なんていうんでしょうか、私が考える推理小説って基本的にこの短編集のイメージというかノリなんですよ。渡辺啓助氏の小説もやはり同じ匂いがするのですが、このいかにも『新青年』っていう感じにたまらないモノを感じてしまいます。
人間の心理をどこまでもあざとく描き出す描写とそれを支える合理主義的な思考方法が、実にイイ! 昨今の状況描写のみと薄っぺらな心理描写(=ほとんどが今の時代の特有性に判を押したような、それでいて定型的に過ぎるもの)で、人間として思考がない小説にやりきれないばかりの思いがあったのでたまにこういうものを読むと改めて小説の面白さに気付かされます。
ある種のナンセンスであってもいいのですが、それをどこまでも掘り下げていく『真摯さ』が最近読んだ小説では、感じられません。個人個人とはいいつつも個人主義に名を借りた利己主義には反吐が出ます。
一見不合理なようで有り得ないと思いつつも、本文で語られる論理を筋道立てて辿っていく過程で常識とは相容れないながらも、実に論理的な説明がなされ、納得せずにいられなくなる。読書は、まさにその物語の世界に入り込んでいってしまうわけですが、その読書故の楽しみを存分に満足させてくれる本でしょう。
夢野久作と言えば、『ドグラマグラ』が最高峰であり、私個人の感想では今まで読んだ小説の中でこれ以上の小説を読んだことはありませんが、それなりにハードなのも事実。小説の表面的な謎懸け的な技巧に翻弄されてしまい、一番の美味しいところまで味わっていない(のではないかと、勝手に私的には思うのですが・・・余計なお世話ですね)人が多いようです。
まずは本書でしっかりと準備をしながら、楽しんでから、次にステップアップするのも一考の余地があるかもしれません。まあ、堅いこと言わずに小説というもののエッセンスが凝縮している作品です。
この手のものがお好きな方なら、きっと同感してもらえると信じています。これでしょう、これ!(ニヤリ)
【目次】死後の恋(amazonリンク)
死後の恋
悪魔祈祷書
人の顔
瓶詰地獄
キチガイ地獄
鉄鎚
冗談に殺す
オンチ
人間腸詰
押絵の奇蹟
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