貧しき者
7 若き騎士の遍歴
8 手仕事と学問
9 子どもの発見
10 二つの宇宙の狭間で
11 中世の音の世界
12 絵画に見る中世社会
甦える中世ヨーロッパ(amazonリンク)

関連ブログ
<訃報>阿部謹也さん71歳=一橋大元学長
「中世の星の下で」阿部 謹也 筑摩書房
「中世の窓から」阿部 謹也  朝日新聞社
「ハーメルンの笛吹き男」阿部 謹也 筑摩書房
「刑吏の社会史」阿部 謹也 中央公論新社
「中世社会の構造」クリストファー ブルック 法政大学出版局
「異貌の中世」蔵持 不三也 弘文堂
「名もなき中世人の日常」エルンスト・シューベルト 八坂書房
「中世の女たち」アイリーン・パウア 新思索社
「動物裁判」池上 俊一 講談社
「中世の巡礼者たち」レーモン ウルセル みすず書房
「中世の大学」ジャック・ヴェルジェ みすず書房


ラベル:NHK 中世 歴史
posted by alice-room at 14:34| 埼玉 ☀| Comment(4) | TrackBack(3) | 【書評 歴史A】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
これ読んで見たいですね。
目次を見ると楽しそうです。
また、読書の秋古本市多そうですね。
Posted by Seedsbook at 2006年09月25日 14:59
Seedsbookさん、読書の秋は誘惑が多くて困ります。もっと&もっと本を読めと何者かに急かされそうです(苦笑)。図書館になかなか行けなくて、購入しちゃうと出費がかさむし・・・、部屋の床が心配だし・・と悩み多き季節です(笑)。
Posted by alice-room at 2006年09月25日 18:46
TBありがとうございました。
ベリー公つながりで3つほどTBさせていただきますので、よろしくお願いします。
この本も面白そうですね。NHK市民大学はたまに面白い講座を開いていたので、気がついたときにはテキストを買うようにしていたのですが、これは見逃してしまいました。僕も欲しい本です。
古本市で、また面白い本を見つけたら紹介してくださいね。楽しみにしています。
Posted by lapis at 2006年09月25日 22:59
lapisさんのおっしゃる通り、NHKの市民大学のテキストは面白いものがありますよね!放送大学のテキストも時々いいものがあります。
古書市の多い秋なので、実は出費が心配だったりします。欲しい本があるとつい、衝動的に買ってしまうもので・・・苦笑。TB有り難うございました。
Posted by alice-room at 2006年09月27日 00:33
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