2005年04月04日

「よみがえる最後の晩餐」片桐頼継 著 日本放送出版協会

bansan.jpgこれは以前にNHKスペシャルで見て、非常に感動したことがあったのですが、それを本にしたものです。主題はまさにダ・ヴィンチ・コードでも重要な鍵を有するとされる「最後の晩餐」。しかし、これは20年以上にも及ぶ修復を経て初めて、ようやくまともに見られるようになったことを知っている人は少ないかも?実は何度かイタリア行ったことあるにもかかわらず、私もこれは直接見ていなかったりする。

とにかく本当なの?と疑うような事実を次々と教えてくれる本です(私はTVを先に見てるので知ってましたが)。あの名画としての知名度は絶大にも関わらず、描かれてから500年にも及ぶ間に、どれほどの修正・修復(実際は、その名目で勝手に追加補筆、補彩がされていたそうです)がなされ、長い歴史を通じて人々が見てきたのは、ダ・ヴィンチの作品とは似ても似つかぬ別の作品とも言えるようなシロモノを見てきたという事実!こっちの方が驚愕だと思うんだけどね・・・仮説のダ・ヴィンチ・コードより。これは紛れないもない『真実』なのだから!

本文中には、非常に詳しく修復作業やその歴史的意義にもかかれているのですがかいつまむと。これは画法のことになるのですが、通常壁画は生乾きの漆喰に描くテラコッタ手法で乾燥すると化学変化を起こして定着するので時の経過にも耐えうるのですが、ダ・ヴィンチは一気呵成に書き上げるタイプではなく、じっくりと遅筆タイプなのでキャンバスとかに描かれるようなテンペラ手法を使ったそうです。

それで、ダ・ヴィンチ存命中から傑作との評判が高いのに既に剥落をし始め、その後の修復は適当に上塗りされたり、剥落を防ぐために行ったニカワや樹脂を塗る保存法は結果的に、更なる剥落を促進するなど、実際、ボロボロ状態だったそうです。おまけに場所は湿度が高くてカビまで生え、デコボコの画面上にはホコリが積み重なって層をなしていたり・・・なんか信じられませんね。

修復士のブランビッラ女史は、過去からのたくさんの模写や科学的検査や顕微鏡調査を元に、ダ・ヴィンチ本来の絵具を推測しながら、それ以外の加筆や汚れを丹念に洗浄していくのだそうです。一つ誤ると大切なオリジナルを失ってしまうというリスクを抱えつつ、一日に数センチしか進まない日が続いた事もあったとか…。こういうのって本当に頭が下がる思いですね。それこそ、もう職人仕事の域ですもん。汚れや加筆を落すのでも時代時代によって使われる素材が違うので、それに合わせて個々に最適な方法や薬品を使っていくそうで、気が遠くなります。だって同じ画面上に何層も塗られていれば、その回数分個別に作業をするわけですから…。

これ読むと、是非観たくなってしまいます。現在は、無事修復も終わり、見学できるそうですが、厳しい入場人数の制限があるそうです。人の出入りはどうしても大量のホコリを持ち込むことになる為、完全空調の部屋にしたうえでそういった措置が必要なんだとか、行っても感嘆に見られるわけではなそさう・・・。

そうそう、ダ・ヴィンチ・コード絡みの記述で面白いと思ったのは、マグダラのマリアとか勝手に思い込まれているヨハネ。説明を読む限りでは、やはりヨハネだよなあ~。ペトロのナイフの手の位置なんかは、未だにはっきりしていないし。他のところもそうだけど…よく分かっていない所が多分にある絵なのに、それを元にいくら説明されても意味がない…というのが今回改めて感じ感想でした。

とにかくこの修復を成し遂げた女史には、国民栄誉賞でもあげたいですね。日本の人じゃないから、不可能だけど。どっかの保険会社さんみたいにゴッホの絵に50億円以上かけるなら、こういう人の支援でもしてあげたほうがよっぽど生きた金の使い方なのに…。

この本には修復の他、NHKがCGを使って書かれた当時の絵を再現するというプロジェクトについても詳述されています。勿論、それはビジュアルでないとなかなか内容を理解できない私のような一般人向きに強くアピールする為のものでしょうが、観たときに感動しちゃうのも事実。これは法隆寺の復元とかでもやっていましたがNHKお得意のやつです。本ではイマイチですが、TVで観た時には本当にスゴイ!の一言に尽きます。

但し、これは本でしか分かりませんでしたが、研究者サイドでは当然、ある程度の確信を持って復元できるところに止め、完全に剥落してオリジナルが推測できない部分はそのまま空白にしたかったそうです。勿論、NHKのプロデューサーから推測でもいいから完全な復元図(一部はだから、完全に想像)にしろと言われて従ったそうです。さすが横暴なNHK!要は、もっともらしくして視聴者にビジュアルで訴えると効果的だからね。視聴率を取りたいというのは民放に負けないです。裏で金使い込むし…(ありがちな話だが)。

そういういやらしい部分も注意すると判りますが、全体としてみて面白い本です。昔、放送大学のテキストで壁画の手法とか書かれたのも読みましたが、改めて興味深かったです。何よりもイタリアの修復士さんは尊敬しちゃいます。日本の藤ノ木古墳の壁画を分離保存する際の特番も見たけど、アレにも共通する、使命感と誇りを感じました。TVもいい番組でしたよ。また、観たいなあ~。
よみがえる最後の晩餐(amazonリンク)

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最後の晩餐
posted by alice-room at 19:54| 埼玉 ☔| Comment(2) | TrackBack(1) | 【書評 美術】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>alice-roomさん
TBとコメントありがとうございました。
alice-roomさんの書評はとても詳しくて
専門的で勉強になります。

原型をとどめぬほどの加筆が施されていた
という事実にも驚きましたが。
20年もの長きにわたる修復作業には、
熱いものを感じますね
Posted by ユカリーヌ(月灯りの舞) at 2005年07月22日 11:45
ユカリーヌ(月灯りの舞) さん、こんにちは。私の場合、たまたまTVで先に観ていたので本を読んだ時もとっても分かり易かったです。
しかし、本当に情熱ってすごいですよね! 何でもそうですが、情熱を持って打ち込める時、人間って素晴らしい存在になるなあ~って思いました。こちらこそ、コメント有り難うございました。
Posted by alice-room at 2005年07月22日 13:31
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Excerpt: 「よみがえる最後の晩餐」 ?  片桐 頼継・アレナス,アメリア:著   日本放送出版協会/2000.2.25/\1,995 NHKスペシャル「よみがえる最後の晩餐」、 ETVカルチャースペ..
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