2012年12月02日

「ルネサンスの神秘思想」伊藤博明 講談社

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ちょっと前に読んだ「哲学の歴史4」(中央公論社)がちょうどルネサンス期の哲学を扱っていて、非常に目から鱗で新鮮な驚きを覚えたので、同じルネサンス期の思想(哲学)を扱った類書ということで本書を読んでみました。

なお、本作の著者はまさに前回読んだ「哲学の歴史4」の編集責任者だったらしい・・・・どうりで中身も似ているなあ~と思いながら、本書を選らんだ経緯もあったりする。

さて、ルネサンスなんですが12世紀ルネサンスを知り、中世に目覚めて以来、16世紀のイタリア・ルネサンスにはちょっと距離を置くようになっていました。

勿論、ボッティチェリやラファエロは今も大好きだし、今年の夏にフィレンツェ行ってラファエロの聖母を見てきたりしてる訳ですが、昔と違い、絶対的キリスト教的価値観からの解放・自由、既存の枠を超えた人間中心の文化隆盛、そ~んな煽り文句に踊らさせることもなくなって、いささか冷ややかに眺めている、といった風情でしょうか。

かつて、教科書に書かれたレベルの知識やイメージしかなく、浅はかだった自分を苦々しく思いながら、冷めた感じでしか、逆に取られられませんでした。

しかし、「哲学の歴史4」と本書を読んでその辺の別な意味で私の中に根を張った誤った理解を一掃することができました!

ルネサンスは中世とも、また古代とも密接に繋がりを持ち、むしろ時代を飛ばして直結している感さえあるほど、いにしえの連綿と続く伝統を引き継いでいることを知りました。

むしろ、時代を経る過程で失われ、薄められた古代的『叡智』が12世紀ルネサンスと同様に改めて受容され、それでいて別ルート経由でより進化(深化)していく様子は大変に面白いです。

図書館で借りて読了した本ですが、これは速攻で買って手元に保存しておく対象に入れました!(笑顔)

本書で学んだことを幾つか列挙してみましょう。

よくルネサンス絵画には異教的要素がふんだんに見出され、私もうのみにしていましたが、お馬鹿な説明だと宗教的束縛から自由になり、そういった反(?)キリスト教的要素さえも一切の制限を受けずに自由に描けるようになったから・・・とかありましたが、とんでもなかったりする!

本書を読んで、私などもようやく理解したのですが、異教的要素は反キリスト教的要素である認識で寛容的に受容されたのではなく、むしろ、あくまでもキリスト教的要素として積極的に評価され、その認識下で進んで表現されているという解釈は驚愕ですらありました。

古代<哲学(思想)>或いは古代の叡智は、キリスト教を知らなかった者達が一部の誤謬を含もうとも神の世界を認識できていた、として、古代の哲学者の言説をキリスト教的とするこの論理は、う~むと思わざるを得ません!

逆にお恥ずかしながら、何故、中世キリスト教の解釈で多神教のギリシアにおけるアリストテレスが出てくるのか? スコラ学って、キリスト教徒ではないアリストテレスの論理を肯定している訳?
何故、キリスト教の解釈でアリストテレスやプラトンが対抗したりするのか? ずっと漠然と不思議に思っていました。

論理的な思考方法だけを、便宜的に借用しているのかなあ~というレベルで勝手にその疑問というか違和感をごまかしていたのですが、本書を読んでその辺が初めてすっきりと腑におち、目が開いたような気がします。

古代の智者は、キリスト教以前でキリスト教を知らなかったとしても、神の世界を正確に知っていた。だからこその『智者』なんですけどね。

新約聖書は、旧約聖書に書かれた事物が形を変えて記述されたとする予型論と論理展開は同じですね、そういうふうに説明されると。まして、寓意的解釈を施すことでありとあらゆる記述は、キリスト教的理解に繋がるのならば異教的要素なんて、ドントコイです!!(笑)

そうそう『詩』も私が長年、違和感を覚えていたものの一つ。
絵画や文章等で神の世界や神の摂理を示唆するのは、分かるのですが、どうにも『詩』は抵抗感があったんですよねぇ~。しかし、詩人は、古代の智者同様、神の世界を知る者であり、その知る手段が感覚的であるという理解もすっごく新鮮に感じました。

これも本書で初めて私は理解しました。

他にも<哲学的平和>とか神の叡智は、元来、大衆には秘して伝えられるものとかね。
愚かなる大衆に悪用されることを防ぐためとか。

期せずして、うちのブログ名がそのまんまだったりするわ。
叡智について、書く事を禁じられたものを集める場所・・・・。

本書では、ヘルメス・トリスメギトスとかカバラとかも普通に説明されていくのでいやあ~正直、最初はびっくりしちゃいますね。えっ、神秘思想って確かにオカルトっぽいけど、まさにそちらのグノーシスとか出てくるとは思わなかったので。

ゾロアスターも出ちゃうしね。

そうそう、アリストテレス哲学によるキリスト教解釈が中心の中世において、プラトン哲学も部分部分では大いに取り入れられているという話のあとで、偽ディオニシオス・アレオパギテスの名前が何度も出てくるのもおお~っと一人で喜びながら読んでました。

新プラトン哲学の系譜での光の形而上学とかも出てくるし、その辺の流れでの絡みもなかなかに興味深い本です。

あとね、あとね、まさに今年初めていったシエナ大聖堂の床にあるレリーフ。
あのヘルメスが描かれているなんて、気付かなかった!!
見たのかもしれないけど、写真あるかなあ~。

次回行く時には、心して観たいと思います。

他にも本書で、関心をそそられる記述が多かったです。
是非とも手元に置いておきたい一冊かと。

ルネサンスについての印象が、本書でだいぶ変わりました!!
個人的にはお薦めですね♪

あと、本書の巻末の参考文献。ボリュームもさることながら、内容が非常に豊富でこれだけでも相当有用です。私も参考にして、他にも何冊か読みたい本を見つけました。
【目次】
プロローグ ジョヴァンニ・ダ・コレッジョ、あるいは<神々の再生>
第一部 <神々の再生>の歴史
 第一章 蘇るオリュンポス神――詩の復興
1ペトラルカとヒューマニズム
2ペトラルカのスコラ哲学批判
3ペトラルカにおける道徳哲学批判
4ムッサートと<詩的神学>
5ペトラルカによる詩の擁護
6ペトラルカによる寓意的解釈
7ボッカッチョの「異教の神々の系譜」
8サルターティの「ヘラクレスの功業について」
 第二章 異教哲学の再生
1ペトラルカとプラトン
2ペトラルカとアリストテレス
3十五世紀のプラトン復興
4市民的ヒューマニズムの勃興
5市民的ヒューマニズと異教哲学
6プレトンの異教主義
7プラトンとアリストテレスの対立
8プラトンとアリストテレスの融和
 第三章 プラトン主義とキリスト教
1フィチーノとプラトン・アカデミー
2フィチーノの宗教理念
3キリスト教と<古代神学>
4キリスト教とプラトン主義的伝統
5天上のウェヌスと世俗のウェヌス
6天上的愛と世俗的愛
7フィチーノにおける神的愛
8フィチーノと中世的伝統
9<プラトン的愛>
10ボッティチェリの神話画
11《春(プリマヴェーラ)》
12《ウェヌスの誕生》
 第四章 <哲学的平和>の夢
1ピーコ・デッラ・ミランドラの知的遍歴
2プラトン・アカデミーの人間論
3ピーコの「人間の尊厳についての演説」
4ピーコにおける修辞学の哲学
5ピーコの<哲学的平和>
6ピーコにおけるプラトンとアリストレス
7ピーコと<詩的神学>
8ピーコにおける神的愛
9ラファエッロの《アテナイの学堂》
10エジディオ・ヴィテルボと<哲学的平和>

第二部 <神々の再生>の諸相
 第五章 エジプトの誘惑
1ヘルメス・トリスメギトスの復活
2<魔術師>ヘルメス
3<神学者>ヘルメス
4<哲学者>ヘルメス
5シエナ大聖堂のヘルメス像
6ジョヴァンニ・ダ・コレッジョとラザレッリ
7ラザレッチのヘルメス主義
8ホラボッロとヒエログリフ
9ヒエログリフの流布
10教皇庁のエジプト神話
 第六章 <古代神学>と魔術
1プラトン主義者と<古代神学>
2ゾロアスターと「カルデア人の託宣」
3<神学者>ゾロアスター
4<マグス>ゾロアスター
5ゾロアスターの魔術
6オルフェウスの神話
7オルフェウスと<神的狂気>
8オルフェウスと<詩的神学>
9オルフェウスの魔術
10<神学者>ビュタゴラス
11ピュタゴラスの教説
 第七章 占星術と宮廷芸術
1サン・ロテンツォ聖堂のホロスコープ
2占星術の復興
3宿命占星術とホロスコープ
4プラトンのホロスコープ
5フィチーノと占星術
6ピーコ・デラ・ミランドラの占星術批判
7リミニの占星術装飾
8<惑星の子どもたち>―スキファノイア宮Ⅰ
9デカンの神々―スキファノイア宮Ⅱ
10教皇庁の占星術
 第八章 カバラの秘儀
1ピーコと<隠された秘儀>
2カバラの起源と教説
3ピーコとカバラ
4カバラ・キリスト教・<古代神学>
5カバラと<ルルスの術>
6カバラと魔術
7フランチェスコ・ジョルジとカバラ
8エジディオ・ダ・ヴィテルボとカバラ
エピローグ ジャンフランチェスコ・ピーコ、あるいは<神々の黄昏>
ルネサンスの神秘思想 (講談社学術文庫)(amazonリンク)

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「パトロンたちのルネサンス」松本 典昭 日本放送出版協会
「十二世紀ルネサンス」伊東 俊太郎 講談社
「反哲学入門」木田元 新潮社
「中世思想原典集成 (3) 」上智大学中世思想研究所 平凡社
「西洋古代・中世哲学史」クラウス リーゼンフーバー 平凡社
「中世の哲学」今道友信 岩波書店
posted by alice-room at 21:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 歴史B】 | 更新情報をチェックする
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