2006年10月24日

「十字軍」橋口 倫介 岩波書店

『十字軍』というある意味輝かしい歴史的出来事、あるいは歴史に名を残した人類の愚行とも言える集団的暴力行動を真正面から取り上げた本です。

いかにしてそれは企図され、いかにして民衆に、そして王侯に支持されたのか? その動きを生じさせた社会情勢や当時の人々の思いを資料から丹念に再構築していこうとする姿勢が大変イイ。

なかでも私が強く関心を持ったのは、ゴシック大聖堂を競って建築したのと同一のメンタリティで人々は巡礼を熱望し、エルサレムへの入城を夢見たのであり、あの情熱のほとばしりに他ならぬ大聖堂建築は、死と隣り合わせの十字軍への参加と同一の心情から生じているとは、この本を読むまで考えてみたこともありませんでした。

シャルトル大聖堂の前で十字軍参加を呼びかけがなされたことを知っていたのに、この当たり前とも言える中世人の思いを全く考えたことがなかったとは、我ながら赤面ものです(苦笑)。

しかし、この見方に気がつくことで私の中でひときわ大きな好奇心を刺激するゴシック大聖堂は、更に有機的に他の事象と結びつき、益々興味深くなりました。やっぱり面白いなあ~♪

後半になると、何回にも渡る個々の十字軍の話になり、それはそれで面白いのですが、やっぱりそもそもの十字軍を起こすきっかけになった人の思いと社会情勢に対する説明が秀逸です。

ありきたりのパターンにはまったつまらない十字軍ではなく、人が生きた証(あかし)としての歴史が描かれています。ゴシック建築を生み出した当時の人々の心情を理解するうえでも読んでおくべき本でしょう♪

プレスター・ジョンの話や聖遺物の話も勿論、触れられていますよ~。
【目次】
はじめに
Ⅰ前兆と胎動
 1大変動の世紀
 2十字軍運動の精神的風土
Ⅱ勧説とその影響
 1まぼろしの十字軍宣言
 2民衆十字軍
Ⅲ東方遠征
 1踏みかためられた巡礼路
 2敵地へ
Ⅳ聖地の解放
1各宗派共通の聖地
 2解放がもたらしたもの
Ⅴ十字軍の理想と現実
 1十二世紀ルネサンスと十字軍
 2聖地のレアリズム
Ⅵ凋落と破局
 1色あせた錦の旗
 2破門皇帝の寛容と聖王の不寛容
むすび

十字軍―その非神話化(amazonリンク)

関連ブログ
「十字軍」橋口 倫介  教育社
NHKスペシャル 千年の帝国 ビザンチン~砂漠の十字架に秘められた謎~
posted by alice-room at 23:38| 埼玉 ☔| Comment(2) | TrackBack(0) | 【書評 歴史A】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
十字軍や巡礼は寧ろロマネスク建築の頃ではないのでせうか?
ゴティック建築は対外的より寧ろもつと内面化されたもののやうな気がしますが。
Posted by あがるま at 2006年10月28日 21:24
あがるまさん、こんにちは。巡礼自体は、ローマ時代にキリスト教が認められて以来、連綿と続くものですし、ロマネスクの頃も勿論盛んだったと思いますが、聖遺物を祀られたゴシック大聖堂を巡る巡礼路が整備され、サンチャゴ・デ・コンポステーラまで辿る道を考えると、中世後期まで十分に盛んだったような気がします。

十字軍が元々はエルサレムの聖地奪還が目的であり、それを勧説した場所がゴシック大聖堂だったのも偶然ではなく、必然であったようです。また、当時の社会における制度的担保としてローマ教会からの免罪符のように十字軍へ参加すること、巡礼を行うことが罪人の贖罪として認知されると共に、大聖堂の建築への協力は、即ち自らの贖罪行為として同等に認識されていたようです。

この点に関しては、巡礼に関連する書籍などにも書かれていたので概ね妥当のような気がします。(ただ、私は専門家ではないので現在どういう解釈が通説なのかは不明です)

ゴシック建築の高度な精神性の象徴には、私も同感ですが、その建築を支えた歴史的・社会的・経済的な背景が多大な影響を与えている点を考えると、やはり内的・外的な要因が同等な重要性があるような気がします。あれだけの物を生み出した職人集団とそれを可能にした時代、大変興味深いです。

もっとも有名な専門家の方々の本を読んでもいろいろな解釈があり、納得できたり、感心したりする反面、いささか懐疑的な説もありますね。あくまでも私の主観ですが・・・。個人的には、最近思いっきりはまっているのでまずは基本的な知識を得るので手一杯だったりします。

何か興味深い関連書籍などご存知でしたら、教えてもらえると嬉しいです。
Posted by alice-room at 2006年10月29日 14:41
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック