
最近、この手のは予想を裏切られるヒドイものが多かったので期待外れをいささか警戒しながらの読書でしたが、これはいい意味で裏切ってくれました。まず満足のいく小説でした。正統派の推理物でとっても洗練された感じの謎解きでしょうか、上品な一品とでもいうような趣きですね。しっかりしたプロットの下で、登場人物のキャラクターがしっかり設定され、描かれ、実在感のある感じ。実にうまい(芸達者な)作家の手になる作品と言えばいいかな。それでいて嫌味にならず、さりげなく自然にストーリーが進んでいく。最近、あまり見なくなった本格的な推理物です。
ダ・ヴィンチが探偵役っていうことで、読む前から正直安易な役柄を想像して駄目かなあ~って心配していたんですが、どうして&どうして。このダ・ヴィンチがなかなかのくせもの。一癖も二癖もあって、世間に迎合しない様はまさに私がイメージするダ・ヴィンチでしたし、「美貌の」とか「生まれた境遇」とかは別の本で史実だと知っていたのでこういうふうに描いているんだと逆に信頼が置けたうえ、頭のキレも鋭く、なかなかの探偵役でした。何よりも人や事物の捉え方について、ある種の哲学を有していた人物を描き出していて興味深いです。チェチリアもいい味出してるかも?勿論、音楽の守護聖人の名前を使っているだけあり、少しだけ音楽にも関連してますよ~。ダ・ヴィンチがこのチェチリアの音楽教師(マエストロ)っていう役柄でもあるし。
粗筋はというと、
沼の館と呼ばれる建物の中でその主、高名な建築家の遺体が発見される。しかし、彼の死体は運搬がおよそ困難な場所で発見される。死体発見の直前に天使を見かけたものさえいる他、彼は真贋の定かならぬ聖人マルコの聖遺物として香炉を所有していた。彼の死は奇跡によるものなのか、人の手による殺人なのか? 聖遺物を巡り、聖職者達の駆け引きに政治的な思惑も重なり、混迷を深める中、ダ・ヴィンチがその解決に関わるというお話です。
聖遺物についての扱い、というよりもそれを取り巻く人間模様や社会情勢の描写も的確でそういう些細なところも好感が持てます。聖母子像が煙に浮かんでくる香炉なんて、あったら欲しいですもんね。まさに、信者やお金も(名誉さえも)聖遺物さまさまですから。
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また何よりも推理小説としての謎解きがしっかり出来ていて嬉しいです。ほほう~って感じで納得いきますし、最後の最後でその出来事の真の意味が分かるのも王道ですね。ちゃんとした推理物を読みたい方にはいいと思いました。