
amazonの商品説明にも書かれていますが、あの『トマス・アクィナス』を弟子に持ち、中世でも有数の碩学であったドミニコ僧のアルベルトゥス・マグヌスによる著作の翻訳です。
13世紀の中世において、科学と魔術の分化がなされていない頃の知識であり、たぶんに迷信が混交しているのは当然と言えば当然でしょう。あのニュートンが錬金術にはまっていたのは、これよりもだいぶ後の時代であることからも故無しかと。
しかも、マグヌスによる魔術書の類は有名であった彼の名を騙っている可能性も多々有り、どこまでが本人によるものかさえも明確ではないそうです。様々な異本もあるようですし・・・。それらを差っぴいて考慮しても、中世において広く知られたある種の『知識』(魔術であるのか?錬金術であるのか?迷信であるのかは問わず)であり、それを前提にして社会や文化が動いていた以上、知っておくべき事柄でしょう。
個々のハウツーの部分は、私にはどうでもいい感じがするのですが、それらを通じて理解できる当時の思考方法や社会慣習などが非常に興味深いです。ゴシック大聖堂の彫刻や手彩色写本の時祷書などに描かれる天体の運行と人体の関連など、人間の体がどれほど星の影響下にあると考えられていたのか、本書を読んで私は初めて納得がいったような気がします。
病気になった時の治療法でも、一定の天体の条件下で行わなければ無効とされる以上、人々は否が応でも天体と人体を結びつけて考える訳です。黄道12宮なんてその際たるもんです。現代の朝の番組でさえ、未だに星座占いとかを流していてそれを大勢の人が見ているのが私には不思議でなりませんが、その人達が魔術や迷信を笑っているのがより一層不可解でなりません。
神社仏閣で年始参りをして干支の縁起物やお守りを買う行為は、本書に書かれた数々の処方を真剣に行う人々の行為と本質的に差異はないようにさえ、感じられます。極論過ぎるかもしれませんが、何をされているか理解しないままただ医者の為すがままの(高度な)医療行為を受ける私達と中世人の置かれた立場に相違は無いかもしれません。
私的には、痩せるはずのない痩せ薬に大金を投じる人々の姿が重なってしまいました。
新年から、いささか皮相的な物の見方になってしまっては良くありませんが本書を読むことでゴシック彫刻やステンドグラスの意匠の内容理解に役立ちそうな気がします。フルカネリの「大聖堂の秘密」とかにも関連してきそうです。そういう意味合いで読む本かと。個々のおまじないを実践するようなオカルト本として読んでもねぇ~、意味無いかと。
そうそう翻訳者の立木鷹志氏、『媚薬の博物誌』という本もあります。以前、読んだことありますが、基本的にこういう本がお好きな方みたいです。
【目次】大アルベルトゥスの秘法―中世ヨーロッパの大魔術書(amazonリンク)
(第一の書)
人間の誕生、あるいは、人はいかにして生まれるか
胎児はいかにしてつくられるか―胎児に対する惑星の影響について
惑星の身体への影響について
下等動物はどのように生まれるか
出産について
自然界の奇形について
胎児が男か女かを知るための徴候について
(第二の書)
さまざまな植物の効力について
さまざまな石の効力について
さまざまな動物の効力について
(第三の書)
自然の驚くべき秘密について
いろいろな糞の効力と特質について
さまざまな鉱物の秘密について
(第四の書)
身体の部分的差異による人相学概論
吉日と凶日
悪性熱病の治療法-悪性熱病の特質について
(編訳者解題)
魔術の復権
魔術書「大アルベルトゥスの秘法」について
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