「古書街を歩く」紀田 順一郎  新潮社

何度か名前だけはうちのブログでも出していた紀田氏の本です。いかにも紀田氏らしい古書に対する愛情あふれた一冊といえる作品(実は、この本の一部は読んだことあるんだけど)です。通常、本といった時に考えられる新刊本の世界とはまた一味違った、日常のすぐ側にある異世界とでも呼ぶべき奥深い古書の世界を垣間見せてくれる素晴らしくガイドブックになっています。

元祖オタクといったところでしょうか。まあ、最近の先生は知りませんが、昔は立派な学者先生と言えば、即ち、ある種のオタクで社会学系ならひとかどの読書家であったように思いますが…? それはさておき、文筆業を生業にする著者がブックオフしか知らない人達には想像もつかない魔界をご紹介…。

全集本を集めると誰もが必ず経験する1冊欠。それがない為に、全てが揃わない。業界で「キキメ」と呼ぶことを知ったのも本書からでした。安いからと中途半端にバラで揃えるのって本当に難しい。下手したら、キキメの一冊が高くてかえって揃いを購入した方が安い場合もあるので泣いても泣き切れないです。実際、今もそうなりそうなものがあり、頭を痛めているのでひとごとではない(涙)。

あと初版に希少価値を見出し、2版以降のものと全然変わらないのにその何倍ものお金を払う人々とか。男性らしい初物志向とバッサリ斬っているのは痛快でもあります。

そうそう復刻の話も興味深かったです。元学者さんが学者の研究が資料探しの為に大幅な時間を消費させられている状況を鑑み、資料検索の効率化の為に、百科全書的な資料を個人で作ろうとする話があり、これにはさすがに胸を打たれた。だって元東大の先生らしいが、その百科全書作成の資料文献の為に、田畑を売り飛ばし、病床の布団さえ、債鬼(借金取り)に差し押さえられたというのがすごい。生半可な決意ではやれないですね。まして退官後、個人でやるんですから。その状況が新聞に報道されてパトロンが現れ、ようやく完成したそうですが、本はなかなか売れず、更に苦労を重ねます。

どこぞの頭のネジが飛んだ保険会社がゴッホだか誰だか知らない外国の人の絵をたった一点購入する為に、50億円以上も出していた話がありましたが、彼らには死んでも文化(貢献)なんて分からないでしょうね。購入した後に、ルーブルにでも寄贈するなら、まだ立派ですが…。

おっと、話がそれましたがその作品は絶版になっていたのを、とある出版社が学問的価値を正当に認め、また著者の心意気に感じて復刻を果たしたそうです。その時に、著者の了解を得る為に電話すると…、生活補助を受けながら、ヘルパーに介護を受けながら生活されていたそうです。

まっ、日本なんてそんなもんなんでしょう。志のある人間がそういった状況に置かれるとは…。さすがは経済大国ですなぁ~。ただ、かろうじて救われる話として、売れ行きが不安視されたその全集は予想外に売れ、出版社も倒産覚悟の決意は無用に済んだとともに、著者の再評価がなされ、あちこちのマス・メディアでも採り上げられ正当な評価を得られたそうです。良かった&良かった。

こんな感じでいろいろと本にまつわる話が出てきます。この中で紹介される本については、読みたいとか書いたいという興味はちっても湧きませんが、人間のドラマとしては非常に面白いです。特に古書店を回るのが好きな人には、お薦めです。つまんないミステリーや推理小説よりもは、はるかにリアルで面白いです!!

古書街を歩く(amazonリンク)

この記事へのコメント

  • うりこ

    これ,読みました(笑)
    ジャンル一覧を見て,「お,渋いね」と思ってクリックしたら,こちらのブログでした。多分,本棚の本が3割くらい被っているんじゃないかって気がします。ブログには軽めの本をアップするようにしているんですけど(アフェリエイトを付けてるから)。
    『古本収集十番勝負』創元推理文庫
    これ,面白いですよ。
    2005年05月19日 09:46
  • うりこ

    追記です。
    こちらのブログがすっかり気に入ってしまったので,濃さでは足下に及ばなくて恐縮ですが,お気に入り登録させていただきました。
    また遊びにきます。
    2005年05月19日 10:07
  • alice-room

    うりこさん、本の紹介有り難うございます。タイトルだけは知っていますが、まだ読んでいないので今度注意してみます。紀田氏の本ってどれもいいですよね。ホント。

    ここに書かれている本は今年に入ってからのですから、きっと蔵書を書き連ねるともっと重なるかもしれませんね(笑)。もっとも、山積みになっている段ボール10数箱を開ける気力さえありませんが…。

    うちのブログを気に入って頂き有り難うございます。好き勝手に且つ無造作に読んで、私見による独善的な感想ばかりで恐縮ですが、素直な感想という点だけは心がけていますのでおおらかな目で見てもらえると嬉しいです。

    駄文が書き連ねてあって、ほんとお見苦しいのですが、これからも宜しくお願いします。
    2005年05月19日 20:10
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