2006年11月03日

「ゴシックということ」前川 道郎 学芸出版社

買おうかどうしようか、値段の高さから散々悩んだのですが、購入して大正解の本でした。目次を見てもらっても分かりますが、ゴシックについてこれだけ内容があり、しかも簡潔にまとまっているものは例がないほどです。

しかも通俗的なゴシックの説明ではなく、しっかりとした骨太の説明というか解説であり、定評ある先行する研究成果を加味してそれらに対してもきっちりと説明したうえで、それを踏まえた著者独自の見解なども述べられていて本当に勉強になる一冊です。

一般向けのゴシックの説明は卒業し、一歩進んだ知識を得ようと思う私のようなひよっこには、本当に目からウロコというか感動で目から涙とでも言えちゃいそうなとっても嬉しい内容の充実ぶりです。

建築の本質は空間にあるとして、形態はそれ自体が建築造形の目的ではなく、空間構成の手段であるとする。その空間認識からゴシック建築を捉えた本書は実に&実に、読み応えのある本である。

あとで本書からのメモを大量に紹介するつもりですが、最初のゴシック建築とされるサン・ドニ修道院を生み出した修道院長シュジェ(シュジェール)がいかにして《光の壁》(=ステンドグラス)を採用していったか、またそれを思想的に支えたディオニシオウ偽書の光の形而上学の説明等、知れば知るほど楽しくってしかたなくなる知識が盛りだくさんです。

ゴシック建築に対する捉え方を学べば学ぶほど、より一層の好奇心を刺激されると共に改めてゴシック建築の素晴らしさを実感しないではいられない本です。

観光者向けのゴシック本に飽きたら、是非、本書をどうぞ!!但し、腹をくくって読みましょうね。かなり哲学入ってます。本書の中ではスコラ哲学の説明までありますから(勿論、簡略化したものですが)、深~い思索無しには理解できませんし、読んでてもつまらないです。

その代わり、お好きな人には涙モノの傑作でしょう。本書を通じて、次に誰のどんな本を読んでいくべきか、知識を深める道しるべともなります。参考文献などはまさに宝の山です。是非是非、ゴシック好きなら読んでおきましょう。本書を読んで、一度挫折したパノフスフキーの「ゴシック建築とスコラ学」をまた読んでみなければと強く思った私でした。もっと&もっと勉強しないとあの本の素晴らしさが分からないみたいです。よ~し、再チャンレンジだ!!
【目次】
第Ⅰ部 教会堂の聖なる空間
 第1章 建築空間史へのいざない―ヨーロッパの教会堂
   一 はじめに―空間と機能
   二 神に至る通路―キリスト教のバシリカ
   三 光のドーム―ハギア・ソフィア
   四 建築的機能主義―シトー修道会の空間
   五 光の壁―ゴシックの空間
   六 近世のドーム―寸言 
   七 おわりに

 第2章 シトー修道会の聖なる空間―プロヴァンスの三姉妹。とりわけル・トロネの粗い石
   一 はじめに
   二 シトー修道会とその建築
   三 三姉妹の建築概観
   四 粗い石
   五 ル・トロネの建築の機能主義
   六 ル・トロネの<聖なる空虚> 
   七 ラ・トゥーレットとル・トロネ
   八 おわりに

 第3章 サン・ドニとシュジュ
   一 はじめに
   二 サン・ドニの改建
   三 光の空間
   四 アナゴジカルな働き
   五 おわりに

 第4章 ランスのノートルダム
   一 その小史
   二 修復ということ
   三 ゴシックの古典

第Ⅱ部 ゴシックということ
 第1章 ゴシック建築の性格についてのいくつかの考え
   一 北方的性格
   二 キリスト教精神的な理想主義
   三 地上的感覚性の芸術
   四 ヴォーリンガーとドヴォルジャーク
   五 構造的合理性
   六 ゴシック建築の空間論に向けて

 第2章 現代のゴシック建築論
   一 フランクルとシャンツェンとゼードルマイア
   二 ゴシック建築とスコラ学
   三 超越的実在の象徴としてのゴシック聖堂
    1 ゴシック建築とは何か―そのイメージ
    2 ゴシック建築の特徴―そのイメージ表現の方法
    3 ゴシック聖堂の思想的基盤
ゴシックということ(amazonリンク)

関連ブログ
ゴシックということ~資料メモ1
「大系世界の美術12 ゴシック美術」学研
「図説世界建築史(8)ゴシック建築」ルイ・グロデッキ 本の友社
「図説 大聖堂物語」佐藤 達生、木俣 元一 河出書房新社
シュジェール ゴシック建築の誕生 森洋~「SD4」1965年4月より抜粋
ゴシックと現代/吉川逸治~「SD4」1965年4月より抜粋
ゴシック建築の成立/堀内清治~「SD4」1965年4月より抜粋
ゴシック空間の象徴性/高階秀爾~「SD4」1965年4月より抜粋
ゴシックのガラス絵 柳宗玄~「SD4」1965年4月より抜粋
「大聖堂の秘密」フルカネリ 国書刊行会
「パリのノートル・ダム」馬杉 宗夫 八坂書房
「アミヤン大聖堂」柳宗玄 座右寶刊行会
「カテドラルを建てた人びと」ジャン・ジェンペル 鹿島出版会
「ヨーロッパのキリスト教美術―12世紀から18世紀まで(上)」エミール・マール 岩波書店
「大伽藍」ユイスマン 桃源社
「シャルトル大聖堂」馬杉 宗夫 八坂書房
「ステンドグラスの絵解き」志田政人 日貿出版社
「大聖堂のコスモロジー」馬杉宗夫 講談社
「フランス ゴシックを仰ぐ旅」都築響一、木俣元一著 新潮社
「ゴシックとは何か」酒井健 著 講談社現代新書
「ロマネスクのステンドグラス」ルイ グロデッキ、黒江 光彦 岩波書店
posted by alice-room at 14:04| 埼玉 ☁| Comment(2) | TrackBack(0) | 【書評 建築】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
目次だけ見ていてもわくわくしますね!
来春頃になったらまたロマネスク、ゴシックめぐりしたいんですが。。。どうかな?
Ulmの大聖堂にとりあえず行って見たいと思います。
Posted by seedsbook at 2006年11月03日 17:27
seedsbookさん、本当にワクワクしちゃいます。実際、読んでいると非常に奥が深く益々知りたくなってしまいます(苦笑)。
ロマネスク、ゴシック巡りですか。それは素晴らしいですね!! 是非、行かれたいろいろと紹介して下さい。私もいろいろと身辺が落ち着いたら、とりあえずまたゴシック巡りに行くつもりです。予定は未定なのですが・・・。
Posted by alice-room at 2006年11月05日 01:16
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