2006年12月03日

「大年神が彷徨う島 」藤木 稟 徳間書店

ootosihi.jpg藤木氏による、朱雀シリーズの一冊です。今までの作品は面白いんだけど、いま一つのところで不満が若干残るものだったのですが、今回のは私的には一切問題無し。推理小説としての王道を歩みつつ、これは今すぐの映画化等でも十分に耐え得る傑作の一つだと言うのは誉め過ぎでしょうか? でもね、それぐらい私は気に入りました。昔の角川さんだったら、即映画化&メディアミックスで媒体露出ガンガン出まくり・・・ってな感じ間違い無しだったでしょう。

粗筋としては、周囲から隔絶された特殊な歴史と環境に置かれた孤島が舞台。本土では既に廃れ、或いは失われつつある古の風習・禁忌が今も絶大なる力を有し、人々を支配する閉鎖空間で殺人が続発する。

私がこの本を読みながら、自然と浮かんだのがフレイザーの「金枝篇」にクレチェマーの「天才の心理学」、そして小松和彦氏の「異人論」や「憑霊信仰論」。映像的には丸尾末広の「犬神博士」と横溝氏の「八つ墓村」が常に本書を読みながら、漠然と脳裏を漂っていました。

実際、最後の参考文献に小松和彦氏の著作が載っていたのを見て「なるほど」「やはり」と思いましたが、知識として知っているのとそれを材料に小説に仕立てるのは全く別です。藤木氏は実に素晴らしいストーリーテラーであることを本書で改めて実感しました。

そうそう! これなんです! 日本やヨーロッパのような古い歴史を持つ国の国民は、意識的に認識しているか否かを別にすると数百年や更に千年単位で血や土地に縛り付けられて生きていることを強く感じます。私は以前、企業城下町にいたことがありましたが、そこでの行動原理は多国籍企業であっても所詮、『(企業という)村の論理』であることを嫌ってほど体験したことを思い出しました。

同時に人は決して自由意志で動くものではなく、限定された環境(社会通念、時代認識等々)に規定された枠内での打算に基づく行動ぐらいしかできないということを本書では訴えていますが、その点でも深い人間洞察に満ちた書だと思います。

あとね、そういった面もさることながら、何よりもおどろおどろしい雰囲気がそそります(笑顔)。こういうのって本当にスキ! 澱んだ血と歴史、鬱屈した閉鎖的社会、こりゃ何か起こらなければ不思議ってもんでしょう。横溝正史氏の作品を超えた出来じゃないかな?

陰陽道に関しても、小松氏の本で御馴染みの「いざなぎ流」を彷彿とさせる場面なども多く、知っている人ならニヤニヤしながら読んでしまうこと請け合います。そしてそれらを知っていても、更にゾクゾクさせるこの小説は、エンターテイメントしてやっぱり素晴らしいと思います。

粘着質的な本作品、推理小説のまさに王道でありましょう。是非是非、私がここに書いた内容にピンときたから、速攻でGETして読んでみましょう♪まず、間違いなく楽しめます(満面の笑み)。

大年神が彷徨う島(amazonリンク)

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posted by alice-room at 00:31| 埼玉 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 小説A】 | 更新情報をチェックする
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