2005年04月14日

「図説 地獄絵を読む」澁澤龍彦、宮次男 河出書房

jigokubook.jpg目次
1 はじめに
2 地獄の経典
3 地獄の形相
4 奈良時代の地獄観と地獄絵
5 平安時代の地獄絵
6 地獄草紙と餓鬼草紙
7 中世の地獄絵
8 往生要集絵
9 地蔵の救済
10 "厭離乱世、欣求和平"―現世的地獄図
11 地獄図と現代

地獄絵と言って、すぐ頭に浮かぶ人がどれくらいいるでしょうか?私にとっては子供の頃にTVで見た恐山のイタコの姿、賽の目川原で子供達が積んだ石を壊していく獄卒、針で出来た山を罪人を急き立てて歩かせる地獄の番人達といったものが奇妙に混ざり合った形が原風景的に浮かんでくる。

中でも澁澤氏が解説してくれる「人道九不浄相之図」。これにはいろいろな個人的感慨があるんですが、解説も秀逸なので引用しておくと・・・。
「肉体の美しさは、ただ日歩にあるのみだ。もしも人間が、透視力をもったボエオテイアの山猫のように、皮膚の下にあるものを見ることができるならば、誰もが女を見て吐き気を催すことになろう。女の魅力も、実は粘液と血液、水分と胆汁とから出来ている。いったい考えてもみよ、鼻の孔に何があるか、腹の中に何が隠されているか。そこにあるのは汚物のみだ。それなのに、どうして私たちは、汚物袋を抱きたがるのか」

修道士の言葉との解説がついているが、まさに事実を的確に現している。そもそも九不浄相之図は、死者が徐々に腐敗の段階を経て、最後に完全な白骨に化するという屍体の変化を描いた一連の絵であり、究極のリアリズムの所産ともいえる作品なのである。

一生懸命にお化粧し、ブランド物を買い漁る人達をTVで眺める度に、汚物袋をいくら着飾っても・・・と考えるのはいささか皮相的過ぎるが、現金ではなく、ましてリボとかでしか買えない人々が無理しているのを見ると世の哀れを実感してしまうのは私だけではないでしょう。ブラックダイナース(年会費15万円)やセンチュリオンカードで買うなら、また違いますが・・・。

地獄はともすると、人の想像の産物だと思われがちだが、実はあくまでも現世に対応した存在であり、現世の物質世界を否定的に捉える「厭離穢土(おんりえど)」という価値観に対応するものでもあった。この厭離穢土であるが、世俗の欲望まみれの現世を離れ、死後は浄土へ、という考え方であり、カタリ派が考えるグノーシス的なものにも共通する観念でもある(ここは私見)。

jigoku1.jpg

まあ、堅い話はその辺にしておくとして。何故か心惹かれるんですよ~、この手の地獄絵図。日本では昔は、お祭りなどでお坊さんがこの手の絵を出して、説法していたらしいのですが、みんな聞いたことないでしょう。生きている間に善行を積んでおかないと死んであの世で地獄に落ちるぞ~ってなやつ。私もずっと聞いたことなかったんですが、あちこちを旅していて時に、東北のどこかで村祭りみたいなのにたまたま出会ったことがありました。

そこでね、な・なんと!地獄絵図を目の前にして説法していたんですよ。子供達を対象にやっていたんですが、生まれて初めて生で見たので感激して、ずっと子供達に交じって辻説法を聞いちゃいましたよ~。いやあ~なかなか良かったです。悪い事すると地獄に落ちるんだって納得しちゃいましたもん。説得力ありますよ~。なんせヴィジュアルに訴えますから(笑)。

この本の中では、それこそ無数の地獄が紹介されています。まさに人の罪の数だけ地獄があるみたい。刑法で、人が犯す犯罪の数だけ法定刑があるようであり、現世で裁けない分はあの世で裁いてくれるのかなあ~? 

中でもこれは辛いと思った地獄を挙げると、衆合地獄の一つなんですが・・・。
獄卒は罪人をつかまえて刀のような鋭い葉を持つ樹の林の中におく。その樹の頂上を見ると、着飾った美女がいるので、罪人はその樹に登っていくが、刀のような樹の葉は下を向いて罪人の身体を切り裂く。やっと頂上に辿り着くと、美女はそこにおらず、地上にあって、媚を含んだまなざしで罪人を見上げ、「貴方を慕って、私がここに降りてきたのに、どうして貴方は私のところにいらっしゃらないのですか、何故私をお抱きにならないのですか」という。これを見て罪人は欲情を激しく燃やし、樹を降りるが、刀のような葉は今度は上向きになっていて罪人の身体を切り裂く。やっと地上に降りると、女は樹の頂上にいて招く。罪人は再び樹を登り始める。このようにして計り知れない百千億年にわたって自分の心にたぶらかされてこの地獄の中でどうどう巡りを繰り返すのだそうです。

これは辛いよねぇ~。だけど、この地獄からは逃れられないかも???

jigoku.jpg

地獄絵図を見たことないけど、興味がある人には分かり易いし、入門書的には結構いいかも?この本は。で、これを読んだ後は何はともあれ、実物を見ないと。京都国立博物館や東京国立博物館に本物があります。ミュージアムショップでは絵葉書にまでなって売ってるしね。勿論、そういうのが好きな私は当然買ってますけど。ここに載せている地獄絵図も本の中にある図ではなく、自分の持っている絵葉書から取り込んだ「地獄草子」と「餓鬼草子」です。そうそう、あまり知られてませんが、千葉にある民族博物館だったかな(?)
ここでは、のぞきカラクリとして地獄絵図の辻説法みたいなのを再現でやっています。なかなかレトロで楽しいです。立派な建物なのに、中身はあまり面白いのがなくていつもガラガラな施設。国じゃなければこんなの維持できないなあ~と思う立派さです。暇な時には、時間つぶしにいいかも?もう一つある佐倉の美術館と絡めていくと効率がいいです。

あと、この地獄絵図と関連して忘れてはいけないのが映画「ドクラマグラ」。カルト界の中ではこれ忘れたらモグリでしょう。言わずと知れた夢野久作氏の最高傑作。映画も好きだけど、小説がそれ以上に傑作。紛れもない日本で一番の最高傑作と私は崇め祀っておりますが・・・。この中にも、先ほどの「人道九不浄相之図」が出てきます。しかもこの小説の核となる部分で重要な役割を果たしたりします。う~小説についても感想書きたいけど、とてもじゃないが、ここでは収まりきらないから、断念。とにかく、小説好きでこれ読んでないのは、不幸でしょう。昭和初期なのに、時代を経てもその価値が益々増しているなんてまさに傑作中の傑作でしょう。もっとも読んだ人はしばらく、自分の頭に信頼が置けなくなってしまうかもしれませんが・・・。

図説 地獄絵をよむふくろうの本(amazonリンク)
ドグラ・マグラ現代教養文庫(amazonリンク)
ラベル:地獄 アート 書評
posted by alice-room at 14:10| 埼玉 ☁| Comment(6) | TrackBack(0) | 【書評 美術】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは。
河出書房って結構いい本出してて好きです。
(澁澤龍彦はあまり好きじゃないけど。)
私は割と寺やらなんやらを巡る機会が多くて、地獄絵図系は嫌って程見ました。曼荼羅とかね。上品だの中品だの下品だの。
やっぱ生で見ると迫力ありますよ。
ほんとに地獄に行ったことあるんじゃないの?って鬼気迫る作品も多いです。
私は曼荼羅とか、彫刻の方が好きですけど(仏教美術では)。
Posted by 雨宮 at 2005年04月16日 03:06
私は雑食性なのか、なんでも好きかも?(節操が無いんですよ~苦笑)。京都や奈良の寺巡りはいいですよね。今年は桜観に行けなかったですが・・・残念。

宿坊とかにも時々泊まりますよ~、安いし何よりも雰囲気がいいので。京都だったら妙心寺。坪庭みたいなのもあって、なかなか素敵です。東北だったら毛通寺だったかな?

話がそれてますね、すみません。本題に戻って地獄絵ってなんか本当に迫力があって好きです。実際に、路傍に飢餓による死者が転がっていた時代ですし、まさに現実の映し絵だったのかもしれませんね。リアルさが違いますもの。

雨宮さんは彫刻系がお好きですか?私だと奈良の瑠璃寺or岩船寺(?)の吉祥天が大好きです。柔和な笑みが、心惹かれてしまいますねぇ~。
Posted by alice-room at 2005年04月16日 18:26
ブログじゃないけれど、詳細な地獄紹介のホームページがありましたよ。とてもじゃないけれど、1ペーじしか読めませんでした。

夜の闇で地獄説法聞かされる子供がかわいそうだけど、仕方ないか。
Posted by 湖南 at 2005年04月22日 22:41
湖南さん、こんばんは。なんか見てみたいようなホームページですね。どこだろう?

確かに子供は怖いでしょうね!私なんかはすっごい怖がりなのに、子供の頃から怪談とか怖い話好きでいつも夜は震えていましたから・・・(苦笑)。
Posted by alice-room at 2005年04月23日 00:41
その地獄絵を幼い頃から
地蔵盆で見て 育ってきた本人ですが(゚_゚i)タラー・
京都はそういう行事がまだまだ健在ですよ^^

記事も面白く、また実家へ あの絵を見に行こうと思いました。
きっと8月の末・・・・
大人になった今、どんな思いで見るのでしょうか?
Posted by ほたる at 2007年07月26日 02:40
ほたるさん、こんばんは。まさにその絵を見て育った生き証人ですね。羨ましい・・・(羨ましがるのが、正常な反応なのか疑問ですが?)。

奈良や京都って、おっしゃられるようにその手の行事多いですよねぇ~。私は旅行者として行ってるだけですが、それでも興味深いです。今年はいけるかな?

大人になってみると、ほんとどんな感じでしょう? 自分の記憶との比較も面白そうですね。コメント有り難うございました。
Posted by alice-room at 2007年07月26日 22:38
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック