但し、ダン・ブラウンの描く小説のパターンは、露骨に同じ路線を行っているので2冊以上読むとそのストーリー展開のパターンがいささか飽きてきて気になってしまうのも事実。もっとも著者による執筆の順番では、これが先にあったうえで「天使と悪魔」、「ダ・ヴィンチ・コード」と続いていっているのんですけどね。
本書の場合、ポイントはストーリーというよりは何よりも題材が素晴らしい。今でこそ知っている人は誰でも知っている「エシュロン」(知らない人は最低限ググっておきましょう!)などを踏まえてみれば、本書の執筆当時にこれだけのものを調べて材料を集め、小説にまとめた能力はやはり非凡でしょう!もっともそれが、後の「ダ・ヴィンチ・コード」で花開き、世界中で様々な問題を巻き起こすとはさすがのダン・ブラウン氏も予想しなかったでしょうが・・・。(まあ、儲かったからOKでしょう)
さて、小説としての本書ですが相変わらず展開は速いし、いろいろな興味深い情報が織り込まれていて、結構楽しめるのではないでしょうか?しかもここで描かれている内容はかなり有り得る設定であり、私もセキュリティ関係の仕事に絡んでいたので基本的なセキュリティ概念を知っており、そういう意味でも楽しめました。
まさに世界は暗号によって成り立っており、暗号が使用できない状況下ではATMからお金を下ろせないだけでなく、現在の社会が成り立たないのも事実ですから、そういう意味でも楽しいかも? 小説自体の楽しさはまあ並レベルですが。
【以下、ネタばれ含む】
難攻不落の電子要塞たるデータバンクがソーシャルエンジニアリング(ネットワークシステムへの不正侵入を達成するために、必要なIDやパスワードを、物理的手段によって獲得する行為を指す)的な手法で攻略されるのもある意味、基本に忠実なストーリーであり、シンプルな分分り易い。また、現実の社会でも一番危ないのがそれであったりもする。
貴重な社外秘データを持ち出す内部犯がいかに多いことか・・・。私も実際に何件も見たきたし、そういうデータの市場も知っているが、過失ではなく、故意も多いのだから、社員を信じていますなどという馬鹿なコメントを述べる経営陣は、単なる管理能力のない『使えない』おじ様達としかいいようがない。部下を信頼しつつも適切な監視と管理は必須なのが現在の常識なのだけれど・・・。
そういう意味で本書で出てくる管理職の人々の行動は実に合理的であり、そういう見方から読んでも面白いかもしれない。
あとね、これはエヴァファンなら、分かってもらえると思うのですが・・・こんなのりっちゃんがいれば、余裕じゃんと思ったりする。ファイアウォールが一つづつ突破され、セキュリティ刻一刻とハッカー達に侵略されている場面は、マギが使徒に侵略されていく場面を思わず彷彿とさせます(ニヤリ)。
本書を読みながら、脳裏にはエヴァのあのシーンが浮かんでおりました。しかもしかも、そこで出てくるパスワードもマギに関連することだし・・・。(これ以上書くと洒落にならないのでさすがにそこは伏せておきますが)
まあ、エヴァ好きの方はそんなことなどを念頭に置かれて読むのもまた一興かと。
しかし、次から次へと出てくるウィルスやスパイウェアの現実って凄いよ!本書では出てこないがボットなどに操られているPCなんかも世界中にたくさんあるしね。ファイルをダウンロードして「コーデックがないから再生できません。コーデックをダウンロードします。」って出てうかつにダウンロードしたら、それがスパイウェア入りってのは実際にはやっている事例だし、本書のようにPC内のデータを破壊されたくなかったら、金を振り込めとかという脅迫型のものまで実際に存在しています。
また、普通にメールを送ったらそれは全ての中継地でそのまんま読み取られているわけですし、セキュリティかけたってたかが知れてますもん。こないだ見たニュースでは、アルカイダが内部の連絡用にjpeg画像に暗号文(テキストデータ)を潜り込ませて分からないようにしたうえで通常メールを装ってやりとりしているんだそうです。おまけにgoogleなどの検索データなんか絶対に国家権力と癒着してそうだもんなあ~。
それに某○国では、検索会社の進出にあたり検索キーワードに制限をかけるなどという独裁国家ぐらいでしか有り得ないような話が普通にニュースになっているんだから、現実は怖い&怖い。
先日も某ファイル共有ソフト使ってたら、普通にヤバイ情報が流出しててマジ焦りましたもん。あれって本物なのだろうか? 怖い世の中です。ほんと。
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