民俗学っぽい体裁ではあるが、その水準には到達していない。あちこちの文献から、関連する事項を探して引用している点にのみ価値を有する本。これはこれで物事を探す時に重宝するので悪くはないが、いくつもの文献にまたがって調べている以上に新しい付加価値を生み出す本ではない。
著者がマスコミの人であるからというのは、完全に私の偏見でしかないが、やっぱりジャーナリスティックであまり好きではない。主観的に過ぎないものの見方を、ある種の客観性に置き換えるような書き方を無意識に感じてしまう。私の下衆の勘繰りに近いのだけど・・・。もっとも本書はそこまでのいやらしさはなく、淡々と書かれていたりする。
ただ、基本的にみんなどっかで聞いたような内容の話で終わっているのが残念。酒呑童子等の鬼の話は、いまや本屋に行けば山ほど積まれている中で本書で触れられているのは相対的に薄っぺらい。
田村麻呂についてもアテルイについても、本気で丹念に探せば、もっと数々の地名や関連する神社などがあるはずだが、それも表面的過ぎてかなり不満を覚えた。いったん蝦夷が服属後もたびたび反抗があり、俘囚となったり、まさにまつろわぬ民であったことなどへの言及も含めて重点の置き方がよく分からない。
これは桃太郎、羽衣伝説等のトピックなど本書に一貫している問題意識の欠如の表れかもしれない。中途半端で個人的にいらいら感を増す手書きの地図がそれを倍加させてくるのがなんとも嫌だ。
ただただ伝承の地を観光してきました。どこに行ったかを説明すると、こんな由来と伝承のあるとこでした。という旅行記に近いノリでしかない。もっときちんとした事を知りたいなあ~と強く感じました。失敗でしたね。あ~あ。
【目次】鬼の風土記(amazonリンク)
1 鬼の風土記
酒呑童子―老ノ坂、大江山、国上山、伊吹山
渡辺綱と鬼―羅城門、神泉苑、戻橋
田村麻呂と悪路王―鈴鹿峠、胆沢、黒石寺、達谷窟
桃太郎と鬼―栗栖、吉備、女木島、日野
2 おとぎ話の原像
浦島太郎と竜宮―丹後半島、荘内半島、寝覚、浦島丘、八重山
金太郎と山姥―足柄山、姥子、上路
羽衣伝説―三保の松原、余呉湖、比治山
3 漂泊・鎮魂の譜
ヤマトタケル―隼人、草薙、走水、熱田、伊吹山、能煩野
義経・静・弁慶―吉野山、清水道、平泉寺、如意の渡、安宅
曽我兄弟と虎御前―曽我、箱根、大磯、富士の裾野、善光寺