2012年02月12日

「残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法」 橘玲 幻冬舎

この橘氏の作品は、どれも少なからず影響力(=説得力)のあるものですが、本書も非常に大きな衝撃を与えるモノになっています。

最初に、『自己啓発の女王』(誰かと思えば、あの勝間氏)を採り上げています。

人は、努力する事で能力を向上(開発)できる→仕組みを作れば、誰でもが結果を出せる→能力の向上の結果は、社会的な成功につながる→努力の成果が見えることで、より一層頑張れる(=正のスパイラル)

TOEICやら各種資格試験の合格とか、まさにこの前提で成り立っているわけです。

去年、私が会社から取らされた5、6個の資格なんてまさにその類いで取ったから評価されるのではなく、取らないと駄目駄目君扱いされる、その程度のものなんですけどね。

実際、自主的に今年はTOEICか情報処理でも受けようかと思っていますし、まさに私も否定しつつも、自己啓発の呪縛に捉われていたりする訳です。

実際、社会全体が共同幻想としてそれを持っているならば、あえてそれに乗ることでより効率的に生きられるのも事実ではありますし。有名大学の学歴や大企業で職歴、資格等。

本書では書かれていませんが、人の(会社で金を稼ぐ)能力を測る客観的な物差しがない以上、シグナルとしてそれらが有効であるのは、院生時代に論文で読んだしねぇ~。それは未だに有効だと思う。

著者は、同時に最近の研究として発表されているものも踏まえて、能力は遺伝的に大部分が決まっていて、努力によって変えられる部分は少ないと主張しています。

この流れで、先日、私がクレチェマーを思い出し、古書市でゲットしたことになるのだが・・・。ここではそれは別な話。

生来的な遺伝要素×環境要因=個人の能力・性格・その他

という社会的な共同幻想を否定しちゃって、現実を見ようよっていうのが著者の主張で、それらをロジカルに各種根拠を挙げて説明し、従来の価値観を否定していきます。また、何故、それらが間違っているのにもかかわらず、社会・政治的に、それがあたかも正しいものとして受け入れられてきたかについても考察も、非常に説得力があり、興味深いです。

他にも本書には無数の着目点があり、またその説明が大変勉強になります。
返報性とかもそうですね。私の部屋に転がっている中世ヨーロッパの社会についての本に、「中世の遺贈」がありますが、これなんかもそうです。

人の社会においては、貰ったら、返さないといけない原則が存在しますからね。ローマ帝国のクリエントスや日本のお歳暮、学校の部活動や職場で、上司や先輩にもらったものは、返さないと落ち着かないのは、人の潜在意識の奥底にまで、根を張っている感がありますね。

そういえば、昔、デートしていた際に言われた言葉で「好意的に思っていない人から食事を奢られたり、物をもらうことは、返さなければいけないのが負担になるので嫌」というのは、それと同様の理屈なんでしょう。

「マクドナルド化」なんて言葉自体は初めて知ったが、内容はまさに私の仕事が目指しているものに他ならない。

誰がやっても、内容を深く理解することなく、しかも間違えることなく正確に処理ができる。その為に、業務支援系ツールを作り、手順書を作成する。

更に場合によっては、手順を間違えた場合には、自動でミスを防ぐべく、処理を中止し、アラートを出す。

一見すると、合理的であり、効率的ではあるが、習熟による生産性の向上が見え難い。その中でいかに志気を高め、改善に繋げ、より一層の効率化を可能にするのか、そんなことは誰も考えない、いや考えようとして気付いた人も目をつぶるのだ。

世界は、確かにその方向へ向かっている。

比較優位の話も定番ではあるが、なかなかしっかりした説明で、分かりやすく、現代の姿を上手に説明しているので理解が深まると思う。

ハッカーの話もこれまた定番ではあるが、所有権と評判という明確な視点から説明をしていて、従来の他の本よりも気付かされるものが多い。

オークションの評価の話もなかなか視点が異なるだけで面白い。
口コミサイトのやらせもあったが、評価を大切にすることは、信用につながり、老舗や大企業が有する「のれん」に相当するだろう。これは私の解釈だが。

同じものでも信用のある、評価の高いところから購入する方が、期待外れになるリスクを減少させ、中立的な期待値が高まるのであれば、それは合理的な行動であることを納得する。
(もっとも昨今は、合理的な期待以上に、損を嫌がるバイアスがかかる点も指摘されているが、それは本書で取り扱っている範囲ではない)

人は何によって幸せを感じるのか?

実際に幸せに生きていく為の方法論は、本書よりも過去の本で触れられているが、本書は本書で面白いし、私はこういう本が好きです。

本書を読んで何かが変わるわけではありません。法人は作ったことあるけど、私にはうまくそれを生かす仕組み作りに失敗したからねぇ~。

とりあえず、次の事業企画が出来るまでは、あえて現状維持でタイミングを見計らうこともアリだと思う。
資金は、株式から急速に現金へ移行している最中。日本は諦めたし、外貨運用もね?

不動産投資でも始めますか・・・。
とりあえず、資本を貯めないとね。

そういやあ~本書で触れられていたマックの話ですが、年配の人が働いている話をしたら、知り合いから面白いことを聞きました。

オーストラリアでは、弁護士事務所で働いてる弁護士が1週間(?)とか決められた期間、マックで働くんだって。

勤続後、5年とか10年とかした後で、突如、来週からマックで働いてということになるそうです。

研修の一環で普段とは全く異なる環境で、しかも弁護士としての仕事に慣れ切った頃にそうすることで改めて、視野を広げると共に、一般の人の視点を実感させるそうです。

凄いなあ~。

私がメーカーに入った時も現場実習で工場に3ヶ月だったか働かされたけど、いろいろな意味でカルチャーショックあったけど、オフィスワークに慣れ切った、しかも弁護士の中年がいきなりマックの仕事とかって・・・。

日本もそういう良い所は、見習って欲しいものです。
悪いところだけ、海外のを取り入れずにね。余談ですが・・・・。

しかし、本書を読むと改めて自分の常識というか、固定概念が壊されていくのを感じます。
良い意味でも悪い意味で刺激になります。

このままじゃいけないんだと、強く気付かされますね。本当に!

といっても、人的資本が磨耗し、有効期間が短くなった私的には、リスク最小化の為にしばらくは我慢だなあ~。でも、このままは有り得ないし、散々否定した「自己啓発の女王」の僕になりますか?(笑)

いろいろ考えさせられた本でした。大いにお薦め!!
真面目な人の場合、影響力がこちらも大きいのでご注意下さい。勝間本以上に、距離とって読むことが大切ですね。
【目次】
序章 「やってもできない」ひとのための成功哲学
第1章 能力は向上するか?
第2章 自分は変えられるか?
第3章 他人を支配できるか?
第4章 幸福になれるか?
終章 恐竜の尻尾のなかに頭を探せ!
残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法(amazonリンク)

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posted by alice-room at 15:15| Comment(4) | TrackBack(0) | 【書評 実用・ビジネスB】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんにちは。

そういえば、戦争中の話ですが、欧米の軍事技術は、人(兵隊)は必ずミスをするものであるとしてミスを織り込み済みのシステムとして作られてミスがあってもカバーできるような仕組みだったのに対し、日本の場合はミスがあってはならないとして兵隊を徹底的に訓練してシゴキ上げることで個人に属する名人芸によるシステムで回していたので、始めのうちは強さを発揮していても、戦況が悪化し余裕が無くなっていくにつれ日本のシステムはうまくなくなっていき、さらにダメになるという負のスパイラルとなっていたそうです。
戦後、その教訓に学んだかといえば、未だにミスを許さない風土が残っていると思われます。

この本も是非読んで見たいと思います。
Posted by 御光堂 at 2012年02月13日 11:40
御光堂さん、
コメントどうも有り難うございます。

こちらの本へのコメントで宜しいでしょうか?
「失敗学」とかの本へ頂いたコメントのようにも読めますが・・・。

失敗を無くすように努力すること自体は、大切なことではありますが、それが必ず生じる事象である以上、それが起こっても影響が最小になるように、次善の策を考慮するのも大切だと思います。

失敗を想定内として許容したトータルなシステムンの設計というのが、おっしゃられるように大切だと思います。

その一方で、避けられない事象であってもそれを低減していくモラールをいかに継続させるのか?その辺の組織論的な考え方も同時に大切なのかもしれませんね。

どんな組織であっても、興味深いテーマだと思います。
Posted by alice-room at 2012年03月04日 13:22
「組織を強くする技術の伝え方」畑村洋太郎 講談社
の紹介の方へのコメントでしたね。
失礼しました。
Posted by 御光堂 at 2012年03月15日 09:15
こちらこそ、ご丁寧にコメントを頂き、有り難うございました。

私は映像で観たのですが「日本海軍400時間の証言」、こちらもその辺には参考になりそうな本でした。

一応、ご紹介まで。
Posted by alice-room at 2012年03月26日 17:04
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