
日本人が書いたこの手の国際的な問題を扱った本って、大概、中身が薄っぺらでどっかからの記事や文章の寄せ集めに過ぎず、読むに値しないものが殆どだと思っていました。実際、そうだったし・・・。
しかし、本書はその見事にその悪い偏見を打ち破ってくれました!
ウィキリークスとタイトルに銘打ちながら、ウィキリークスそのものに拘泥することなく、ウィキリークスが世界に与えたインパクトを、またそれを可能にした世界的な状況(政治的、技術的な背景)を実に理解しやすく、且つロジカルに説明してくれます。
確かに糸口はウィキリークスかもしれませんが、それをキーワードにとかく混迷した時代として、表面からではなんとも理解し難い多様化した(国際)世界を、世界の置かれた政治状況を色鮮やかに(=時として鮮血で血塗られたイメージで)説明してくれます。
今までは、日経読んでも、BBC観ても、ロイター観てもイマイチぴんとこなかったものが、思わず膝を叩きたくなるほど、合点がいくようになります! あっ、だから、そういうことが起こり得るし、起きたわけかと!
むしろ、日本でここまでの本がしっかりした出版社から日本人の著者により書かれて出版されているのが驚きです。さすがは、新聞社自身の意見として、民主党の駄目さを真正面から指摘することのできるメディアさんの系列というところでしょうか?
逆に自民党政権だったら、この本出ていなかったりして・・・。
少なくともアメリカの息のかかった国での出版は圧力物凄そうだもんね。まあ、英語圏だったら、アメリカも本気で圧力かけるかもしれませんが、マイナー言語で日沈む所の国の出版。しかもアメリカの公電で民主党は、訳分からない扱いされていた今だからこそ、出せたのか?
そんなふうにうがって考えてしまうくらい、破壊的な内容を含んでいると思いますよ~。
最初に、ネットの日経ビジネスの記事とかで読んで、なかなか内容のある記事で関心を持ったのですが、本書は、それ以上に内容が濃い!! 是非、ネットの他、本でも読むべきでしょう♪
世界を、そしてアメリカを日本は同盟国として、もっと知っておくべきでしょうね。その必要性を痛感しました。心から。
では、本書の内容で記憶に残ったところや衝撃を受けたところを以下、紹介。
国防総省が主催で、軍事技術向上の為、無人で砂漠を走破し、目的地に辿り着く速度を競うラリーをやっていたりしたことは、何年か前のNHKスペシャルで見たし、自爆テロ等で補給部隊のトラックの運転手が殺害されるのを防ぐ為に、無人車が先導するなどの話は知っていましたが、まさか無人戦闘機が実戦配備されているとは知りませんでした!
要は、無人で戦闘機を飛ばして現地の偵察・哨戒行動をし、敵とおぼしき対象を発見するとそのままミサイルを撃ち込む軍事行動まで行っているそうです。しかもその運用を担当しているのが、軍ではなく諜報活動担当のはずのCIAって・・・・絶句!
ハリウッドのスパイ映画負けてるよ。現実に。
よくテロリストの上層部をミサイル攻撃で死亡させたとか、アメリカ政府の戦果としてニュースで報道されてますが、あれってこのことなんですね。しかも、同時に一切報道されない、一部のテロリストを殺害する為に付近の一般市民が何十人も巻き添えになっていたり、あるいは間違って単なる民間人達だけを殺害してもそれは誤差として報道されないわけです。
まあ、得てして戦争はそういうものではありますが・・・・、一部の戦果としての数名or数十名のテロリスト幹部の死に伴い、民間人の死者は千人を越えるとも・・・・。
そりゃアメリカはますます嫌われることでしょう。
パキスタン国内のタリバン勢力掃討、と言っても、住民に拒まれ、軍を投入できないから、無人戦闘機で民間人を巻き込みつつ、テロリスト殺害ってゲームじゃないのだから・・・もう・・・。
あるいは、夜中にいきなり民間人宅へ押し入り、夜間急襲とか。
で、いきなり発砲・射殺。しかも人違い。
住民感情悪化、反米感情促進、タリバンへの共感、ますます米軍は手の出せない状況に。
負の連鎖が半端ないっす。
アフガニスタンのカザフ首相がCIAのひもつきでその地位につき、更に汚職等政治腐敗に歯止めがかからない一方、民衆の支持は薄れ、でも、『正義の戦争』としての大義の為にも切るに切れない米軍。
補給基地に絡む不透明な癒着や膨大な資金の不思議な行方など。
前国連総長の身内もオイルマネーで腐りきっていた話がありましたが、こちらもですか・・・。ノリエガ将軍、マルコス大統領、フセイン大統領・・・みんなCIAのひも付きで権力の座に座り、腐敗し、さらには米軍の敵になっていく・・・・。
同じ事の繰り返しですね。さすがはパックス・アメリカーナ。
属国植民地の「日本」としては、まあ、逆らえませんし、敵いませんね。本当に。
もっとも、先ほどの無人戦闘機。
実戦配備は、凄いけれど、まだまだ初期のテスト段階の投入らしく、トラブルも続発しているようですね。しょっちゅう落ちたり、問題があるのはまあ分かるのですが、当然、最先端の軍事技術の塊ですから、敵に確保され、解析されたら一大事。
敵国勢力下に落ちると、機体回収の為にまた精鋭の特殊部隊が投入され、そこで人知れずたくさんの人が死んでいるとか。WEB上のニュースで、イランにハッキングされ、最新鋭の無人戦闘機が捕獲された件は、そもそも無人戦闘機の実用化自体を知らなかったので、適当な2ちゃんねる的ニュースかと思っていましたが、本書を読むとあながちガセとは限らないようです。
無人戦闘機自体が技術的に多数の問題、欠陥(バグ)を有した状態で、多用されており、同時にイランの電子戦の遂行能力が、想像以上に高いとか記事には書かれてましたが・・・マジかよ~。
世界は驚異に満ちています!!
そうそう、米軍の戦闘日誌等をウィキリークスにまさにリークして、死刑にされそうな情報分析官のマニング兵士ですが、いくら情報分析担当といっても、何故下っ端の彼があれだけの情報に接触できたのか?
その理由が本書を読んで初めて分かりました。
9.11以降、テロ情報など点では分かってもいても、情報の分断でそれが繋がらず、大きな脅威として認識できなかった点を問題視し、国防総省の鳴り物入りで、あちこちのネットワークを繋げて連携される大きな流れが背景にあったそうです。(例外はCIA、あそこだけやっぱり国家的なこのネットワークに連携していないらしい)
さらにね、イラク戦争等戦争の長期化により、一時的な武力の投入だけに留まらず、長期的な安定を現地で達成するためには、米軍が現地で信頼を獲得しなければならず、その為に現地の風習や文化、宗教、部族間的な力関係や背景等、ありとあらゆることに精通する必要が生じたそうです。
各種作戦遂行には、その辺の周辺諸事情を前提として知っておく必要が生じ、その需要に答える為にありとあらゆる情報が集約され、どこからでも検索できるようなネットワークが新たに構築されたそうです。
ネットワーク相互の接続拡大と、ネットワークアクセスの現場担当者への大幅な権限移譲。
その結果として、以前では考えられない機密情報に膨大な人がアクセス可能になり、当然、セキュリティ的なリスクが無限の増大に至った結果の、起こりうる問題が現実化した。
それが事件を可能にした時代背景だったようです。
事件後、国防総省の情報改革の流れに対し、ヒラリークリントンは駄目だしし、時代を逆行化しかけているようですが、まあ、難しいところでしょうね。
企業レベルでも組織ならどこにでも起こり得る話です。
必要以上に現場に情報を渡すと、各種不都合が生じやすくなり、経営的なリスクが増大しますが、従業員のモラルを高め、個々の、あるいは組織としての生産性向上には、情報の共有化による主体的な行動が不可欠ですからね。
でも、時代の寵児(落とし子)としてウィキリークスをもてはやすのではなく、一方で受け入れ側の技術的な面ばかりでもなく、それを出す側の時代的な側面とペアで初めて、そういった事象が生じている(生じうる)ことを見ていないと、足元すくわれますね。
本書は、見えてないものを非常にたくさん気付かせてくれます。
「ウィキリークスを読み解く背景知識」後半の方に著者からの説明があるのですが、これがとりわけ勉強になります。また、貴重な情報です。
私も含めて、世界のことを理解するには前提知識が足りてない人が多いかと思いますが、こういうのは、きっちりと知っておきたいところです。
薄っぺらなビジネス書だけ読んで、小賢しく小利口になったつもりでいるよりも(私か?自嘲)、もっと広い視野でお勉強しましょう♪
他にもたくさんんあり過ぎて、本書から学んだこと、気付かされたことを書き切れませんがもう幾つか。
特殊な諜報活動、工作活動を請け負うCIAが、戦線の急拡大で警護担当の深刻な人員不足に陥り、な、なんと身分を隠すべき職員達の警護を民間会社に委託してるってのは、驚天動地なんですけど。
どっかの会社がアウトソーシングしたり、業務委託しているとのは本質的に何かが違うような気がしてならないのですが・・・・?
まあ、民間といっても軍のエリート部隊のシールズだっけ(?)そこらの退役軍人さん達が作った御用達会社ではあるものの、民間ですよ~。スパイが民間の警護会社に守られて、任務遂行って・・・どんな時代だよ。
イラク戦争とかでもミサイルぶっ放すとか直接的な軍事行動以外は、かなりの部分、民間にも委ねてるのは知ってましたがねぇ~。ブッシュさんの息のかかったカーライル・グループとかだったかな?もう、忘れちゃったけど。
そうそう、背景知識で説明されている、何故ウィキリークスのサイトが完全閉鎖できないかなど、これも現代に生きる人の常識レベルで知っとくべきかもね。なるほど・・・と改めて、納得させられるかと。
本書は是非、読んでおくべきです!!
最近(以前から?)、レベル劣化の著しいNHKのニュースなんか見るよりも本書読む方がはるかに、何倍も勉強になりますし、社会に流れを的確に把握するにはうってつけです。
勿論、日本の民放のニュース解説とかは、論外。
分かり易い、と言っても内容をはしょり過ぎで、下手すら本質を誤解しかねない説明もある。
あんなの見て、ニュースを分かった気になるのは、いかがなものでしょう。
おおよその感じをつかめて、その後で自分で調べて更に理解を深めるような使い方ならいいのでしょうが、そもそもあの手の見る人が、そういう自らで調べ、学ぶ人には思えません。
だとすると・・・・中途半端な付け焼刃なら、むしろ知らなくてもいいかもね。微妙かもしれませんが・・・・。
とか、そんなことを思ったりしましたが、本書はいいです!!強くお薦め!
ウィキリークスを知りたい人は、直接的な情報は少ないですが、それ以上に現代の国際政治に関心のある人、本当の世界を知りたい人、読みましょう。
CIAの専門家が拠点ごと、二重スパイによってぶっつぶされた話とか、各種拷問の話など、リアル過ぎてショッキングではありますが・・・・。興味深いです。
【目次】ウィキリークスの衝撃 世界を揺るがす機密漏洩の正体(amazonリンク)
第1章 世界を震撼させる機密文書の暴露
第2章 ウィキリークスを作るために生まれてきた男
第3章 進化するリーク・システム
第4章 アメリカの国家機密を渡したインテリジェンス分析官
第5章 9・11のトラウマが大量漏洩を可能にした
第6章 暴かれた「北朝鮮・アルカイダ・コネクション」
第7章 CIAと米軍特殊部隊の「秘密戦争」
第8章 テロ、暗殺、拷問、無差別殺人――イラク戦争の傷跡
第9章 迷走し続ける「オバマの戦争」
第10章 “無極化世界”が生んだ「時代の申し子」
ウィキリークスを読み解く背景知識(1) オバマ政権と戦争─泥沼化するアフガニスタン
ウィキリークスを読み解く背景知識(2) [技術解説]なぜウィキリークスの息の根を止められないのか
ブログ内関連記事
「全貌ウィキリークス」マルセル・ローゼンバッハ、ホルガー・シュタルク 早川書房
「ウィキリークスの時代」グレッグ・ミッチェル 岩波書店
情報の信憑性確認、厳選し公開〈米公電分析〉朝日新聞社
ウィキリークス、市民を監視する「スパイ文書」を公開