2006年11月07日

「トマスによる福音書」荒井 献 講談社

ダ・ヴィンチ・コードを読んで以来、いつか読もうと思いつつも今まで保留になっていた本です。文庫故の手軽さでいつでも読めるとそのままになっていました。

ご存知グノーシス主義の福音書としては、大変有名なものです。だって、あのナグ・ハマディ文書に含まれていたものですし、今年になってにわかに脚光を浴びたユダの福音書に先んじて世界中に話題になったものです。

ナグ・ハマディ文書はコプト語(古代エジプト語)で書かれていますが、他の福音書などにもしばしば見られるようにギリシア語からの翻訳だと考えられるそうです。そして、そのギリシア語のトマス福音書も更にシリア語のトマス福音書の原本が想定されるんだそうです。しかもその場所は、あのエデッサ(聖骸布の話でも有名なあのエデッサです)だったりします。う~む、いろんな事柄が有機的に結びついていくのを感じます。

ネタになりそうな話はたくさんあるので、まだまだダ・ヴィンチ・コードの続編書けそうですね(笑)。

そうそう、本書を読んで個人的にワクワクしてしまったのは、トマス福音書にあるという以下の言葉:
「木を割りなさい。私はそこにいる。石を持ち上げなさい。そうすればあなたがたは、私を見出すであろう。」

これでピンときた方いるしょうでしょうか? そうです、あの映画「スティグマータ」で聖痕を受けた女性が語る言葉であり、壁にアラム語で書いた言葉です。

いやあ~、やられました! あの映画では、トマス福音書が背景にあったんですね。今頃になってやっと分かる私って、情けないです(トホホ・・・)。でもでも、改めてその意味が分かりました。これを知ったうえであの映画を見ると、感銘が更に増しそう・・・。早速、今度見直してみよっと!

他にも実に興味深い説明があります。何故、聖書や福音書などがあの時代に選択・固定されることになったのか? グノーシス派が正典を含めて次々に『聖』文書を拡大していった為に、止むを得ず、正統派教会が取らざるを得なかった対抗策であることが説明されます。実に、実に面白い♪

勿論、グノーシス主義の定義から、いわゆる正典との対比や外典との対比などを含めた翻訳と注釈まで内容は実に盛りだくさんです。ただね、門外漢には正直つらいのも事実。Ⅱの部分は、はあ~そうなんですかあ~という感じで読むしかありませんでした。

まあ、Q文書を含めた二資料仮説とかをご存知の方なら、楽しめるのではないかと思います。後ほど、本書からの抜書きをメモしますが、グノーシス主義に感心があるなら、とんでも本のいい加減な知識や説明に満足せず、正統派の本書をお薦めします。

巷に氾濫するいい加減な本をいくら読んでも、誤りに屋上屋を重ねても知識にはなりません。是非、本書のようなしっかりした正しい知識を持った方がいろいろと幅広く楽しめます・・・何が?(笑)

なお、余談ではあるがうちのブログのタイトルにある『叡智』って、まさにグノーシスじゃん! しかも『禁書』でしょう。う~ん、どう考えても異端そのもののサイトだと思われそう・・・。しかもブログ立ち上げのきっかけがダ・ヴィンチ・コードだし、私が火炙りにされないことをただ願うのみです(笑顔)。

トマスによる福音書~メモ
備忘録はこちらにメモ
【目次】
Ⅰ トマス福音書の背景
 第一章 ナグ・ハマディ文書の発見とその内容
 第二章 教会教父たちの証言
 第三章 オクシリンコス・パピルスとの関係
 第四章 外典との関係
 第五章 福音書正典との関係
   1 トマス福音書とQ
   2 トマス福音書とマルコ資料
   3 トマス福音書とマタイ特殊資料
   4 トマス福音書とルカ特殊資料
   5 トマス福音書の伝承史上の位置
 第六章 「正典」と「外典」成立史上におけるグノ-シス主義の位置
   1 「正統」と「異端」
   2 グノーシス主義「外典」
   3 グノーシス派の「聖書」解釈原理
   4 グノーシス主義の「聖書」解釈

Ⅱ トマス福音書のイエス語録―翻訳と注解

Ⅲ トマス福音書のイエス
 第一章 「無知」から「覚知」へ
 第二章 光―生けるイエス
 第三章 「単独者」―「統合」を目指して

参考文献
トマスによる福音書(amazonリンク)

関連ブログ
スティグマータ 聖痕 <特別編>(1999年)
イエスを偽預言者、嘘つきとみなす「マンダ教徒」
ナショナル ジオグラフィックセミナー『ユダの福音書』の謎を追う
ユダの福音書(試訳)
posted by alice-room at 23:07| 埼玉 ☀| Comment(4) | TrackBack(0) | 【書評 宗教A】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
面白そうだけど、自分では理解できるほど知識がないかもなあ、と思ってます。
だから管理人さんみたいな方がいるのは有難いです。
どうか火炙りにならないでくださいね(笑)
「スティグマータ」私も好きです(ガブリエル・バーンが好きで観たんですけど)十分面白いと思ってましたが、こういう背景をきちっと把握していると面白さの質もかわってくるんですね~。
ハリウッドもなかなかあなどれない?!
ところで別カテで書いたチャリティバザーでゲットした古本にひろさちや氏の「宗教の練習問題」があります。これは面白いです。
いまいちもや~っとしている定義も目から鱗ではっきりしました。
大雑把といっても読んで損はしないと思います。
Posted by OZ at 2006年11月13日 06:38
スティグマータ、OZさんもお好きみたいで私もなんか嬉しいです♪この本読んでからしっかり見直してみると、いろいろと考えられて作られた映画であることに改めて気付きました。実は、これで見るの3回目ぐらいなんですが・・・私も今まで気付かなかったのでした(苦笑)。
映画としてはダ・ヴィンチ・コードよりもはるかに出来がいいし、キリスト教的にもずっと問題がありそうですが、ホラーということでみんなが作り物と納得しちゃうから、いいんですかね?
その辺りにいささか疑問を覚えましたが・・・。

>ひろさちや氏の「宗教の練習問題」
今度、本屋か図書館に行った際には意識してみてみますね。ひろさちやしの本は、仏教関係で以前読んだことがありますが、分かり易い説明で理解しやすかった覚えがあります。読みたい本が多くて大変です(嬉しい悲鳴)。
Posted by alice-room at 2006年11月15日 00:55
先日の「ユダの福音書を追え」のドキュメンタリーからこちらの過去記事を読み直したりしている過程で、また「スティグマータ」見たいなあ、と
念じていたら(?笑)明日テレビではいります。
嬉しい!!!
ビデオにとろうっ!
Posted by OZ at 2008年03月29日 05:23
OZさんの願ったとおりに、世界は動いているようですね。素晴らしいです♪ 
「願いは実現する!」ですね(笑顔)。

映画としては、「ダ・ヴィンチ・コード」の何倍も「スティグマータ」の方が面白いし、出来がいいですもんね。何度見ても、ぐっと心に来るもののがありますし・・・。
楽しんで下さいね!!

Posted by alice-room at 2008年03月30日 08:18
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック