ヴェネツィアやメディチ家が西欧で東西貿易を恩恵に浴して繁栄したのと同様に、シルクロードの中継国がいかに儲かったか、改めて強く感じました。以前にブログのどこかでも書いたような気がしますが、古来よりラピスラズリを青の染料として使用するのは有名ですが、まさに宝石であるラピスラズリは当時アフガニスタンの一部でしか採れないまさに貴重な鉱物資源であり、金にも匹敵する価値があったそうです。その青を使って西欧絵画では、聖母のあの青の衣にしか使われ無かったものが、今回の石窟では理想郷としての天を表す色として天井壁画に使われています。本当に目にも鮮やかなブルー。これだけの時代を経ても、色褪せない色彩には驚かされます。
それ以上に、こう胸にぐっときたのが鳩摩羅什(くまらじゅう)。サンスクリット(古代インド語)で膨大な数の仏典を中国語に翻訳した人物。世界史の教科書では一行にも満たない記述しかなかったことを思い出すが、この人物がいたからこそ、仏教が中国で広まり、中国を経て日本に伝わった仏教の大元のさらに元にあたるキーパーソンだったりする。
この番組を観るまで全く知らなかったが、仏教関係の言葉としてよく聞き、通常の日本語にもなっている「色即是空、空即是色」って、この人物が仏教の中国語訳作成にあたり、新たに生み出した用語だったそうです。仏教の示す観念をシンプルに表現し、より民衆に広めていく為に、自らの苦難を踏まえたその言葉には深い重みがあります。
この鳩摩羅什という人は、オアシス都市の王子として生まれますが、王位継承争いから逃れる為に若くして仏教僧として修行を始めます。やがて、彼のいた王国は侵略を受けて彼自身も囚われの身となり、長く苦しい虜囚の人生をおくることになります。
僧侶としての名声も高かった故に、占領軍はあえて支配力を示す為の道具として、彼に僧としてはあるまじき行為に従わせ、完全なる屈服をさせようとします。若い女性と強引に結婚させようとし、密室に閉じ込めたりする一方で、彼には自殺も許されず、彼が従わなければ、女性を殺すとさえ脅すわけです。やがて、彼は屈服し、僧でありながら僧ではない、破戒僧となってしまうのです。
信仰に篤く、名高い僧侶である彼にとってどれほどの苦悩と屈辱であったか、私には想像がつきませんが、それでも捕虜として彼は生き続け、期せずして中国語にも堪能になっていくのです。晩年、彼が長安に連れていかれ、そこで仏典の漢語訳を成し遂げるのですが、それを可能にしたのもその苦悩とそれに耐えて生き抜いた彼の人生故なのでしょう・・・。
歴史の教科書には、一行も触れられない背景です。こういうのを知らないと歴史なんて無用学問なんですけどね。人名や年号に意味があるのではなく(日本人が西暦で日本史の年号を覚えるくだらなさには唾棄すべきものがありますが・・・)その背景や原因・結果・対処法等こそが歴史を学ぶ意味だと思うのですが・・・。
まあ、それはおいといて。スゴイですね、壮絶な生き方! こういう人の事をもっと歴史の勉強とかで学びたかったですね。日経の私の履歴書で読んでみたいくらい。他にも「共命鳥(ぐみょうちょう)」もこの人が仏典に導入したそうです。ご存知かな~?体は一つで頭が二つあるという想像上の鳥で極楽にいるといわれています。そして、この鳥の伝説は、鳩摩羅什が生まれて土地に伝わる話だそうです。まさにへえ~って感じ。このTVでは特に言ってませんでしたが、この鳥は確か上野の国立博物館の所蔵物にありました。何度か見た見た覚えがあります。あそこも毎月行ってるし・・・、さすがに覚えている。
いろんな意味で感慨深い番組でした。そうそうあと最後にいい事言ってます。「煩悩、是道場(ぼんのう、これどうじょう)」。インドでは煩悩を鎮めることにより、悟りを開こうとするが、現世にまみれて苦悩に次ぐ苦悩を経た彼は、その煩悩に悩むことこそが、悟りへと至る道であり、道場であると捉えるのです。マグダラのマリアにおける悔悛・懺悔ではありませんが、人は苦悩することによって初めて人間本来の持つ素晴らしい人間性(=仏性)を理解するのかもしれませんね。手段は違えど、宗教に共通する考えのように感じました。親から寺を相続し、半年の修行で僧になって、ベンツ乗り回してる現代の破戒僧達には一生到達し得ない境地でありましょう、きっと!
いやあ~、久しぶりに良かった。こういう番組は好きです。民放には100年かかってもできない番組だし、いい意味でNHKらしいものでした。
おっ、今TVつけたら昔のシルクロードをNHKでやってます。そうそう、毎週そうなんだよね。比較できるようにやってるね
【補足】
「極楽」という単語もこの人の作り出した用語で、楽を極めるということからきているそうです。
京都の何寺だったかな? 鳩摩羅什が故郷から中国まで背負って持ち込んだ仏像が、な・なんと日本の京都の寺に国宝としてあるそうです。まさにへえ~の世界。今度、市内だったら行ってみようっと。
共命鳥(ぐみょうちょう)~NHKサイトより抜粋~
鳩摩羅什が訳した阿弥陀教に書き加えられた、想像上の動物。「極楽」という世界を表現する為に引用され、サンスクリットの原典には存在しない。共命鳥は、シルクロードに伝わる頭が二つに胴体が一つという伝説の鳥で、いつも互いにねたみ、いがみ合っていたが、ついに一方が他方に毒を飲ませ、共に死んでしまったという。
【追記】
鳩摩羅什が破戒僧になってことについて、NHKがもしかしたら、恣意的に歪めた番組を放送している可能性があります。あるいは私が資料として読んだ本が間違っているのか不明ですが、騙されたような気がします。それはこちらのブログ記事に書きました。どなたか、事実をご存知でしたら、教えて下さい。
関連リンク
東京国立博物館 共命鳥の展示してある所
NHKスペシャル公式サイト
僕のブログからTBさせていただきました。
シルクロードとかって教科書で勉強してた時は全く興味なかったんですが、このごろちょくちょくあちこち調べていたところでした。
私もその番組、見ればよかったなあ。
ラピスラズリ、日本でもよく使われてますよね。
でも日本産より外国産の方が発色がいいという話は聞いたことがあります(地方にもよると思いますが)。
でも偉い日本画家の人ほど、どこそこ(日本国内)でとれた瑠璃しか使わないなんていう傲慢な人もいるらしいですね。
でもまあ、今の絵描きなんて、そんなものかもしれません。
ラピスラズリって本当に貴重だったみたいですね。あと雨宮さんが言われているのってギャラリーフェイクにも似たような話がありましたよ。題名忘れてしまいましたが、藤田の父親が贋作者として業界から抹殺されてしまった話。面白いので機会があれば、お薦めです。
私も鳩摩羅什のエピソードは昔読んだ本と違っていたのであれ?と思いました。
確か、女と一緒に住まわされて色欲に負けた、という風に書いてあったように記憶していたので。
ただその記憶もあやふやなので、ほんとは強要されたのかもと思って納得してしまいましたよ。その方が説得力がありますもの。
もし、諸説があって、どれが正しいのかわからないのであれば、断定してしまうような演出の仕方はよくないですね。
もちろん、どちらの説が正しくても、鳩摩羅什の思想と偉業が否定されるものではありませんが。
でも、本当に鳩摩羅什がいなければ中国における仏教の興隆はもっと後の時代や、違った形になっていたのかも知れませんね。未だに彼の残した功績は燦然と輝き、その思想は脈々と息づいているのだと思います。それも含めてもっといろいろ知りたいですね、ホント。
コメント有り難うございました。