羊皮紙とヴェラムの違い(一般的な百科事典等による)
羊皮紙は山羊や羊の皮から作られ、ヴェラムは仔牛の皮から作られる。
ロナルド・リードの「羊皮紙の性質と製法」より実は・・・先日時祷書を購入したのですが(まだ手元に届いていないのだけれど)、その際に装丁の部分でヴェラムやらレザレットやら、いろいろありまして・・・。だいぶ苦労して調べたりしたので、この点について大変興味がありました。本書を読んでやっと理解できました(満面の笑み)。
ヴェラムは羊皮紙の一部であり、ヴェラムは同時に羊皮紙でもある。
かつて羊皮紙は山羊や羊だけでなく、仔牛や豚、うさぎ、牛など様々な動物から作られていたという。羊皮紙が山羊や羊から多く作られたわかは、これらの動物がもっともありふれていて利用しやすかったこと、さらには皮の大きさがちょうど手ごろだったことが考えられる。
しかし、実際には僧院で彩飾写本を製作していた写字生には仔牛の羊皮紙(ヴェラム)が好まれた。仔牛皮から作った羊皮紙は丈夫で且つ表面が滑らかだった。このようなことから、写字室では仔牛の羊皮紙が用いられるようになった。
語源的にみれば、まずヴェラムVellumはフランス語のヴェランVelinから、そのヴェランは仔牛を意味するラテン語のVitellusやVitulusから生まれたと考えられる。リードはしかし、ヴェランはそれらの言葉だけでから由来するのではなく、皮膚を意味するラテン語Pelisが変化したとも考えている。この言葉が転訛してドイツ語や古代英語で皮膚や毛皮を意味するFellになったことは知られている。ラテン語のVitellusやVitulusが変化して中世フランス語ではVell、フランドル語ではVelなどと転訛していった。このような結果、英語ではヴェラムという言葉が登場したと考えられる。
羊皮紙作りには仔牛が使われるようになって、写字生達にその仔牛の羊皮紙が好まれたため、仔牛による羊皮紙が独立し、ヴェラムやヴェランという言葉が誕生したと思える。
でも、実際の使われ方としては、やはり羊皮紙とヴェラムを混同しているのが多い感じです。通販で古書を購入するときには、販売者がモノを知らないで(悪意ではなく)書いていることがあり、余計大変だったりします。海外から買うのは大変だなあ。
ケルムスコット・プレスの活字の基本となったゴールデン・タイプという名は7作目の「黄金伝説」に由来する。というのは、ウィルアム・モリスは、ジャンソンたちの文字を手本にして作った活字を組み、ケルムスコット・プレス最初の刊行本として、この「黄金伝説」を予定していた。しかし、漉かせていた紙が小さかったため、その紙の倍判のものができるまで「燦然たる平原物語、あるいは永世不死の国物語」などを刊行した。ああっ、私って無知なんだなあ~と思い知らされました。知り合いと話していたら、ウィリアム・モリスぐらい知っているよと言われてしまいました。私は名前ぐらいしか知らなかったのですが・・・(赤面)。
凝りに凝った本を作られていたようですが、その活字があの「黄金伝説」由来の名前だったとは。う~ん、だからゴールデン・タイプか。是非、その活字で印字した黄金伝説を入手したいもんです。一般向けに安く売ってないのかなあ~。手元にあるのは、ハードカバーで普通だったりする。でも、キャクストン版だと思ったけど?
日本の製本業界でも山羊の革は装丁に使う革としては、高級なものといわれているが、その中でもモロッコ革は最高級の革と看做されている。
モロッコ革:
植物タンニン鞣しを行い、銀面模様を粒状に硬く際立たせた革。モロッコのムーア人によって始められた言われる。用途は古くから、本の表紙、小物、高級靴の甲革など多方面に渡っている。
アランデル・エズデイルの「西洋の書物」よりこれもお恥ずかしいことに誤解してた。しばしばモロッコ革という名称は聞いていたものの、goatskinだとは思いませんでした。ああ~本当に恥ずかしい。革製品のバイヤーをしてた時に普通に扱っていたし、個人的にも好きで山羊革や鹿革、象革などいろんな素材のセカンドバックを持っていたのに、知らなかったなんて!
山羊革 Goatskin 16世紀から17世紀にかけてヨーロッパに輸出した国の名にちなんで俗にモロッコ革と呼ばれている。適切な処理が施されていると、蔵書室で使用する革として最適であり、それにその信用に十分答えるものある。 この革の表面には網状のしぼがかなりはっきり見えている。これを加工して同一方向に伸ばすと「平行しぼ」(幾重にも平行してうねっているしぼ)と呼ばれ、これを二つの別方向に伸ばすと「交叉しぼ」や「ピン・ヘッド」と呼ばれるものになる。
いわゆるモロッコ革と呼ばれるものの中に羊革製のものがあるが、質ははるかに劣り、そのほとんどが製本材料として使えないものばかりである。きわめて粗悪なものの一つに数えられている「ペルシャ・モロッコ革」となると、真のモロッコ革の良い持ち味は全然備えておらず、これなどは絶対に製本材料として使ってはならない代物といえる。このペルシャ・モロッコ革はインド山羊とかインド羊から作られたものであり、鞣し方は粗雑である。
そうそう、確かにゴートスキンではしぼがしっかりついていて、落ち着いた触感あったなあ~。もっとも今でも私は、最高に軽くて味わい深い鹿革が一番好きだけどね。それなのに、今あるのはフィレンツェで買い叩いたバックしかないなあ~。チュニジアで買ったキャメル革のバックは、友人にあげちゃったし、他のは全部中古なのにかなりの値段で売ってしまったから。
おっと、話がそれましたが本書ではよほど革について詳しくないとしらない銀面の話とかまで出てきます。店の売り子さん(専門店で!)とかでは、質問しても答えられる人はいません。勉強になりますよ~。いろいろな面で。ただ、なめし方についてももっと説明が欲しかったなあ~。と言っても本書は革製品の解説書ではなく、本の話だから仕方ないか。
それはおいとくにしても、本書の懇切丁寧な説明は素晴らしいです。装丁などの知識も含めて、愛書家を自認(自称?)する人ならば絶対に押さえておくべき基本事項でしょう。これは使える本だと思います。勿論、これぐらい常識という方もいらっしゃるでしょうが、私にはとっても有益な本でした。為になる本です。あと、問題は値段だけですね。これも半端じゃなく高い(涙)。
【目次】西洋の書物工房―ロゼッタ・ストーンからモロッコ革の本まで(amazonリンク)
第1章 書物の考古学
第2章 西洋の紙「羊皮紙」
第3章 本の誕生と製本術
第4章 ケルムスコット・プレス
第5章 モロッコ革を求めて
第6章 フランスの革装本
第7章 天金と小口装飾
第8章 花切れ
第9章 マーブル紙と見返し
関連ブログ
「美しい書物の話」アラン・G. トマス 晶文社
ラベル:書評
また書かせて頂きます。
この本を読んだことがありますが、
よく書かれています。
しかし、学校で言えば、小学校レベルで
基本中の基本ですね。
簡単な読み書き、簡単な四則計算みたいな
感じで、深くはありません。
もっと高度であってもいいとも思います。
私的にはこれよりも高度な知識を求めています。
しかし、悲しいかな、日本では、これでも一杯一杯かも知れません。
貴田はケルムスコット・プレスについて記述していますが、
彼はケルムスコット・プレスについては、他の人のように
絶賛はしていません。私もケルムスコット・プレスについては
美しいとは思いませんし、もしモリスがフランスで生まれていたならば、
まったく無名の人で終わり、彼の本もゴミとして、捨てられていたと思います。
ゴミとは極論かも知れませんが、評価は一切されないと思います。
フランスの装丁美術、装丁工芸と比較すれば、
別に美しくも無く、平凡な取りに足らないレベルです。
「装幀の美―アール・ヌーヴォーとアール・デコ」(アラステール・ダンカン著)
という本が翻訳されて、出版されましたが、その本を見てみれば判ります。
ここの世界一美しい本が列記されています。装丁されてから80年、100年
以上たっているのに、昨日装丁されたように、新品同様のままです。
外国語教育における英語の地位のように、日本には過剰な英国礼賛があり、
どうしても、とっかかりやすいのは英国になってしまうようです。
過剰な英国礼賛が跋扈し、それにより、過剰にケルムスコット・プレスを
賞賛され続けました。しかし、実際、「装幀の美―アール・ヌーヴォーとアール・デコ」に
写真で、紹介されている、フランスの装丁美術、装丁工芸の粋を集めた本を
見れば、勝負は明らかです。
町に、もし一軒しかラーメン屋が無ければ、どんなに不味くても、高くても
そこそこ客が入るものです。
あるいは、その店一軒しかラーメン屋を知らなければ、そこにいくしかありません。
大学の工学部には女はいません。
男100人に対し、女は1~2名ほど、そこではどんなブスな女でも
モテモテだそうです。実際に工学部の男に私は何度か話を聞きました。
もし、世界にフランスという国が無ければ、確かにケルムスコット・プレスは
美しい本に入るかも知れません。しかし、現実にはフランスは存在し、
フランスの装丁美術、装丁工芸は”極限まで高度”です。
革の吟味、マーブル紙、装飾紙の吟味、花切れ、革のモザイク、
優秀な装丁職人、各地にある、装丁美術学校、隙がありません。
正に完璧です。
貴田のこの本は、よく書かれています。
装丁とは何ぞやという時に格好の答えになり得る本です。
しかし、フランスにはもっと的確で、正確に装丁について書かれて本が
無数にあるはずで、それを翻訳して出版して欲しいと思いますが、
まあ、日本のこの現状では無理でしょう。
先述した本も既に絶版ですし、需要は皆無ですので。
貴田は頑張っています。フランス圏の装丁芸術を学んだ先駆者で
栃折久美子という人物がいますが、彼女や同様にフランスで
実際に装丁芸術を学んだ人物がもっと、本書のような本を
出版して欲しいと思いますが、まあ、思うだけ無理でしょうね。
フランスの装丁美術は奥が深いです。
誰が装丁したか?無名か?施行の名が銘記してあるか?
或いは、有名でも数物の工房作か?
装丁の種類は?半革か、総革か?革の種類は?モロッコか
シャグランか?傷皆無の良い革か、悪い革か?マーブル紙か?
装飾紙か?何部限定か?挿絵は手彩色か否か?保存状態は完璧か・・・
書けばきりが本当にないくらい、差別化が出来ます。
それによって、価格差が激しい。
また仮綴と装丁済みの本でも価格差が大きいです。
「装幀の美―アール・ヌーヴォーとアール・デコ」(アラステール・ダンカン著)は
全国図書館で借りられます。もし、そこになくても全国の図書館のどこかに
ありますから、時間はかかりますが、取り寄せてくれます。
その本に列記してある本は、どれもが最高の本です。もしも市場に出れば、
安くて何百万単位になるはずです。装丁されてから、
100年以上経過している本がありますが、
傷もなく、モロッコ革も昨日装丁された様に、
美しく輝いてます。正に完璧です。
いろんな意見があると思いますが、どうしても気になったので、
書かせて頂きました。
是非、今度探して読んでみたいです。情報どうも有り難うございます。
私の場合は、本を読むので精一杯なところですが、少しづつでも書物愛の楽しみを深めていきたいと思っています。
とりあえずは、写本に関する本とゴシック建築の本でも洋書で集めようかと考えています。
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たくさんの記事にコメントどうも有り難うございます。すみません、全てにコメントできなさそうですが、全部のコメント読ませて頂きます。