
数年前に友人に教えられ、まずは映像で観た。
その時の衝撃は忘れられない。
近所の図書館で物色中、見つけたので早速借り出して読んでみた。
日曜の夜に読み始めたら、読了まで眠れずに翌日大変なことになった。
でも、時間が経って本で読んでも、やっぱり胸にくるものがある。
そうそう、本書を読む前にまずは映像で、動画でこのNHKスペシャルを観る事を強くお薦めする。
基本、観てから、その背景も含めて読む2次的な内容であることには間違いない。
本書の特徴としては、映像化される前の取材に関する背景的事情、制作スタッフ側の苦労と問題意識、諸事情をいろいろと描いており、そこが一番、映像とは異なっている。
実際、日本でこれだけの取材を出来たのは、製作スタッフの熱意もさることながら、やっぱりNHKだからという気がする。日本の民放では、100年経っても作れないだろう・・・・。
取材にかける予算・時間・人員、スポンサー等々、それ以前に優秀なリサーチャーを抱え、世界中から情報を集め、取材できるネットワーク情報網・ノウハウ、無理なんじゃないかなあ~と心底思った。
本書読んでいて。
BBCではなく、NHKが作ってくれて正直嬉しいです。
(福島原発のニュースでは、未だにBBCの方がはるかに質の高いもの作ってましたけどね。)
久しぶりに読んで思ったのですが、制作スタッフが狙った意図の通り、多かれ少なかれ組織に属する人にとっては、他人事ではなかったりする。
憲法を学んだ時に、教わったが、民主主義ってのは全体が100あれば、51を抑えれば、全体を支配できるが、その51のうち26を抑えても同じで、更にその26のうち14を抑えればOK。
14のうち8を、8のうち5を、5のうち3を抑えれば、3のうち2を抑えれば全体を代表したといえてしまう論理だったりする。
100のうちの2が100を代表するってのは、おかしいと思うかもしれないが、組織の存在がある限り、個々人が自由に振舞えない以上、少数による全体意思の支配ってのが、民主主義のある側面だったりする。
本書で描かれる海軍という組織は、まさに海軍中のエリート、軍令部のごく一部の作戦課によって、海軍が、政府が、国家が引っ張られていく姿が描き出される。
私が昔いたベンチャーでも社長とうちの上司と私の3人だけで、決めた企画や経営戦略を役員会議で事後的に承諾して、部署長会議で発表。各部署巻き込んで、会社全体で推進するんですが・・・・。
物の見事に、組織としてやってることは超・小型版ですが、一緒ですね。
組織変わっても、本当によくあることです。
去年、業務上の問題点を指摘し、改善提案(予算が必要)したら、会社批判するなとおえらいさんから、言われたことを思い出しますわ。私、中途で出世意欲もそれほどないので別に「あ~あ」と思っただけですが(その時の上司の反応には呆れましたが)、きちんとした生え抜きの方だったら、それ言われたら終りのような気がします。
まして、階級が絶対の超エリート組織中のエリートの方達でしたら。
また、頭の回転の速い人ほど、そういうのは事前に空気も読んで、やらないからね。
堺屋太一氏の「組織の盛衰」を思い出しました。
組織は、組織それ自体の自己拡大こそが、存在目的になってしまう・・・・そういやあ~、あそこに上がってた例が軍隊だったっけ?
さて、本書を読んでていて思ったのはそもそもの「反省会」の存在。
結果的に日本という国家を破滅させた責任の一端を免れることはないにしても、やっぱりエリートだったんだと思う。
人の評価を失敗するかしないかで捉えるのも一つだが、失敗を真摯に受けとめ、それをフィードバックすることで同じ失敗をしないように改善していくその姿勢こそを評価するというのも一つの方法ではある。
少し前に流行った「失敗学」ではないが、起こったことは起こったことであるが、貴重な経験を生かさないでは、これから『斜陽』をむかえた日本という国家の先は苦しいことになるような気がしてならない。
自民党の怠慢を諌めようとして、民主党を選んだものの、民主党の暴走を抑制できず、国富の浪費を促進しただけで、最も貴重な『時間』を失いつつある日本。
組織そのものの内部論理を優先させ、マーケットの論理に外れた日本企業が淘汰されている姿は、決して人ごとではないだろう。
本書の中で、組織存続・拡大の為、『聖域』(=皇族の権威)を作り、それを利用して本来あるべき正しい姿を捻じ曲げていく過程(=法律の改正、組織権限の拡大等)が丹念に説明されているが、どんな組織であれ、同じだろう。
かのローマ帝国は、歴史上、何度も敵に敗れている。
国土を蛮族に荒らされて、何度の存廃の危機に瀕している。
ただ、かのローマ帝国は、負けた後、徹底的に敵に学び、学習し、それを乗り越える為の不断の努力を続けたことこそが、どの国家よりも非凡であったらしい。
植民地出身の元老院貴族やさらには皇帝まで生み出した、あの国家に学ぶ事は未だに多いだろう。
奇襲か否かは別にして、真珠湾攻撃で打撃を受けた後、航空機戦へと大規模な戦略シフトを行ったアメリカ、日米通商摩擦なんて言って日本企業がわが世の春を謳歌していた頃、日本的生産方式を地道に解析し、システム化して採用(=Toyota's way)していったアメリカ企業。
最近だと、合法・非合法問わず、貪欲に技術を習得し、生産技術の高度化に邁進する韓国・中国企業等。
さて、日本は何に学び、何を学んでいくのだろうか?
改めて考えさせられる本です。
そういやあ~、戦後の東京裁判の件。
まさに国際政治の縮図ですね。
それぞれの思惑があり、国家的利害や組織的利害の錯綜する中、歴史は作られていく。
真実は、人の数ほどの真実があり、歴史は、その真実のどれか一つを暫定的に代表したものに過ぎない。
歴史は、容易く覆るのも道理な訳です。
自分は自分として、納得できる人生を生きていくしかないのだろうと思いました。
それが他人にどう映るのかは、また別な話ですし・・・。
いろいろと感慨深かったです。
映像を観た後に、読んでもよいかと思います。
【目次】日本海軍400時間の証言―軍令部・参謀たちが語った敗戦(amazonリンク)
プロローグ――藤木達弘
「日本海軍400時間の証言」のスタート/海軍という組織と現代日本の組織/引き継いだ歴史への責任/「胸のつかえ」/命じた側と命じられた側/制作した我々の責任
第一章 超一級資料との出会い――右田千代
海軍反省会テープ/進まぬ取材/平塚元少佐の決断/さらなるテープ発見の「奇跡」/なぜ我々は日本を崩壊させたか
第二章 開戦 海軍あって国家なし――横井秀信
秘密の資料/重いリスト/率直な声/証人たちの横顔/第一回海軍反省会/初めて明かされた、開戦の驚くべき内幕/軍令部暴走の原点/老将の決意/軍令部の「謀略」/昭和天皇の憂慮/開戦のシナリオ?/第一委員会の闇/永野軍令部総長の変節/第一委員会の政治将校/足踏み/もう一つの「肉声」/「戦争決意」の真実/背信の軍令部/破綻の足音/未決の開戦責任
第三章 特攻 やましき沈黙――右田千代
「特攻」というテーマへの思い/番組共通の「巻頭言」/第十一回反省会/発言者は誰か/鳥巣元中佐と「回天」作戦/中澤元中将の講演テープ/最後の最後に語られた「特攻」/緊迫の質疑応答/戦後世代として、戦争指導者にどう向き合うか/海軍が生み出した特攻兵器/第二十回反省会と二人の軍令部部長/昭和十九年の戦況/反省会メンバーの素顔に触れる/第四十二回反省会と特攻兵器開発の内幕/幹部の沈黙の意味/源田元大佐が起案した電報/特攻の“戦果”の実態/第九十四回反省会での「特攻隊員の反撃」/「罪責の思い」――現代の問題、自分の問題として/反省会で語られていた「自責の念」/一人の仲間の命の重さ/幹部が作った「想定問答集」/「やましき沈黙」という言葉/鳥巣元中佐の戦後/「特攻隊員」と「涙が見えなくても伝わるもの」/神風特別攻撃隊・角田和男氏/特攻隊員の遺書/ラストコメント
第四章 特攻 それぞれの戦後――吉田好克
取材班への参加/回天烈士追悼式/飛行兵がいきなり海へ/毎日死ぬことに「邁進」/壮絶な「出撃」の体験/軍令部・中澤元中将の「業務日誌」/「変人」参謀・黒島亀人/黒島元少将の「戦後」を追って/残されていた直筆ノート/源田元大佐の戦後/中澤元中将の戦後/家族が明かした元中将の「内心」/現場の幹部が負わされた「責任」/回天元搭乗員の慟哭
第五章 戦犯裁判 第二の戦争――内山拓
番組との出会い/語られた海軍の“戦争責任”~豊田元大佐の告白/“海軍善玉”イメージを決定づけた東京裁判/組織的に練られた戦犯裁判対策/二復が重要視した海軍トップの免責/知られざる攻防・潜水艦事件/戦犯裁判への「指導」とは?~徹底した口裏合わせ工作/組織的に実施された証拠の隠滅/語られるBC級裁判の実態/スラバヤ事件とは何なのか/BC級戦犯の無念を追って/処刑現場に居合わせた元兵士の証言/消えた法務官を追う/事件の真相を示唆する元法務中尉の証言/豪州人捕虜遺族の沈痛に触れて/「上を守って下を切る」/なぜ戦争犯罪が多発したのか/大井元大佐が言及したサンソウ島事件/現地取材から見えてきた海軍支配の実態/実態窺わせる日本側資料『三ソウ島特報』/大切な仲間が遺してくれた重い問いかけ/事件を遺族に伝える苦悩/裁判対策の本質は天皇の戦争責任回避/海軍最高幹部とアメリカ軍高官の蜜月/遺された数千点の戦犯裁判記録/恩師・笹本征男の遺した言葉
エピローグ――小貫武
NHKスペシャル 日本海軍 400時間の証言 DVD-BOX(amazonリンク)
ブログ内関連記事
「失敗学のすすめ」畑村洋太郎 講談社
「最終戦争論・戦争史大観」石原 莞爾 中公文庫
「ガリア戦記」カエサル 講談社
「帝国陸軍の<改革と抵抗>」 黒野耐 講談社
「戦術と指揮」松村 劭 PHP研究所
「The Toyota Way」Jeffrey Liker McGraw-Hill