
いつもの神林氏の作品らしく舞台はバリバリの近未来。異星人との遭遇という設定自体はもやは陳腐とさえ言えるありふれたものなのに、何故この著者にかかるとこれほど非凡な作品になってしまうのかが不思議なくらいです。まさに言葉の魔術師。氏の作品名にもありましたが、まさに「言葉使い師」と言っても過言ではありません。
日本にあまたのSF作家はいらっしゃいますが、私が読んで『SF』というジャンルの醍醐味や可能性を余すことなく実感させてくれる貴重な作家さんのまさに筆頭で挙げられる方です。
では他のSFと本書では違うのか? ズバリ徹底した論理的思考の延長線上に構築された物語世界であること。またそれ故に、有り得ないはずの世界が異様なまでのリアリティを獲得することがその特質ではないかと思うんです。
異星人という自らの価値観の枠外にある存在を鏡として、自らを見つめることで自己の存在意義、人間を人間たらしめていること、モノとしてではなく独立した存在としての『機械』の意義などを強烈なエネルギーで考えられずにはいられない状況にまで追い込むその手腕が凄い!!
本書を読んでいる間中、現実で生活をしている実感が確実に薄れ、本の中の世界観の方がはるかに生々しいのが印象的でした。なまじっかな哲学などよりもはるかに思弁能力を問われる作品と言ってもよいかと思います。
こう、これでなくっちゃSFじゃないでしょう。純粋なまでに思考実験をする、その舞台を得んが為の仮想状況の設定がSFの本質の一つだと思いますもん。ゾクゾクするほど、脳を刺激してくれますので本当に堪らない興奮ですね(満面の笑み)。この手の大好きぃ~。
自己と他者の認識や、機械と人間の意識の相違と相互理解なんて、ここまで洞察できませんよ~、普通の人には。しかもその論理が、諸条件で規定されていながらも論理的破綻を起こさずに読書を納得させるこの力量は手放しで賞賛ものでしょう。
日常の生活に埋没されている貴方。この本を読めば夢から醒めますよ!あるいは、夢に陥って起きれなくなるのか?それは定かではありませんが・・・。
注:本書のあとがきはお薦めしません。個人的にはまったく共感できないし、本番に比して薄っぺらな解説で本書の格を落としているような気さえします。もっと&もっと深く考えながら読みましょう。
ある種、スタートレックのQにも近いものを覚えたが、あれに輪をかけてハードな思考を要求されます。哲学好きの人にも十分満足できる面白さです。分厚い本をたっぷり楽しんで下さい。しかし、この論理的思考力は手放しで賞賛ものですね、ホント。
グッドラック―戦闘妖精・雪風(amazonリンク)
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「ラーゼフォン」神林 長平 徳間書店
「機械たちの時間」神林 長平 早川書房
文庫の解説が酷いそうですが、誰が書いているのでしょうか?「グッドラック」はハードカバー版が出たときに買ったので文庫版は持っていません。
過去記事をTBさせていただきますので、よろしくお願いいたします。
文庫の解説ですが、大野万紀という方が書かれています。解説が悪いというと言い過ぎかもしれませんが、本作品の凄さ・素晴らしさを表現するには言葉足らずの感が否めません。本書は小説ではありますが、小説の解説で終わってしまっているからでしょうか? ただ、本作品の場合、この解説は不要であると私は信じます。
好きな作品だけに、拒否反応が出てしまうんですよ・・・(涙)。
OVAで存在を知り(出来はうーむですが、知名度を上げたという意味では良かったのかも)原作を読みました。
三大作家以外のSF小説を読んだのは初めてでした。おかげで、他のSF小説家を読んでも、神林節と比べてしまうようになって、他のを読まなくなってしまっています。(苦笑
異星「人」じゃなくて、異星「体」と呼ぶところからして、新鮮でしたよ。
海外を知らないと日本の姿は見えてこない。
それと同じように、地球の外から客観的に見ないと、地球人はわからない、ということでしょうね。
本当に神林氏の描く世界のSFは、あまりにも別格なんで他の方のSF作品と比べると格段の差を感じてしまうことってありますね。勿論、いろんなSFがあってもいいとは思うのですが・・・。日本にも神林氏のようはSFが増えてくれると読者として本当に嬉しいですねぇ~。