2007年02月04日

「聖母マリアの系譜」内藤 道雄 八坂書房

率直に言おう。本書はなんら明確な目的や意図を持たず、単に著者の私的好奇心の趣くままに「聖母マリア」というキーワードだけを唯一の契機にして書き連ねたメモであり、私にはそれ以上の価値も見出せない本である。

と同時に、膨大な内容があるものの著者自身が書かれているように、あえて個別の文献名や引用先を示さないと方針の為、資料として利用するにも甚だ不向きであり、実用性は著しく低いものとなっている。端的に言うと、いろいろ書いてあるけど使えな~い! まあ、2ちゃんねるのカキコみたいなものだ(←大変失礼な物言いではあるが・・・)。

もっとも著者が上記のような方針を採る理由として、個々の文献には著者が納得できるところと納得できないところがあり、納得のいく部分だけを本書で採り上げたので、文献全体を肯定できないからという。確かにもっとも主張ではあるが、著者が納得しても読者が納得できるかは全く意図しておらず、また、それを他の文献資料と比較することも確認もできず、やっぱり著者の一人よがりな『メモ』というしかない。こんな本を読まされる読者は大いに不幸だろう。私がその一人だが・・・。

本書の内容ついていうと、どっかで聞いたことやどっかで読んだ事柄を本当にただメモしただけの粋を出ていなかったりする。それらを基にして、仮説を押し進めていくようなところもほとんどなく、良く言っても引用集程度。但し、その一次資料が判別できないのだから、もはや論外なのだが。(本書の中でイアン・ベックの名が挙がっていたが、まさに彼の書く本と同じで使えない)

巻末の文献欄には、非常に多くの書名が踊っている。実際、私のそのうちのかなりの部分を読んでいたことに気付いたが、不可解でしょうがないことがある? 何故、もう少しテーマの方向性を絞って論じていかないだろうか? マリア神学だけに絞るとか、伝承の中のマリア像だけに絞るとか、方法はいくつもあったろうに場当たり的に羅列しただけの観がぬぐえず、読んでいるのも辛かった。

データ量は多いが、それに対して付加価値を加えた情報量は決して多くない。本書を読むよりも、自分で時間や手間はかかるが類書を丹念読む進める方がはるかに実りが多いように感じた。どの章も中途半端で尻切れトンボで終わっている。
【目次】
第1章 新約聖書のマリア
第2章 受胎告知図の背景
第3章 マリアから悪魔、魔女、聖女までの距離
第4章 中世受難劇のマリア
第5章 巡礼地のマリア
第6章 マリアの母アンナの家系
第7章 黒マリア崇拝の謎
聖母マリアの系譜(amazonリンク)

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ラベル:聖母 書評
posted by alice-room at 15:35| 埼玉 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 【書評 宗教A】 | 更新情報をチェックする
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