著者の書かれた中世関係の本は、何冊か読んだことがあり、興味深いものが幾つもあったものの、建築はご専門ではないでしょう・・・と思い込んでいました。
来月イタリアへ行く前に、観光ガイドとは別次元のイタリアの建築について、少しでも知りたいと思ってたまたま見つけたのが本書でした。しかし、当初の予想に反して、本書は良い方向で裏切ってくれました!これは当りかと♪
フランスのロマネスクや特にゴシック好きの私としては、スペインまでは建築として意識に上っていたものの、イタリアはちょっとピンとこなかった、というのが正直な気持ちでした。
でも、本書を読んでイタリアの建築に非常に強い関心を覚えました。
本書では、イタリアのロマネスク、ゴシック、バロックなどを中心に、地域的・時間的に幅広いスパンをとって、あるがままの建築を紹介していきます。
そして写真と共に紹介されている、それらの建築物が実に美しく、調和が取れており、これぞイタリアってのが実に如実に現れていたりする。
私の大好物のフランスのゴシック建築、神の整然とした合理性に貫かれた表現とは、全く異なるものの、世俗にどっぷりつかりながらも、市民的(人間的尺度での)合理精神や進取の気性を体現するかのような建築物というのも、なんというか実に興味深くて、魅力的だったりする。
また、建築物の紹介に際し、それを生み出した建築家を取り上げ、その人の生まれ育った環境や時代的な背景、社会風俗の流行までも含めて、それらがその土地で、その人の手により、生み出されるに至る過程まどを説明してくれており、説明も通り一編のものは少ないです。
読んでいるうちに、是非ともその場所に行って、その建築物を見てみたい!!
強く思わずにはいられません。まあ、そうしたら何日あっても足りないぐらいですけどね。
慌しく、駆け足で有名所を周るなんて、もともと好きではありませんし、そういうのはしない主義ですが、本書で紹介されるような作品は、じっくりとそこにいて、じわじわと体感されてくるまで待たないと感じられないんですよねぇ~、たぶん。
結構、内心ではなめていたイタリア建築の凄さをまざまざと実感させてくれるような本です。
絵画だけではなかったりする、イタリア。何よりも建築は総合芸術ですしね。
中世においては、画家としての評価は、単なる一職人としての腕前の評価に留まり、建築家の全人格的崇敬の対象とされるまでの、社会的ステータスの伴った評価とは別次元だったりするそうですし。
本書を読んで改めて、もっといろんなイタリア建築を見たくなってしかたがありません。
実際に観たことのあるラウンレンツィアーナ図書館の階段でさえ、その価値を十分に理解していたと言い難いことを改めて知りましたもん。そういうのがたくさん書かれています。
紙質的なものもあり、重いので旅行に携行するのはどうしょうかと思いますが、これ見ながら、自分の目と脚で是非とも、味わい尽くしたいです。
本書は建築に興味ある方にお薦めです。なかなか無い本だと思いました。
【目次】世界歴史の旅 イタリア―建築の精神史(amazonリンク)
第1章 円かなる黙考―初期キリスト教建築
第2章 海辺の白い貴婦人―プーリア式ロマネスク
第3章 壁面のリズム進行―ピサ式ロマネスク
第4章 花咲くファサード―イタリア・ゴシックの真骨頂
第5章 調和と比例―アルベルティのルネサンス
第6章 ヴィッラの快楽―マニエリスト、パッラディオ
第7章 黄金のスペイン残映―バロック都市レッチェ
第8章 脈動と幻惑―王都トリノのバロック
おわりに―様式から意匠へ
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「イタリア都市の諸相」野口昌夫 刀水書房
「カラー版 イタリア・ロマネスクへの旅」池田 健二 中央公論新社
「シエナ」池上俊一 中央公論新社