全部ではないが構成としては、図版が右1頁にあってその説明が左1頁にあるものが多く、見易いし、分かり易い。基本的に当時の風俗絵を説明するのが主題で、個々の図版を説明しつつ、江戸吉原全般の風俗も説明する形であり、体系的・全般的な知識を前提として持っていると更に味わいがありそう。但し、その知識が無くても問題なく楽しめるし、勉強になる本です。
文章はシンプルでいいのですが、説明が足りな過ぎるところもしばしば散見される。当時の文章や川柳のたぐいが引用されているのは、好ましい一方でその現代語訳無しでは正直辛い。意味がよく分からないところも多々あった。ただ、基本的にはおおよそ分かりますけどね。そこだけは一般向きとして苦しいかも?
それと。入っている図版で気になったこと。教育的な配慮かなにかしりませんが、別に枕絵じゃあるまいし、猥褻とは思えないような箇所を著者の独断的な配慮で、図版から一部削除しているらしいことが書かれています。あくまでも歴史的な資料として図版を入れているのに、それを勝手に削るというのはいかがなもんでしょう? それだけ、資料的な価値は下がると思うのですが…。モノクロなのも残念ですね。
とまあ、不満はあるもののコレはお買い得な資料かもしれませんね。分かり易くて非常にいいです。手元に置いといて損はないですね。これは正解。遊女と遊ぶ値段まで書いてあり、勉強になります。10分そこそこでいくらとか…、通常ではあまりにも短い時間で事を為すのに足りない為、2・3倍の料金がかかったとかまで書かれてあります。
あと、一旦馴染みになると他の遊女のところにおいそれと遊びに行けないそうです。廻状みたいに、他のところに行ったら自分のとこに戻すようにとかは言うに及ばず、帰りを待ち伏せて身柄を拘束し、ネチネチと詫びるまで監禁したとか。いやはや大変だこと。他方で相手に一途なことの証明に名前を入れ墨したり、小指まで落として血で書かれて誓文もらったら怖いでしょう。やはり。
他にも、吉原の季節ごとの行事や遊女の私生活。妊娠や堕胎、時代劇でよくある駆落ちやせっかんとかにも頁が割かれています。個人的には下記にもメモした羅生門河岸とかがなんか笑えて気に入ってしまいました。今でもあったら、ひやかしにすぐ行ってみたいぐらいですね(笑顔)。
あとは用語集よろしく、メモ。
○初会(1回目)、裏(2回目)、馴染み(3回目)。裏の時には裏祝儀を遊女の他、若い者に与え、若い者はお返しに菓子、又は蕎麦や寿司を持ってきます。馴染みは馴染み金を出して初めて馴染みになれ、遣り手にも出しますが返しは無し。
○惣花は遊客が妓楼の使用人全員に出す祝儀で、床花は3回目に遊女に渡す祝儀
○仕舞は、紋日などに揚代金を払って遊女の一日を借り切ること
○名代は、客が登楼(店にくること)しても馴染みの遊女がさわり等の病の時に、妹分の遊女が代理をすること。通常、名代には手をつけませんが、揚代はしっかり馴染みの料金をとられたそうです。
○猪牙船(ちょきぶね)。吉原へ向かう際に使う船足の速い船。
○羅生門河岸(江戸町二丁目から京町二丁目)。通る客の髷をつかんで無理矢理にひっぱり揚げたり、腕をつかんで話さないので腕が抜けるとのことから、腕を切り落とした羅生門の鬼に引っ掛けた名ですね。現在の呼び込みかボッタクリみたい(笑)。でも、それで客が御代を持っていないとボコボコにして路上に投げ捨てたそうですから、ほんとそっくり。そうそう、一説には、「茨木屋」という見世があったとも言われます(何故かは、分かりますね?)
○亡八。楼主のこと(オーナー)で仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌の八つを職業柄忘れていることから。
○地廻り。吉原付近の職人、遊人のこと。もっぱらひやかし専門。
【目次】
登楼
廓内
妓楼
遊女の生活
年中行事
遊女の風俗
吉原風俗
江戸吉原図聚(amazonリンク)
関連ブログ
「古書法楽」出久根 達郎 中公文庫
たぶん,参考書として買ったんだと思います。
江戸時代の文献を読むときにはかなり重宝する本ですね。