2007年02月23日

「悪魔のピクニック」タラス グレスコー 早川書房

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世界中で禁止されている食べ物や飲み物などを求めて旅をするお話。具体的には{イェベレント、クラッカー、エポワス(チーズ)、クリアディリャス(内臓)、コイーバ(葉巻)、アブサン(お酒)、ショコラ・ムース、コカ茶、ペントバルビタール・ナトリウム}が採り上げられている。

勿論、中毒性や習慣性など禁止には各国毎にそれなりの理由があるのだが、どこの国も一緒で本当に有害であったり、問題があったりするかは二の次で、合理的に考えると禁止自体が不要ではないか?というものもある。著者は冷静にそういった問題点を指摘しつつ、あえて禁止されているその国で禁断の『ブツ』(食べ物や飲み物)を探すことを試みる。

積極果敢に挑戦するその姿勢は、この一面を見る限りでは有意義であり、土地の人に混じってそれを試すのは、現地に溶け込んでいる感じで好ましいのだが・・・。

著者は国家や官僚がどこの国においても、名目的な規制ばかりをしていることを実体験を通じて批判し、それなりに説得力のある証拠も示している。ここまでは良い!

ただ、この著者って性格悪いなあ~と思うのは、わざわざ禁止されているものを持って、その国の警察とかに見せびらかすこと。外国人だからと現地の警察が見逃すのを(恐らく分かったうえで)喜々として違反行為を演じる姿には、嫌悪感を覚える。禁止されていない国があるんだから、だったらそこでそれを楽しめばいいだけなのに・・・。

どこの人でも時々、誤解している人がいるのだが、どう考えても悪法と思われる『法』でもそれは作る立場の人に責任があり、法を執行する現場の人の責に帰すべき事由ではない。どっかの国の法務大臣が法を執行すべき職無にも関わらず、死刑を執行しなかった馬鹿者もいたが、逆にこれこそ問題であろう。「悪法」もまた「法」なのだから(個人的には、実定法主義の立場だったりする)。

それはともかく、著者のようにわざわざ問題を起こそうとする姿勢は嫌いだ。本書には、そういうひねくれ者が喜びそうな部分が多々あり、全体としては否定的な感想しかないが、惜しいところがある。

私は関心がありつつもこれまで、よく分からなかった「アブサン」についての説明がとても詳しい。ちなみに、いわゆる最近のお子様向けの偽物アブサンではなく、廃人になっていくあの頃のアブサンの話である。

どうせなら、私もアブサン中毒にでもなって消えていくのも良いかなあ~、心密かに願っていたこともあったので実にこの部分は興味深かった。

まあ、以前は世界中でドラッグを求めてひたすら旅する人の本も読んだことがあるが、それと比べるとたいした毒気はない。著者はあくまでも薄っぺらな好奇心で行動しているので、情熱もかなり軽い。もっともそれが本書のウリなのかもしれないが・・・。

ちなみに以前読んだドラッグの本は、ひたすらハイになりたい。未知のものを試したいというシンプル且つ溢れんばかりの情熱の本で、私はドラッグ自体には興味ないが、その本はとても面白かった!本書にもそういったものを期待していたのだが、残念ながらミーハーなものしかなかった。

悪魔のピクニック―世界中の「禁断の果実」を食べ歩く(amazonリンク)

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ラベル:書評
posted by alice-room at 01:50| 埼玉 🌁| Comment(2) | TrackBack(0) | 【書評 海外小説A】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
なるほど~。
法律も諸刃の剣。大岡裁きが私としては一番好ましいのですが。
そういうわけにはいきませんね。

ところでアブサン、文学好きには何というか特別な意味のあるお酒です。
>最近のお子様向けの偽者アブサン
こんなものがあるんですか?!
本家のアブサンもおととしくらいだったか、解禁になりました。
私は元々アブサンの原料であるアニスが嫌いなので、お酒自体を楽しめると思えませんけれど、アブサンの小瓶と独特のスプーンと角砂糖。
一セットで飾りたい気がします(笑)

それから何年も前にTVでフランスにあるアブサンクラブとかいうののレポートをみたことがあります。
どこかの村で自分のところで蒸留してました。
で、クラブのメンバーが三々五々集まってきてお試し~。
ご禁制品(笑)なのに、テレビで流してしまっていいのかなぁ、と驚いた思い出が!
Posted by OZ at 2007年02月23日 06:16
>ところでアブサン、文学好きには何というか特別な意味のあるお酒です。
ですよねぇ~、まさにデカダンスここに極まれり!って感じがします。

お子様向けの偽物アブサン:
すみません、誤解を招く表現でした。本来のアブサンとは入っている成分が違うものなのに、それをアブサンとして称して売っているという、本書の記述を受けて、「それじゃまがいもののお子様向きジャン」っていう私の捉え方で表現しちゃいました。本当に子供向けのアブサンがあるわけではないです。でも、あったら怖いですよねぇ~(ニヤリ)。

アブサンも自家消費用に自家製造って一応、お目こぼしされていたのかもしれませんね。日本も「どぶろく」は、建前上違法ですが、積極的に取り締まりしませんし、TVで放映されていたのもそういうものなのかもしれませんね。

>本家のアブサンもおととしくらいだったか、解禁になりました。
おおっ、そうなんですか。全然知りませんでした。実は私、本物を飲んだことがないんです。是非、グリーンの奴を角砂糖と一緒に味わいたいと思っていますが、日本でも普通に出しているのかな? 今度調べてみよっと!

先々週は、ロシア料理を食べながら普通にウォッカは飲んでましたが、アブサンも経験してみたいなあ~。明日はフレンチのビストロでランチだけど、変わったお酒はないのが残念!

Posted by alice-room at 2007年02月23日 19:30
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