2005年03月22日

「黄金伝説抄」ヤコブス・ア・ウォラギネ 新泉社

目次
Sanct Georg 聖ゲオルギウス
Sanct Marina 聖マリーナ
Sanct Christophorus 聖クリストフォルス
Sanct Veronica 聖ヴェロニカ
Sanct Nicolaus 聖ニコラウス
Sanct Sebastian 聖セバスチャン
Sanct Johnanes der Evangelist 聖ヨハネ〔ほか〕
改めて思うのは、日本語は読み易いなあ~、とっても。辞書も引かずに、目で追うだけで飛ばし読みもできるし、あっというまに読めてしまうんですから。但し、翻訳者の力量がそのまま出てしまうので、そのへんが逆にいうと辛い。同じ内容でも訳者のセンス次第で全く異なった作品になってしまうことさえ、ままあるので。

で、この本はというと微妙なところです。元々が信者に聞かせて、キリスト教の有り難さをより実感させるという明確な目的をもった書物であり、素朴な農民などを対象にして平易且つ簡潔に書かれていたのでしょう。元来がラテン語でそれが大衆から支持され、各国の言葉に翻訳され、本書はドイツ語版の翻訳とのことです(別に英語版でもいいと思うのですが・・・理由は特に述べられていません)。それらを踏まえると訳も悪くはないのですが、英語で読んだ時の方が面白かったです。聖チェチリアのところとか。他の所は、比較する以前に英語で読みきれてないのでコメントできませんが、正直うまい訳とは言えないでしょう。

ですが、現在日本語で読める範囲の聖人伝としては、これがベストですね。だって他のが手に入らないのですから。興味ある方は読んでもいいかも?もし、英語ができるなら、迷わずに英語で読みましょう!!絶対にお薦めします。ペーパーバックなら、2巻で4000円で買えますから。

内容としては、聖ゲオルギウスが面白かったですね。イギリスではセント・ジョージでしたっけ?竜(ドラゴン)を退治する聖人です。聖人なのに、異教の偶像崇拝をする者どもを懲らしめる為に、計略を使って嘘をいうのはどうかと思うんですが?まあ、布教の為には嘘も方便なのかな?なかなか魅力溢れる聖人です。ガーゴイルの由来となる竜退治の伝説を思い出してしまいました。

それに聖フランシスコ。あのアッシジの聖人です。清貧のあるべき姿が描かれています。まさに謙虚と敬虔さの模範ですね。聖痕(スティグマータ)についても書かれています。改めてエピソードの多い聖人であったことが分かります。

そして他の聖人もそうですが、聖ヨハネ。キリストのように死者を生き返らせたりしていたんですね、まるでラザロの場合の如く。他の聖人伝にも似たような記述がしばしば見られますが、まさに奇跡が他の聖人によってもなされていたとは。死者の甦りは、キリストだけが可能だと勝手に思い込んでいたんで、ちょっと驚きました。へえ~ってな感じ。

もっともこの聖人伝は、その当時の素朴な信仰やら伝説やらを布教の目的に照らして収集・整理したものらしいので、内容の真偽等はあまり問題でなかったようです。日本の古事記みたいな感じですかね?あれも、伝説等もそのまま入れて作ったものですし。内容的に一番近いにはやはり今昔物語や日本霊異記等の説話集ですね。目的がまさに一緒だし、時代的に近い中世でしょ。あと、往生要集あたりか。

あっ、この本の中で意外に興味深かったのは、実は本文ではなく、あとがき。私が小・中学時代に大いにはまっていた芥川龍之介氏が書かれていた作品のいくつか(「きりしとほろ上人伝」等)がこの黄金伝説をベースにしていたことを、初めて知りました。う~ん、無知な私。加えて芥川氏が座右の銘としていた本の一つであったとは・・・。かなりの衝撃だったりします。そういったことが分かっただけでも、私にはこの本の価値がありました。本文は、まあ二の次でしたが。

なんか、いよいよ英語の黄金伝説TRYしなきゃかな?聖チェチリアの訳は、既にあるのでなんかする気が失せてしまいましたが、肝心なマグダラのマリア無かったし…。でも、量が多いし…。非常に悩んでいる私でした。まあ、他の本をとりあえず読んでからですね!(と言い訳しつつ逃げる)

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黄金伝説 Golden Legend コロンビア百科事典による
黄金伝説 ~聖人伝~ ヤコブス・デ・ウォラギネ著
posted by alice-room at 18:02| 埼玉 ☀| Comment(7) | TrackBack(3) | 【書評 宗教A】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
alice-roomさん、こんばんは
一部黄金伝説と芥川に触れている記事を書いたのでTBさせていただきました。
ところで、黄金伝説ですが、日本でいうと往生伝のような物です。有名な物としては、澁澤さん偏愛の幸田露伴『連環記』の主人公、慶滋保胤の書いた「日本往生極楽記」です。これは、極楽往生をとげた人々の伝記集です。古事記は、歴史書で稗田阿礼が暗誦した物を太安万侶がまとめて物です。「日本霊異記」は、確かに日本最古の仏教説話集ですが、伝記集ではありませんし、今昔は結果として往生伝が含まれているだけです。往生要集は、説話集ではなく、極楽往生を広めるために教典から、浄土と地獄の過所を集めたもので、インテリ向けに書かれた専門書で、法然も、親鸞も多大な影響を受けています。結果的に地獄極楽のエンサイクロペディアになっていますが。これにも澁澤さん偏愛のトクサ虫が出てきます。
長いコメントとなり申し訳ありませんでした。
黄金伝説の翻訳楽しみにしておりますので、宜しくお願いいたします。
Posted by lapis at 2005年03月24日 02:13
こんばんは、lapis さん。私の説明不足のところと、一部誤解した点をご説明有り難うございます。

古事記は口伝を筆記したものであると共に、神話的な側面をそのまま採用している点が特徴ですが、日本書紀はあくまでも歴史的な要請から、対外的な面と中央集権的な面の内外での意識変化が生じ、国家としての歴史書として編纂されたもので、神話的なものも古事記と比べるとある程度削られていますよね。「古事記みたいな~」という表現は、当時としても信憑性を疑わしいながら、あえて入れているという点を述べたものでした。分かる方にだけ理解してもらえればという感じで、説明をはしょっててすみません。

今昔と霊異記は、因果応報を諭す説話集ですよね。で、往生要集は、こうしたら極楽往生できるというハウツー集で当時、大ベストセラーになって一躍、源信が有名人になったというモノですよね。高校時代に読んだっきりで非常に記憶が怪しくて…?お恥ずかしい限り。間違っておりましたらすみません。だいたいの本は読んでいるのですが、記憶の奥底に沈んでしまって…。

伝奇集というと、私的には中国の聊斎志異や平妖伝、探神記とかぐらいしか思い浮かばなくて、もっとも前者は志怪ものでしたっけ?その辺りの区別がイマイチ分かっていなかったりします。う~ん、もうちょっとそういった事も整理していないといけないなあ~(自戒の念)。

lapisさんの書かれているブログは、きちんと整理されて論理立てて書かれていますよね。背景的な知識もそうですが、文章としても凄いなあ~って、いつも勉強させてもらっております。私がきちんと書くと、論文調で堅過ぎて読みにくくて・・・。研究論文はそれでもいいのでしょうが、両極端過ぎてしまうのも考え物です。本当はもう少し、バランスのとれた文章も書きたいんですが・・・小説書くと、完全に耽美的になってしまうし・・・(自爆)。

しばらくは、気ままにブログで文章を書き散らしますが、内容的に間違っていたり、おかしい所があればコメント等でご指摘&ご助言もらえると嬉しいです。 lapisさん他、ブログを読まれている方にもお願いします。どうも有り難うございました。
Posted by alice-room at 2005年03月24日 20:12
こんばんは、alice-roomさん
TB&コメントありがとうございます。

「古事記みたいな~」という表現を誤解しまして申し訳ありませんでした。前の文の「伝説やらを布教の目的に」が、古事記にも掛かるのものと誤読してしまいました。本当に失礼いたしました。仰るとおり霊異記は、因果応報を諭す説話集です。西洋の聖人伝は、内容に信憑性がなくても聖○○についての伝記(伝奇ではなく)を集めた物です。ですが、霊異記には、霊験譚や「狐を妻とし子を生ましむる縁」等の○○伝とは言えない物も多数含まれています。今昔は、因果応報を説いた仏法部がありますが、俗なる世界を集めた、世俗部があり、半分近くは仏教と関係ありません。今昔の元ネタの一つが「日本往生極楽記」で、これは日本の往生者の○○伝を集めた物です。これを元にした説話は、黄金伝説と似ています。しかし、今昔では、仏教の教理に関する記述よりも、こんな不思議な事があったんだと言う方にポイントがずれています。ですから○○伝を集めた、往生極楽記の方がより、西洋の聖人伝に近いと思います。往生要集は、仰るとおり物ですが、古典文学大系には収録されず、日本思想体系に収められる様な本です。親鸞が、源信が正しい教えを明らかにされたというような詩を作るような本で、出版当時、学者から非難された黄金伝説とは、逆に、絶賛された本です。お経ではありませんが教典ですので、ジャンル的に違うと思いました。言葉足らずの上に、重箱の隅をつつくようなことを書いてしまい申し訳ありません。

こちらこそ、いつも色々教えていただき感謝しております。alice-roomさんの文章には、いつも、引き込まれてしまいます。今日はどんな面白い物の出会えるかな、とワクワクしながらいつも記事を読ませていただいています。朴念仁の僕としては、本当に羨ましい文体です。マナーに反するような長いコメントが続き申し訳ありませんでした。以後、気をつけますので、お許しください。
これからも宜しくお願いいたします。
Posted by lapis at 2005年03月25日 00:19
lapisさん、とんでもありません。長いコメントを頂いたということは、それだけ関心を持って頂き、丁寧にお話して下さってる訳でむしろ感謝いたしております。全然マナーに反する事はないですよ。

率直に言ってコメントを書いて頂けるのは、すっごい嬉しいです。だって読むほうは楽ですが、能動的に書くのって大変だと思うんです。しかも、相手があり、きちんと説明して頂いてますし、私にとってはすごく感謝しています。気が向いた時やお時間のある時に、これからもいろいろ感想やご指摘を頂けると助かります&嬉しいです!!
宜しくお願いします。

あっと、話が前後しましたが、往生要集に関する扱いについては全然知りませんでした。まさに黄金伝説と逆ですね。私は高校時代、古文の勉強の一環として、古文を読んでいた時に内容を初めて知り、すっごい感動した覚えがありました。それから、図書館で借りて読んだのかな?分厚い本を。いやあ~、本当にどうも有り難うございます。ブログを通して、そういったことを知る機会に恵まれて大変幸運です(御辞儀)。これからも宜しくお願い致します。

Posted by alice-room at 2005年03月25日 14:39
初めまして

黄金伝説を読む前は、列聖伝のように深刻な逸話が並んでいるのかと思いましたが、
黄金伝説は、どちらかというほのぼのした話が多かったと記憶しています。
ではでは。
Posted by 湖南 at 2005年04月09日 13:47
湖南さん、こんばんは。コメント有り難うございます。

おしゃっる通り、黄金伝説って当時の民衆に流布していた素朴な聖人信仰や噂をまとめたものですから、なんか昔話のようなカンジでいいですよね。

真偽がどうとかは二の次にして、拾い集めた民間信仰みたいなノリで読んでいてもとっても興味深い話が多いです。
Posted by alice-room at 2005年04月10日 01:17
alice-roomさん、TBさせていただきました。
黄金伝説も読んでいないくせに、一部で聖ゲオルギウスに触れる記事を書きました。(苦笑)この分野、基本知識が足りないので、ご教示いただければ嬉しいです。日本語版の黄金伝説、どこかで安く売っていないものでしょうか。
ロスリン礼拝堂の写真、楽しませてもらいました。これもダ・ヴィンチ・コードを未だに読んでいないのですが。(苦笑)でも、このような素敵な資料をUPしていただくと、とてもありがたいです。また、よろしくお願いいたします。
Posted by lapis at 2005年04月28日 23:54
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