2007年03月18日

「謎の蔵書票」ロス キング 早川書房

libris.jpg

普通に紹介されている粗筋を読んだ限りでは、それほど面白そうとは思えなかったのですが・・・やっぱり本は読んでみないと分からないものですね。本書は私が読んだ中でも歴代ベスト10に余裕で入るぐらい面白い本でした。まだまだ、私の知らない素敵に面白く、魅力的な本ってたくさんあるんでしょうね! 最近、出たばかりで新しい本なのにこの本知らなかったもんなあ~。頑張って、もっといろんな素晴らしい本を是非とも探したいもんです、ハイ!

できれば、原書で読みたくなったので手元の積読本がいくらか消化できた時点で洋書で読まなければって強く思うほどの本です。こういう本でしょうね、自分の愛読書としてオリジナルの装丁をして本棚に飾っておきたくなる、そんな素晴らしい小説です(うっとり・・・)。

さて、粗筋。
舞台は17世紀、清教徒革命後に王政復古に至ったロンドン。そこで稀稿本などを商う古書店主が、いかにも訳有りで零落しつつある貴族から、奇妙な書籍探求の依頼を受ける。

次第次第に明らかになる依頼主の貴族の素性。錬金術師と魔術師の街、プラハにおいてルドルフ2世の下、世界中の稀稿本(とりわけ錬金術などのオカルト文献の収集で有名)を集める仕事などもしていたらしい。その貴族が残した世にも稀な蔵書の一つを探す途中で古書店主は次々と事件に巻き込まれる。

全読書家垂涎の的となるような、珍書稀書が続々と登場する魅力には、なんとも抗し難いものがあります。読んでいる途中でも、何度も現実を離れてその時代のプラハに行っているような気になりました。

何年か前に私も実際にプラハに行きましたが、そこで経験したことは、この小説に出てくる時代とほとんど変わず、現在もそのままに残っています。プラハに行き、プラハ城に行きさえすれば、当時錬金術を行っていた部屋や器具、魔女狩りの処刑に使った道具などが
未だに展示されていたりします。

うちのブログのトップ頁にある、ストラフフ修道院付属図書館の写真にあるように、たくさんの怪しげな本がずらりと並んでいる姿も往時と変わらないのではないでしょうか。天体観測儀(アストロラーベ)や博物学的な資料などもいっぱいあったし・・・。

また、プラハに行ったことがなくても、書籍に関する知識があれば、本書はやはり存分に楽しめると思います。但し、ヘルメス文書、エメラルド板、アグリッパ(私もようやく思い出したけど)、パラケルスス等々の単語を聞いて「ああ、あれね!」っていうぐらいでないと読んでいてかなり辛いのでお薦めしないし、できません。 

良くも悪くも読書を厳しく限定(選別?)してしまう本だと思います。歴史的に有名な書物のタイトルを聞いて、読んでないまでもその内容がすぐに想像できないと本書の衒学的な面白さに共感できないと思います。また、最低限度の歴史的素養も押さえておかないと、本書が舞台とする当時のロンドンとプラハの世界情勢の緊迫感とそれが故の稀稿本の遍歴が臨場感をもって感じられないかもしれません。

イギリス人のコアな愛書家なら、まさにその対象としてうってつけでしょうが、日本人でこの手の本に感動して涙しながら、読む人はごく少数派のような気がします。逆に言うと、いろいろなことを知っていれば、知っているほど、本書に書かれている内容の何倍ものその背景から、より深く楽しめるようにできている感じがします。

本書は一から十まで解説しません。読者が前提としてこれぐらい知っているよね、それがスタートです。だからこそ、断片的に描かれた単語や部分から、知っている人ならば本書でごく一部しか語られない裏側が自然と推測でき、勝手にふむふむと頷きながら、じっくりと読み進めて行けるのです。おそらく、私も4、5年前なら今ほど本書を堪能できなかったと思います。特に、グノーシス系やオカルト系の文献をある程度知っていないと、この独特の世界観を自らの中に鮮やかに再構築するのは難しいかもしれません。

実は、いろいろともっと書きたいことがあるのですが、ネタばれになってしまってはいけませんのでこれ以上は書きません。しかし、本書の種明かしの部分について、うちのブログでも幾つか採り上げています。大変面白い話ですので、ご興味のある方、探してみて下さいネ。

「ナインズ・ゲート」と同等、あるいはその上を行くまさに書痴やビブリオマニア向けの本かもしれません。その筋の方、是非&是非どうぞ!! 普通の読書家の方には、ちょっと辛いかもしれません。

謎の蔵書票(amazonリンク)

関連ブログ
ナインズ・ゲート デラックス版(1999年)ジョニー・デップ主演
「呪のデュマ倶楽部」アルトゥーロ ペレス・レベルテ 集英社
魔女と錬金術師の街、プラハ
「THE GOLD 2004年3月号」JCB会員誌~プラハ迷宮都市伝説~
バチカン秘蔵資料がインターネット上に公開
「錬金術」沢井繁男 講談社
「錬金術」セルジュ・ユタン 白水社
「錬金術」吉田光邦 中央公論社
「悪魔学大全」酒井潔 桃源社
「大聖堂の秘密」フルカネリ 国書刊行会
「西洋暗黒史外伝」吉田八岑 桃源社
posted by alice-room at 10:22| 埼玉 ☀| Comment(12) | TrackBack(0) | 【書評 海外小説A】 | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
理解可能かどうかは別として、この手の内容には惹かれます。
読みたいですね。
Posted by seedsbook at 2007年03月21日 00:51
seedsbookさん、私の思い入れが多過ぎて難しそうに思われてしまったのかもしれません。私の書評が誤解を招いたかも?

普通に読む分には、全然問題なく読めるかと思います。オカルトっぽい稀稿本もありますが、そればかりではなく、一般的な稀稿本の書名が乱れ飛びます。但し、それは雰囲気作りでもあり、知っているとよりその独特の雰囲気が楽しめるかなあ~っていう感じです。

その手のものに抵抗感さえなければ、きっと楽しめると思います。ナインズ・ゲートと似ていると言えば、似ているかも? 実は、私の知り合いも既に読んでいて大変気に入ってましたが、その人は普通のミステリーとして十分に楽しめたと言ってましたので。ただ、『書籍』を愛する気持ちがないと単なるミステリーとしては、楽しめないかも?っていう点ぐらいでしょうか?

seedsbookさんなら、きっと楽しめると思いますのでお薦めですよ~(笑顔)。
Posted by alice-room at 2007年03月21日 08:50
またまた面白そうな本の紹介ですね。
こちらで取り上げられた女教皇ヨハンナとかは
アマゾンで購入。
理解度は?ですが、読みたいです。
でも、もうスイスに帰ってきてしまいました。
日本ではゆっくりブログみてる暇がなかったので。
悔しい!
買った本は船便で送ったから、読むのはまだ暫く先になりますが、この本も入れたかった。
因みに船便27キロもありまして、玄関へ移動するとき肩を捻挫したらしく今辛いです。
(全部本ではありません、念のため?!)
Posted by OZ at 2007年03月27日 06:37
OZさん、お疲れ様でした。久しぶりの日本はいかがでしたでしょうか? 

と、それよりも捻挫大丈夫ですか? あまり動かさないようにして早くよくなりますように。27キロですか・・・私は持ち運びたくない重さですね。(ほらっ、「色男、金と力はなかりけり」と言いますし。誰が色男だ?ということは置いといて)でも、全てではないにしろ本も結構多いのでは?本って本当に洒落じゃなくて重いですよね。ご自宅のお部屋が傾かないことを期待します。

おおっ、ヨハンナ。きっと楽しく読めると思いますよ~。学問に関する情熱には頭が下がる思いがしました。他の本も楽しみですね。

この「謎の蔵書票」もきっと堪らないものがありますので、OZさんお好きなような気がします。次の機会に楽しみにしておいて下さいネ。本は逃げませんので、たぶん・・・。

それでは、捻挫くれぐれもお大事に。 
Posted by alice-room at 2007年03月27日 19:20
プラハ旅行を前にして、プラハ関連の本を読んでいます。
難しい本だと頭を通過していってしまうので、小説なら大丈夫かと思い借りてきました。
まだまだ本や歴史の知識が足りなくてアリスさんのようには楽しめませんが。ちょっと「薔薇の名前」みたいですね。(あの本も相当難しかったので斜め読み・・・)
プラハが錬金術の街だったなんてワクワク。
Posted by 大阪のマリア at 2007年03月29日 16:47
横レス失礼。
大阪のマリアさん、プラハ行かれるんですね。
すごくいいですよぉ。
歩いて回れる町なので市電のチケットとか別に
必要でないと思います。
ま、お城に通うなら別でしょうが。
お城も帰りはブラブラあるくのが楽しいです。
黄金小路にあるお土産やさんの栞がお勧め。
皮製の紐の両端にフィギュアがついているもので、これがすごくかわいい。
ダッキーと骨とか、ゴーレムちゃんとダビデの星とかりんごとりんごの芯とか。
値段も手ごろでお土産にも最適。(場所もとらないし)
おっと余計だったかもしれませんね。失礼。
Posted by OZ at 2007年03月29日 17:35
大阪のマリアさん、私もかなり怪しい知識で勝手に分かったような気になっているだけだったりします。なんというか、独特の怪しい雰囲気に酔ってしまっているだけかも?(自爆) なんか、好きなんですよ~。今日、購入した英語版まで届いたぐらいです(苦笑)。

でも、この本を読むと是非ともプラハに行きたくなりません?(笑顔) OZさんもおっしゃってますが、プラハはいろんな楽しみができると思いますので、是非&是非楽しんできて下さいね。私の場合は、午前と午後の2回プラハ城に通いつめていました。四日間の間、毎日。でもでも、飽きません。私が行ったときには、プラハ城内の歴史ある(=築600年とか700年だったかな?)教会でクラシックコンサートをやっていました。お代は500円ぐらい。演奏者20人に聴衆が30人ぐらい。いやあ~最高の雰囲気で素敵な演奏を堪能した覚えがあります。プラハ城内にはカフカがいたという住居もあるし、錬金術の部屋などまでありますよ~。本当に楽しんできて下さいね。

そうそう、OZさん横レス大歓迎です。共通の関心のあるテーマですし、せっかくの機会ですから、どんどん利用して下さいませ。

そうそうプラハ城からの帰りだったと思うんですが、古書店もあったような気がするんですが・・・。アレ?スペインだったかな?

街中の古書店ですから、それほど特殊な本を扱っているわけでもないと思うのですが、独特の雰囲気があって、見つけた時すっごく嬉しかったのを覚えています。アレレ?どこの国だったか???
役立たない情報ですみません。いろんな国で本屋や図書館、古書店を覗いているのですが、記憶力が悪い、つ~かないもんで役に立ちません(悲しい)。
Posted by alice-room at 2007年03月29日 19:25
>OZさん

情報ありがとうございます。
ゴーレムなんてステキ!そういうお土産もの、大好きです。あれこれいろいろ買いたくなってしまいそう。
これまでほとんど知識がなかったので、最近いくつか本を読んだり、チェコ映画を見たりとプラハについて少しは調べているのですが、中世まで手が回りませんでした。

>アリスさん

千野栄一「ビールと古本のプラハ」という本にも、たくさん古本屋さんが出てきました。ちょっと古い本です。
本は好きだけど我が家にはスペースがないし、どうせ宝の持ち腐れ。字も読めないし(笑)
ところで今ユーロ高に連動してチェコのコルナも高くなっているそうで・・・ショックです。
Posted by 大阪のマリア at 2007年03月29日 22:31
>千野栄一「ビールと古本のプラハ」
面白そうですね。機会があれば読んでみたい本ですね。そうそう、アルコールがお嫌いでなければ、プラハのビール本当に美味しいですので是非!! 私は昼と夜の2回、確実に飲んでました(笑顔)。レートが良くなるといいですね。あと私の時は、共産圏時代の名残があって物価がすごく安かったのを覚えていますが、今はどうかな?
Posted by alice-room at 2007年03月30日 20:26
私が行ったのは去年の11月でしたが、食べ物に関しては安かったですよ。
飲み物も。
食事はイマイチ(のところしか行かなかったからなのかどうかは不明)でしたが、美味しかったのがケーキ等のデザートと紅茶。以外でした。
娘と二人の旅行だったのでビアホールには足を踏み入れませんでした。残念だったかな。
Posted by OZ at 2007年03月31日 05:08
ゴーレムや錬金術について簡単な説明が読みたくて、荒俣宏「ヨーロッパ ホラー紀行ガイド」を読みました。読みやすくて良かったです。こんな話、普通の観光ガイドには載ってないですね。

ビールはぜひとも味わいたいと思います。
千野さんの本には、文学者や政治家が来るという「黄金の虎」というビヤホールの話が載っていました。でも常連でないと相手にしてもらえないらしいです。
Posted by 大阪のマリア at 2007年03月31日 20:04
大阪のマリアさん、そのビアホールってすごく有名なやつじゃないですか? 私も是非行ってみたかったんですが、昼間の観光で疲れ果て毎晩早くにぐっすり寝ていたので結局行けませんでした。同じくチェコの有名な人形劇も見たかったんですが、これも夜だったから。なかなか時間が合わすのが難しかった覚えがあります。
もっとも、夕方から夜まで寝ていたので真夜中に目覚めてしまい、深夜のプラハを徘徊していたのは、なんとも楽しい思い出ですけど(苦笑)。

OZさん、普通のレストランで提供されるビールでも十分にいけますよ! 今度行かれる際には、ランチの時にオーダーしても良いかもしれないです。

お店でハムとかチーズとかいろいろ売っていたのですが、塊が大き過ぎて一人旅では食べれなくて残念だったのを覚えています。ヨーロッパとか旅行していると結構あるんですけどね、この手の悔しい思いが。スーパーとかなら、ある程度の小さい単位で売ってるけど、個人商店だとなかなか微妙で買いにくいんですよねぇ~。
Posted by alice-room at 2007年04月01日 19:16
コメントを書く
コチラをクリックしてください

この記事へのトラックバック