2005年04月11日

ブラザー・サン シスター・ムーン(1972年)フランコ・ゼフィレッリ監督

brother.jpgアッシジの聖フランチェスコについて以前書いたブログがあって、たまたまこの聖人を描いた映画があることを知り、見た作品です。

ミュージカルに分類されていますが、特にそういう系統の作品ではないです。音楽の使われ方が少々変わっていますが、作品としての出来は悪くないです。キリスト教徒でなくても納得できる普遍の真理(物欲に囚われず、人として自由に生きる)がテーマであり、貧者に交じって誠実に生き、人に奉仕する。本当に出来たら、これほど素晴らしい事はないだろうなあ~っと思う理想を描いた作品でもあります。教皇に対しても、富を捨てるように諭してしまうんですから・・・なかなか痛烈な批判もされています。

でもね、全体を通して感じたのは、じわ~っとくるような暖かさ。人として生きていくうえで誰もが感じる矛盾を溶かしていくようなものを感じました。現代的ではないかもしれませんが、いい作品だと思います。見る人を選ぶかもしれませんが・・・。娯楽映画ではありませんし、アクション映画でもありません。淡々とした人生についての映画です。

内容的には、裕福な貴族の息子フランチェスコが若い頃はありがちな青年で人生を謳歌していたのですが、戦争に行って帰ってきて人が変わってしまいます。自分の生き方に迷い、周囲からは気が触れた変人扱い。なんせ、父親の大切な財産を投げ捨てたりするのですから・・・。それでも、息子を心配する子離れできない過保護気味の母や商人で立派な金儲けのできる大人にしたい父がそれぞれの立場で、一生懸命、息子を元に戻そうとします。俗っぽいことこのうえないのですが、人の親としての心情を切なく描いています。

一方で、フランチェスコは神の啓示を受けて自分が何をなすべきかを悟ります。廃墟と化した教会を再建することを目指すのです。持てる物を全て捨て去り、貧者に交わり、病人や弱い者を慈しみ、やがてその姿は周りから理解されていくのです。最後には、物欲にまみれた教皇にさえ、富を捨て神の栄光に生きるよう諭すことさえします。強烈な批判もそこでは主張されますが、全体としてはあらゆる物質世界のしがらみを捨て去り、謙虚に且つ人として自由に生きていくかを描いている作品です。

ここで描かれているのって、何も特殊なことでもありません。仏教で聖職者が物欲にまみれた時代に、鎌倉新仏教が隆盛を誇ったのと同じようなものでしょうか。どうしても体制的になった宗教は世俗に囚われてしまい、富や権力を有するに従って腐敗します。避けようもない真理であり、それに対して内側からの改革が起こるのは自浄作用の現われで歴史的な事実でもあります。

また、優れた宗教家が現われる際、身内の者にとっては放蕩息子以上に手に負えない困った状況であるのも世界に共通の事なのかな?普通の親にとっては結婚して子供を作り、お金おやでも儲けて親孝行でもしてくれた方がはるかに喜ぶんでしょうが・・・。出家に際して、王子の地位を捨て、妻や子を捨て両親を省みなかった仏陀もやはり似たような状況だったように感じて、映画の場面でもオーバーラップしちゃいました。う~ん、難しいね。

そうそう、聖フランチェスコにつきものの伝説である、鳥と語る場面は伝説そのままとは違いますが、別な解釈で表現されています。その他、教皇にフランチェスコの行動を正式に認可してもらう際のあの夢でのお告げ等は一切出てきません。代わりに物欲まみれの教会への真摯な批判がありますが・・・。

とにかく作品としては心が温かくなるような映画です。個人的には結構好き。でも、見始めた最初は正直、何がなんだかよく分からず、バックの曲さえうざく感じてしまいました。最後にはそれがいい感じでしっくりとくるんですが、現代人の感性でこの映画を見るのって正直辛いかも? ある意味、人を選ぶ映画です。興味ない人には、相当苦痛かもしれないなあ。

ブラザー・サン シスター・ムーン(amazonリンク)

「アッシジの聖堂壁画よ、よみがえれ」石鍋真澄著 小学館 感想1
「異端審問」 講談社現代新書
聖人、天使のカード(綺麗かも?)


posted by alice-room at 04:05| 埼玉 ☁| Comment(4) | TrackBack(0) | 【映画・DVD】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
はじめまして!TBありがとうございます。
とても観たい映画なのですが、(ジョットやフランチェスコへの興味、アッシジへの憧憬)
Amazonの評では、訳が気になるとあったのですが、いかがでしたでしょうか。
Posted by merino at 2005年04月11日 13:53
merinoさん、こんにちは。 私の場合は、特に訳については問題ないように感じましたよ~。
しばしば聞く言葉ですが、「清貧」というのは改めて人の心を打つなあ~って感じました。コメント有り難うございます。
Posted by alice-room at 2005年04月11日 15:32
サンフランチェスコと名付けたコートを持ってます。同じ色で・・・。薔薇の名前のウィリアムごっこが出来るかも。

訳、そうですか!じゃ迷わず買っちゃおうかな!!ありがとうございます(^_^)V
Posted by merino at 2005年04月16日 01:00
merinoさん、こんばんは。あっ、でも一応他の人のレビューとかも参考にしてみて下さいね。人によってずいぶんと感想が変わる場合もありますから。私は、結構好きな作品です。
Posted by alice-room at 2005年04月16日 01:42
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