2007年01月16日

「情報と国家」江畑 謙介 講談社

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湾岸戦争時、NHKで軍事評論家として頻繁に出演して一躍知名度が上がった江畑氏の本です。江畑氏はあの有名なイギリスの軍事専門誌「ジェーン」の日本通信員。書かれたのは2004年で少々古いのですが、それが逆に現在のイラクの状況を踏まえて読むと実に的確な指摘がなされていて説得力が増しています。

具体例として湾岸戦争やイラク戦争、北朝鮮による弾道ミサイルなどを採り上げつつ、「情報」という言葉が一人歩きし、世界を混迷に陥れている姿を淡々と客観性を保ちつつ説明しています。

単なるデータに、価値評価を含めて初めて「情報」(=インテリジェンス)となる点など基本と言えば、あまりにも基本なのですが、特に日本(のメディア関係)においてはその点について注意力の欠如が著しく、そのメディアの情報をそのままうのみにして信じてしまう人々など、かなりヤバイことを指摘しています。

私なんて懐疑的過ぎるかもしれませんが、新聞やTVのニュースなんて6割から7割程度しか事実ではないと思っているし、興味があれば自分で可能な限り複数のソースから調べるタイプですから、著者の主張を全面的に肯定しちゃいます! 
(折に触れてブログ内でもその手のこと触れてますが、ダ・ヴィンチ・コードだって、本当かよ?っていうところからこのブログが始まっていたりします)

情報自体が内包する問題点やその情報を扱う機関が『人』であることから必然的に避けられない問題点など、あえて国家に限定せずとも企業でもこの手の情報にまつわる話は無数にあります。人は常に自分にとって聞こえのいい事しか聞かないので、どんなに優れた情報機関であってもそれを生かせずに情報戦略で失敗する事例などは、本当に枚挙に暇がありません。本書はそれを実に分かり易く説明してくれています。

私の卑近な例でも、経営資料となる情報を役員や社長に渡す時ほど怖いことはありません。なぜなら、彼らは自分にとって都合のいい数字しか見ないうえに、自らが主導しているプロジェクトのせいで売上の一部の指標が落ちた時などそれをもっともらしく説明する理由を探そうとするのですから。

更に怖い点としては、確かに何らかの改革や変更は一時的に数字を落とすが、将来的に飛躍する為の準備である場合もあり、数字の下落は一概にプロジェクトの失敗なのか、それとも将来の為の投資の忍耐の時期なのか、表面的にはどちらにもとれるのです。

ここで数字を読み間違えると、中長期的な経営戦略の失敗につながります。失敗は常に誰かの責任で評価下落であると共に、競合者の相対的評価向上にもなります。それを私が出した経営指標の短絡的理解で行われてしまうのは、危険過ぎるのです。そしてそれ以上に怖いのが、一時的に数字が良くなったことを季節の変動要因や他の環境要因ではなく、プロジェクトの成果のみに帰してしまい、更に膨大な資金や人材など経営資源を投入する決定をしてしまうなどまさにワンマン経営にはありがちなことだったりします。

また、それ以前の段階で数字は実績数字だけではなく、普通は不確定要素を含めて予測数字であることがしばしばあります。パラメータの設定を一つ変えるだけで予測数字なんていくらでも変わってしまうのです。しかもそれが、世代を超えていくモデルだと誤差が無限大に拡大します。こういった経営指標を読みこなす場合も常に複数のソースから、情報の整合性を判断したり、いわゆる『常識的』判断を加味したりすることでリスクはぐっと減るのですが、その辺りのことも本書では、表現は異なるもののより具体的に触れられています。

このように『情報』全般の基礎的な常識と、実際の戦争報道などにおける具体例の解説と説明がなされています。あくまでも基本ベースの話なのですが、実に分かり易いし、これまで漠然と聞いていたマスコミ報道から何が分かり、何が分からないかを明確にしてくれます。

感情論だけで無知蒙昧の罵声飛び交う討論もどきを本当の議論と勘違いされている方には是非、無償提供してもいいので読んで欲しいものです。もっとも本書を読むような方に限って、読む前から既にほとんどを知っているような理性的な人だったりするんでしょうけどね。

肯定派も否定派も含めて、まずは最低限の知識の土台くらいは本書レベルで統一してから討論して欲しいなあ~と強く願うこの頃です。政治・外交の話だけではなく、企業レベルの情報の取り扱いでも絶対に役立つと思いますよ~。

本書の内容項目にデータ・マイニングなども書かれていますが、実はこれ私の元々の本業だったんでそういう意味でも実に身近に感じました。情報を生かし切れていない会社って無数にあるもんね。久しぶりに理論書を読みたくなりました(笑顔)。

少しでも目次を見て関心を持った方、絶対に読んで損はない一冊です!!

<余談>
国家公務員でどこぞのヨーロッパの小国に赴任した友人いわく、仕事なんてその国の新聞や雑誌等の公刊ものからの切抜きとラジオやTVのチェックとか退屈極まりないと言っていたが、本書でも8~9割の情報は公刊ものから得られると書かれていてそれが妙に符合していて1人で納得してしまった。

ラヂオプレスの件。つい最近、日経新聞の記事で初めてその存在を知ったのだが、その奇妙な活動内容について記事内でいろいろと書かれていた。ほお~諜報活動の一歩手前かと思っていたら、本当にそんなんですね。実に勉強になりました(笑)。

他にも私にはどこかで聞いたことのある話が多く、本書の内容についてはふむふむとうなずいてしまうことが多々ありました。
【目次】
第一章 氾濫する情報の落とし穴
「情報」という言葉の落とし穴/共産圏公刊情報のモニター/ラヂオプレスの役割/情報革命とインタネット/武装勢力もインタネットを活用/公刊情報と公刊インテリジェンス/公開情報利用の制限/エシェロン/産業スパイの巣窟とされた航空ショー/イメージ・インテリジェンス=商業高分解能画像衛星の実用化/シャッター・コントロール/衛星写真の立体映像化/マルチ・インテリジェンスと政府情報活動/情報収集戦略/ネットワークを使った産業スパイ/民間分野でも役に立つ軍と政府の情報手法/政府と民間企業の協力関係/データ・マイニングとデータ・ウェアハウス/技術的情報収集手段の限界/情報ノイズと分析における人間的要素/分析評価の落とし穴

第二章 情報収集・分析・評価の落とし穴
世界が疑わなかったイラクの生物・化学兵器保有/落とし穴に落ちた米英の情報機関/イラクの大量破壊兵器を巡る危機感の相違/米政権に同調という戦略が先にあったイギリス/石油の安定確保を望んだアメリカ/パトロール飛行、パレスチナ問題/技術手段に頼った米国のイラク大量核兵器査察/証拠とならない衛星写真/「出した者勝ち」の映像情報/確定的なものはなかった通信傍受情報/亡命イラク人に踊らされた米国情報機関/職を賭してまでは異議を唱えない/米英政権には他に方法がなかった?/倒されると思っていなかったフセイン政権/米軍の首都接近を信じなかった共和国防衛隊/不信感から創られた親衛隊/フセイン大統領は「裸の王様」だった?/フセイン政権と似ている金正日政権/平壌が自分をどう評価しているかが分からない

第三章 情報の落とし穴に落ちない為に
米英からの情報をそのまま信じたデンマーク/情報小国が「だまされない」ためには/北朝鮮弾道ミサイル保有の意図と命中精度/北朝鮮の弾道ミサイルと核弾頭/日本海に試射されたノドンⅠの真偽/基本常識からの情報評価すら行わなかった日本/全米科学者連盟によるノドンの推測/パキスタンとイランのミサイル発射で得られたノドンの手がかり/ノドン配備数の「常識的」な数字/数えられないはずのノドンの数/台湾を狙った中国のミサイル配備数/北朝鮮の新型ミサイル情報/「新型中距離弾道ミサイル」がありそうかの考察/北朝鮮地下施設「想像図」の考証/北朝鮮のトンネル施設が実証された時/一般常識を基にする/それでも常識外の事は起こる
情報と国家―収集・分析・評価の落とし穴(amazonリンク)
本書の内容が目次を見たらすぐ分かるように、できるだけ細かい目次まで載せました。


ラベル:情報 書評 戦争
posted by alice-room at 19:01| 埼玉 ☀| Comment(2) | TrackBack(1) | 【書評 宗教A】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
alice-room様、

私のサイトへのTBありがとうございました。
これ、いい本ですよね! 私も昨年読んだ本の中で最上位に位置する1冊です。江畑さんはすごくまじめなかただそうですが、そのまじめさがよく現れた本だと思います。

 さて、alice-roomさんはすごい量の本を読んでいらっしゃいますね。故阿部謹也氏の「ハーメルンの笛吹き男」は私も名著だと思います。脱線しますが、浦沢直樹の「MASTERキートン」というマンガにもこの「ハーメルンの笛吹き男」を題材にした回がありました。おもしろかったですよ。

 これからもどうぞよろしくお願いいたします。
Posted by zxcvaq at 2007年01月22日 23:54
zxcvaqさん、こちらこそご丁寧に有り難うございます。本当にこの本は、勉強になりました。いろいろな方に読んでもらいたい本だとも思いました。

阿部先生がお亡くなりになられたのは本当に残念でしたが、笛吹き男は実に興味深くて面白い本でした。MASTERキートンは少しだけ見たことがありますが、そこで扱われていたことは知りませんでした。今度、機会があれば探して読んでみたいと思います。情報有り難うございました。

こちらこそ、これからも宜しくお願いします。
Posted by alice-room at 2007年01月23日 21:34
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