但し、この本をいきなり読むとまさに子供向けのお話以外の何物でもなく、しかも「ウンコ」「おなら」など現代的な感覚でいうと単なる下品としか評価されないものが、頻繁に(否!)それがメインで出ている作品の為、かなり俗っぽいです。
日本でいうなら、「金太の大冒険」ぐらいの低俗さでしょうか(笑)。「きっちょむさん」や「一休さん」等にも近いノリですが、それらが基本的に善人による罪のないトンチであるのに対して、本書のオイレンシュピーゲルは、極悪人とまではいかないがかなりのワルです。いわゆる札付きの厄介者で嫌われ者、且つとことんまでひねくれた人物像なのですが、一方で遍歴職人として都市の生活を如実に伝えていると共に、自らの肉体以外の資本を持たない存在が『都市』という場所において蒙っていた困難な状況を辛辣にあげつらい、既成の権力にも屈しないところなど、民衆の鬱憤晴らしの物語として人気を博したのもむべなるかな、と思わずにいられないところがあります。
まあ、小難しいこと言わずにすぐに読める本なのですが、くどいようですが、まずは本書の前に阿部先生の御本を読みましょう。ヨーロッパ中世というものをある程度理解してから読むと、本書の面白さは倍増します!
パン職人や革職人、司祭の寺男などの仕事も興味深いですが、プラハの大学で教授連中を論破するところなども実に、実に興味深い。私がこれまで読んできた本の具体的なイメージが本書を読むことで、なんともリアルに目に浮かんできました。
例えば、いたずら者として悪評が広まった結果、とある地域では出入りを禁じられながらそこに入り、あわや捉えられて罰を受けるとなると、乗っていた馬を殺して内臓を抉り出し、ひっくり返して四つの足に囲まれた中に立つオイレンシュピーゲル。これって、何をやっているのか現代の我々には不明ですが、当時、四つの柱に囲まれた空間にいるものは、どんなもの(権力)でもそこに進入することができない権利を有していた―――そういう社会的通念を理解して初めて納得できる行為だったりします。即ち、殺した馬の足で囲まれた空間が一種の避難地となっている、そういうことを明示している訳です。
いわゆる『アジール』(聖域等)というやつで、なんか面白いですよね。日本でも縁切り寺とかありますが、あれもその手のものらしいですし、子供がやる「高鬼(たかおに)」これなんかもその一種だと思います。私もよくやりましたので勝手に私がそう思うだけですが・・・。
本書では、オイレンシュピーゲルという人物の生まれてから死ぬまでを通して、庶民の中世を描き出しています。いろんな中世物を読んでから、確認や知識の整理を兼ねて読むといいと思います。また、本書を読んでから、改めて他の本を読むと、さらにいろいろな理解が進みそう。
た・だ・・・。
結構、奥深いものがありそうです。浅薄な私の知識では、表面からちょっと入ったぐらいしか味わえていませんが、もっと&もっと勉強すると更に面白いかもしれません。
※阿部先生も同じ本を翻訳されています。本当はそちらの訳を読んでみようと思ったのですが、こちらの本をたまたま購入したのでまだ阿部氏の本には目を通していません。いずれそちらも読む予定なのですが・・・?
ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら(amazonリンク)
関連ブログ
「中世の星の下で」阿部 謹也 筑摩書房
「ハーメルンの笛吹き男」阿部 謹也 筑摩書房
「甦える中世ヨーロッパ」阿部 謹也 日本エディタースクール出版部
「中世の大学」ジャック・ヴェルジェ みすず書房
「異貌の中世」蔵持 不三也 弘文堂
「中世のパン」フランソワーズ・デポルト 白水社
このタイトルのオーケストラ作品があり、
こちらは結構有名です。
本日、この曲の原典があることを知り勉強になりました。
やはり、文盲が市民の多数を形成していると
こういう象徴が社会では大きな役割を果していたのですね。
>やはり、文盲が市民の多数を形成していると
>こういう象徴が社会では大きな役割を果して
>いたのですね。
いろんな意味で非常に親しまれてきたお話みたいです。その時代の空気を如実に表していました。
Braunschweigと言う北の方の町に行った時に市庁舎の壁にEulenspiegelのレリーフがあって、親しまれている様子がうかがわれました。
この本を編集したのがこの街のHermann Boteと言う人らしい。Braunschweigから更に北に上がるとMoelleと言う街があってここか、LueneburgでEulenspiegelは亡くなったという話。
この名を知らぬ人はいないという感じです。
その国ごとに、いろいろなお話があるもんですね。当然といえば、当然ですが面白いですよね。