2007年03月07日

プランタン=モレトゥス博物館展カタログ~メモ

印刷博物館で開催されたプランタン=モレトゥス博物館展のカタログ「印刷革命がはじまった:グーテンベルクからプランタンへ」を読んでいてビックリするような内容があったので早速メモ。
プランタンの生涯をめぐる謎として「愛の家族」(Huis der Liefde)という秘密結社の存在がある。恐らくは再洗礼派の流れを汲むであろう「愛の家族」はオランダの商人であるヘンリク・ニクラース(Henril Niclase)によって創始された宗教結社で、ニクラースは不寛容の時代にあって寛容の精神を説いた幻視的な神秘家であったようだ。「愛の家族」の運動は知識人や商人などのエリート集団によって担われていたが、参加者は表向きは既存の教会組織に所属しながら、ひそかな活動を行っていた。そこでプランタンが選び取ったのがカトリックであった。そして、カトリック王フェリペ2世公認の印刷・出版者としての地位を固めていたのである。

 出版史家エリザベス・アイゼンステインは、この間の事情を以下のように説明している。カトリックとプロテスタントの間で宗教戦争が闘われていた時代、独立の主体としての印刷業者たちは特定の教会あるいは国家と結びつきのない「第3勢力」をひそかに支持していたが、この第3勢力が近代初期の資本家の利益と結びついていた。さらには、商人印刷者の中には異端の教義を奉ずるものさえあったとして、クリストフ・プランタンをもっとも著名な例だとしている。

 そして、広範囲にわたる販売網と結びついた異端の事業家や印刷者のシンジケートが形成されたことから新しい精神が育まれたが、それは世界的な視野をもち、世界教会運動の立場に立つ寛容の精神でありながら世俗的でも懐疑的でもなく、必ずしもプロテスタントでもなかった、と述べている。

 さらに続けて、16世紀におけるこの新しい精神の擁護者の中で中心的な存在となったのは、アントワープのクリステフ・プランタンの印刷工房だった。ここでは、カトリックとの関係を維持しつつ、スペインのフェリペ2世の支持をとりつけながら、その一方でカルヴァン派の仕事も引き受けていた。プランタンのグループの中には、「愛の家族(愛の家)」と呼ばれる、組織の緩やかな秘密の異端一派と関わりをもっているものもいた。愛の家族のメンバーはおもてむき自分の住んでいる土地の宗教に従うよう勧められていたが、実はこの派の小冊子に書かれている神秘的な協議の忠実な信奉者だった。自分の工房からこの一派の文書を出版する一方で、プランタンはフェリペ2世に働きかけ、「代表印刷者」のお墨付きをもらった。これは北海沿岸低地帯全域の印刷業を監督し、この地の印刷者全員の能力と宗教の正当性をチェックする責任を負うものである。

プランタンはまた、フェリペ2世の顧問官で第1級の宮廷学者でもあったベニート・アリアス・モンターノの友情をも勝ち得た。モンターノはアントワープにおける『多言語対訳聖書』の仕事を監督するために、スペインから派遣されてきていたのだが、帰国後はフェリペ2世の新たな信頼を得る一方で、新しくできたオランダの友人グループとひそかに文通を続け、一時期スペインの書籍取引の通常パターンを変えてしまった人物である。プランタンのグループと「愛の家族」の物語は非常に興味深い。その理由の一つは、「著名な対抗宗教改革派の学者でもある優秀なカトリックの役人が、実際には、こともあろうにエスコリアル宮の地下深く破壊的な「細胞」を組織する仕事に携わっていたという事実が明らかになることで、妄想がかきたてられるからだろう」と述べている。
後でこの図録の感想は別に書きますが、この『秘密結社』というのには、いたく感銘を受けてしまいました。歴史の授業で今まで一度も聞いたことなかったですよ~。一方でカトリック側公認の印刷業者の元締めをやりながら、裏で敵対勢力側のアジビラなどを印刷してるなんて、まるで二重スパイみたいとか、その手の類みたい。

第二次大戦中にナチスに協力しながら、レジスタンスを支援していたアレと同じようなもんでしょうか? 小説「天使と悪魔」のイルナミティも真っ青ですね。ホント、事実は小説以上に面白い。ダン・ブラウン氏にネタ提供したいぐらい(爆笑)。学校の歴史でそこまで話してくれたら、みんなの歴史に対する見方も変わるのにねぇ~。

なお、プランタンというのは、16世紀にパリからネーデルラントに逃れて印刷業を開始した印刷業者で数々の素晴らしい初期印刷本を初め、大変有名な存在です。そこの作業場は現在、世界遺産にもなっています。

先日読んだ本「グーテンベルクの時代」で、宗教改革を促進した印刷技術発明の本当の意義を初めて知りましたが、本書ではそれを世界遺産にもなったプランタンという存在を通して再度教えてくれました。いやあ~、知れば知るほど歴史や情報は面白い!!

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ラベル:印刷 図録 書評
posted by alice-room at 01:06| 埼玉 ☁| Comment(2) | TrackBack(0) | 【備忘録A】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
>学校の歴史でそこまで話してくれたら、みんなの歴史に対する見方も変わるのにねぇ~


全くそのとおりですよね。
歴史が面白いのに気がついたのは大人になってから、旅がきっかけだったりしますから。。。

Posted by seedsbook at 2007年03月07日 17:20
旅行に出掛けると、歴史というのは過去ではなく、現在につながるものであることを実感しますね。本当に!

今を理解し、未来をより良いものにする為にも歴史って大切だと思います。自分で考えて、行動する為の教養としての「歴史」をこれからでも少しづつ、学んでいきたいです。ハイ!
Posted by alice-room at 2007年03月07日 22:25
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